第16話 一番目が別れた

「なるほどな……。片桐先輩がそんな不届き者だなんて知らなかったわ」


 三鼓と片桐先輩が別れたという話に衝撃を受けた俺はその話をすぐに飲み込むことができなかったが、三鼓からなぜ片桐先輩と別れたのかを事細かに説明してもらい、とにかく片桐先輩がクズ人間であることがよく分かった。


 せめて三鼓が付き合う前に俺が片桐先輩のクズさを知っていれば三鼓と片桐先輩が付き合うのを防げたかもしれないのに……。


 恋愛相談を請け負っている身として、恋愛相談を受けている人とその相手の身辺調査は怠るべきではないと身に染みて感じた。


「私もびっくりしたよ。それですぐにビシッと別れを告げてやったのよ‼︎ 人は見かけによらないもんなんだね〜」


 元気そうに振る舞っている三鼓だが、それが空元気であることは一目瞭然だった。

 別れ方が別れ方だっただけに、元気に振る舞っていても相当ショックを受けているのだろう。


「……ごめんな。俺が片桐先輩の人となりを知ってればこんなことにはならなかったのに」

「謝らないでよ⁉︎ 旭日君は悪くないじゃん‼︎」


 三鼓の言う通り、俺は悪くないのかもしれない。


 それでも、責任を感じずにはいられなかった。


「いや、安易に相談に乗ってるとこうやって最悪の結果を招くこともあるんだなって」

「そんなそんな、本当に旭日君が責任を感じることなんてないよ」

「そう言ってもらえると助かる。ありがとな、勉強させてもらったよ」

「片桐先輩のことよく知りもせずに好きになっだ私が悪いんだし、旭日君は本当に何も気にしないで‼︎」

「ちょっとちょっとくるみさん旭日さん? わざわざ暗い雰囲気を作るためにここに来たわけじゃないでしょ‼︎」


 俺と三鼓が完全にネガティブになっていたタイミングで、蓮見が俺と三鼓の目を覚ますかのように手を叩きながら声をかけてきた。


 蓮見の言う通り今は起きてしまったことを悔いるのではなく、今回の話を笑い話にして忘れ去ることが大切だ。


「……うん。そうだねっ。今こんな話ばっかりしてても仕方ないよね。今日はただお世話になった旭日君には報告したいなって思って来ただけだし」

「そうそうっ。もうこんな話終わらせて何か別の話でもしよっ‼︎」


 前向きに戻った2人の姿を見ていて、気付いたことがある。


 それは、三鼓が別れたことを俺が嬉しいと感じていないことだ。


 いや、もちろん片桐先輩と別れたのは喜ばしいことなのだが、昔の俺なら『再び俺にも三鼓と付き合えるチャンスができた』と喜んでいたはずだ。


 それなのに喜ばないということは、僕はもう完全に蓮見のことが好きになってしまっているのだろう。


「どうかした? 私のことじっと見て」

「……別に。なんでもないよ」


 蓮見のことを見て、やはり僕は蓮見が好きなのだと改めて感じながら会話を続けた。

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