第6話

 待機部屋に帰ると、愛奈が顔を俯かせていた。愛奈は律の姿を確認すると、力なく笑う。


「事情聴取、お疲れさまでした」


「君が大体話しておいてくれたおかげで、状況を説明する手間が省けたよ。ありがとう」


 律はそう言うと、愛奈の隣に座った。愛奈が再び顔を俯かせる。


「すみません。私、彼が亡くなること分かっていたのに、何もできませんでした」


「別に、君が悪いわけじゃない。彼が亡くなると君から聞いていたのに、対応できなかった僕が悪いんだ。君はいち市民として探偵に相談してくれていたのにね」


 律はそうため息を吐く。実際、康太が亡くなると分かっていたのに何もできなかった。もう少し注意深く彼の様子を観察しておけば、助かったかもしれない。


 愛奈は首を横に振ると、黙り込んでしまった。律がなんと声をかけようか迷っていると、突然愛奈が頭を押さえる。


「どうした? 大丈夫?」


「頭が痛い……」


「どこか横になれるところがあるか、聞いてみよう」


 律がそう立ち上がろうとすると、愛奈が不意に呟いた。


「思い出した」


「え?」


 首を傾げ座り直す律を、愛奈は真剣な表情で見つめた。


「思い出したんです。確かこの後、もうひとつ事件が起こります」


 律の顔が強張る。


「それはどんな事件か覚えている?」


「誰かが殺されたような……」


 そう言うと愛奈は顔をゆがめた。


「思い出そうとすると、頭が痛くて」


「無理しなくていい。この後何かが起こることだけでも分かっていれば、対処のしようはある」


 律はそう言うと、腕を組み脳内で推理を展開する。


 ――嘔吐、目の霞み、呼吸困難、意識喪失、酩酊状態。


 律はあるひとつの毒を思いつき、顔を青ざめさせる。


「もしかして、この後起こる事件って――」


 律は立ち上がり、慌てて宗次郎の元へと急ぐ。愛奈に声をかけようと思ったが、それどころではない。その状況を察したのか、愛奈は何も言わず律の後をついてきていた。



 宗次郎は雄介と話をしていた。その顔色は先ほどよりも悪くなっているように思う。


「田川さん、体調に変わりはありませんか?」


 突然現れた律に驚いたような反応を見せるも、律の質問に宗次郎が「実は――」と話し始めた。


「目が見えにくいような、そんな気がするんです」


 毒の正体に確信を持った律は、近くにいた警察官へ宗次郎を急いで病院に連れて行くよう伝えた。


「医師にはメチルアルコール中毒の可能性があると伝えてください」


 警察官は戸惑いながらも、具合の悪そうな宗次郎に気づき、律の言う通り対応してくれた。


 その様子を呆然と見つめていた雄介に、慧と良樹を連れてきてほしいと依頼した。その間に、佐々木に犯人が分かったため話を一緒に聞いてほしいと伝える。愛奈はきびきびと動く律に、こっそりと質問をした。


「犯人、本当に分かったんですか?」


「ああ。今からその答え合わせをしようと思う」


 深刻な表情をする律に、愛奈も緊張した面持ちであった。

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