BY地点:本当はもうわかってるくせに

 私は懺悔をしに来た。


「あら、私に何か用かしら」


 私は今、双人研究所にいる。双人研究所の所長である双人博士に話したいことがあるからと頼み込んで、ここにいるのだ。


「双人博士、急なことを言ってすみません……」

「ええ、別にいいのよ」


 私は別に義肢をつける必要はない。ただ、幼なじみのさとりちゃんに謝りたいのだ。でも、そんな勇気は私にはない。だから、せめて双人博士には伝えたかった。


「それで、何が言いたいのかしら?」

「…………実は、その、さとりちゃんに言わなかったことがあるんです」

「へぇ」


 双人博士は興味が湧いたのか、私の話を真剣に聞いてくれるようだ。


「それは、祥子ちゃんについてです」

「若木祥子?」

「……はい」


 さとりちゃんはあの事故から意識を取り戻したけど、同時に失くしたものもある。それは記憶だ。彼女は祥子ちゃんに関することを忘れてしまったみたいだ。そして、一番大事なことも。

 私は彼女の記憶を取り戻すために色々と試してみた。だけど、駄目だった。どうしても思い出せないみたいだ。それなら仕方ないと思った私は諦めた。だって、彼女が思い出して苦しむ姿を見たくなかったからだ。

 だから、私がさとりちゃんの彼女になればいいと思った。でも……。


「私はさとりちゃんが祥子ちゃんのことを覚えてないことを良いことに彼女になろうとしました」

「まあ、考えようによるわね」

「でも、さとりちゃんおかしいんです」

「おかしい?」


 さとりちゃんがおかしいと思った理由はいくつかあった。

 まず、祥子ちゃんのことを覚えていなかったこと。次に祥子ちゃんよりも私と付き合うことを受け入れようとしたこと。さとりちゃんがいくら考え直したって急過ぎる。急過ぎるからある推論をたてた。


「さとりちゃん、もしかしたら幻覚を見ているかもしれません」

「幻覚? どういうことかしら」

「はい。ボイジャーが誤作動を起こしたニュースを見たことはありませんか?」


 そう聞くと双人博士は少し考えた後、「ああ、あれね」と答えた。どうやら知っているらしい。


「確かに誤作動が各地で起きたみたいね」

「そうなんです。その誤作動が原因でさとりちゃんはおかしくなったと思います」

「どうしてそう思うのかしら?」

「はい。もし、誤作動のせいでさとりちゃんの記憶が失われたのだとしたらつじつまが合います」

「なるほど。確かにあなたの言う通りかもしれないわね」

「はい」


 私の話を聞き終わった双人博士は難しい顔をしていた。多分、考えているんだろう。そして、しばらくして口を開いた。


「酒津さんは記憶を失っているのよね。つまり、事故のことは知らないのね」

「そうだと思います」

「まあ、現時点では深刻な症状は出ていないから様子見ね。もし悪化していると思ったら酒津さんのご両親にも手伝ってここに連れてくるように」

「はい」


 こうして、私と双人博士との密会は終わった。もしも、さとりちゃんが真実に辿ろうとするなら、私も伝えるべきだと思う。

 さとりちゃんがどうして事故に遭ってしまったのかを。

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