②アンダードッグとワルキューレ

上野ゆかり

プロット

◯参考作品

『NHKへようこそ』『半分の月が昇る空』『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』『リコリス・リコイル』



◯世界観

現代日本・夏~冬の札幌市が舞台。


◯主要キャラクター


茅家戌春かやか いぬはる

27歳・男性・フリーター

本作主人公。優しく気は利くが要領が悪く世渡り下手で、自称「何も出来ず何もなれない負け犬アンダードッグ」。新卒就職した会社で仕事に就いていけず辞職し、数年間ファミレスのバイトを続けているが、ホールチーフの遠藤のイジリの標的となっている。

『テロリストになって嫌なもの何もかもぶっ壊した後、撃ち殺されて死ぬ』という夢(願望)を持ち、『お守り』と称してキーボードケースにアサルトライフルの電動ガンを、ベルトにガスガンの拳銃を挟んで夜の街を散歩することでストレスを解消するクセがある。だが親しい人物からは「悪ぶってもビビリで優しいから何にもできないよ」との評で、実際その通り。

バイト時代の莉歌を「戦乙女ワルキューレ」と内心呼んで尊敬し、再開してからは二人で夜遊びや夜中の雑談にふけるようにになる。

159cmと背が低く、莉歌とは頭半分の身長差がある。

趣味はゲーム(主にRPG)と電子ピアノ。

周囲からは「ハル」「カヤさん」と呼ばれ、莉歌からの呼び名は「ワンコ」。

「オレなんて戦いたくても戦えねー負け犬だから、莉歌ちゃんがすげー格好良く見えるんだわ」


早島莉歌はやしま りか

17歳・女性・高校生

本作ヒロイン。怒りの沸点が低く、自分も周りの人間の行動も許せずに戦う「戦乙女ワルキューレ」。中学時代から親の期待や姉の存在、周囲の悪意に耐えられなくなり、自分や他人を許せず暴力に頼るようになる。両親の期待に応えるべく中学時代からカフェイン錠剤を常習して勉強しており、寝不足によるイラつきが彼女の怒りの沸点を更に低めている。

勝手な期待を寄せられること、自分をきちんと見ないことを嫌い、本質的には寂しがりで甘えたがり。弱いが気が利いて「かわいい」戌春にやや依存気味。

3ヶ月前まで半年ほど戌春の勤めていたファミレスでバイトしていたが、遠藤に同調し戌春をイジる女子大生バイトを殴って退職。その後学校でのトラブルで囲まれていたところを徘徊中の戌春に偶然助けられ、それ以来戌春を「ワンコ」と呼んで、一緒に夜遊びをする内に彼に好意を抱く。

中学生までバレエを習っており、ボクササイズが趣味で運動神経や戦闘能力は妙に高い。

両親は地元の一流企業勤めで、実家は市内中心部の高級マンション。有力な私立校に通っており、バイトをしていたのは半ば独立心から。

背は168cm。引き締まった身体と長い手足が特徴で、髪は後ろでしばった肩下までの明るめの茶髪。

宝物は戌春と一緒にリサイクルショップで買った『お守り』のガスガン。

「ワンコが激弱でも『戦乙女ワルキューレ』と一緒なら無敵でしょ。一緒に戦おうよ」


伊藤希美いとう のぞみ

27歳・女性・医療器具会社勤務

戌春の隣家に住む幼馴染みの同級生。戌春とは小学校時代からの仲で、今でも一緒に外食に出かけたりする。戌春のことは友人(半分姉弟)としてはかなり好意的に思っている。

遠距離恋愛中の恋人がおり、酒が入ると恋人関連の絡み話に発展する。

莉歌の戌春の家への家出の際に莉歌と関係を持つようになり、戌春のどこがそんなに良いのかと言いつつも、莉歌に肩入れするようになる。

「莉歌ちゃんも騙されちゃダメだよ。ハルはいっつも口だけワルの根性無しだから。そこがハルらしいんだけど」


遠藤真也えんどう しんや

32歳・男性・ファミレス正社員

戌春の勤めるファミレスで去年からホールチーフとなった社員。ホールスタッフとしては優秀だが管理能力に欠け、悪い意味で体育会系気質かつ芸人気質で、トーク番組のように誰かをイジってその場のウケを取ろうとするタイプ。

現在の職場では仕事の遅い戌春を主な標的としており、同調するスタッフと共に戌春の失敗を揶揄ったり要領の悪さや失言をネタにする。

戌春のいつか殺したい奴リスト最上位、莉歌の袋叩きにしたい奴リスト上位。職人肌のキッチンチーフは彼を嫌い、一部のホールスタッフにも白眼視されている。

「いや待っていや待って、待って待って待って、茅家ちゃんあれギャグじゃなかったらさ、必死すぎでしょ」


豊岡祐司とよおか ゆうじ

22歳・男性・大学生

戌春の勤めるファミレスのバイト。二年前に入店し先輩の戌春から仕事を教えられるが、現在は戌春を追い越してホールの主力スタッフ。店長経由で正社員登用の内々定も得ている

見た目や喋り方、趣味は「チャラい(戌春・莉歌談)」が根は真面目で、仕事の要領は悪いが自分の仕事を務めようとする戌春や、筋を通すことを是とする莉歌を好いている。

遠藤を良く思っておらず、よく戌春をストレス解消と称して飲みに誘い、戌春が莉歌とつるむようになってからは「犯罪っすよ」と言いながらも二人を応援している。

友人とバンドを組んでおり(ポジションはリードギター)、アニメ好きのため戌春とはアニソンやゲーソンの話題で盛り上がる。

「カヤさんは座敷わらしみたいな人ッスから、居ないと困るんスわ」


●莉歌の家族

父親は地場大手ゼネコンの中堅社員で、母親は地元大手新聞社の中堅記者。

両親とも三つ年上の姉の智秋ちあきと莉歌にも自分達と同じだけ良い道を歩めると期待をかけており、智秋はその期待に応えるがまま東京の名門私立大に進学している。

しかし莉歌にとってはかなりの負担で、問題行動を起こしても両親が自分に関心を見せずに無責任に期待をかけること自体が嫌で、彼女の「戦い癖」に油を注いでいる。

期待を糧にする智秋とは決定的に話がズレる姉妹関係で、莉歌にとっては彼女がいなくなって逆に楽になった。

二人とも莉歌当人の行動にはあまり関心を持っていないため、莉歌が戌春と遊び歩くようになってもある時点まで気づかなかった。

「莉歌も調子が悪かったんだろ? 莉歌ならA判定は行けるって、父さん達は信じてるぞ」


◯物語構成


・全5章構成


プロローグ

自室のベッドの上で茅家戌春は布団を被り、電動ガンをお守り代わりに抱え込んでRPGに耽っている。そんな戌春の部屋に夜遊び仲間の少女・早島莉歌が乗り込んでくる。右目に前に見たときは無かった眼帯を当てた莉歌に、連絡を返さなかったことを責められるも、戌春は莉歌に「俺は本物の負け犬アンダードッグなんだよ! 戦乙女ワルキューレの莉歌ちゃんと違って強くも無いし、戦うことも壊すことも出来なかった!」とぶちまけるように叫び、「俺なんかもういいだろ、見捨てて誰か見つけてくれよ」とぼそりと呟く。

その言葉に莉歌は「結局ワンコも私のこと何もわかってないんだ。何も見てないんだ。――私は戦乙女ワルキューレなんかじゃない」と唸るように言い、その場を去る。

一部始終を見ていた希美が戌春の部屋を訪れ、彼女を追うように、そして言葉を取り消すように言う。「ハルは自分のこと何もでき負け犬とか言ってるけど。莉歌ちゃんをどうにかできるのはハルしか居ないんだわ。莉歌ちゃんを見捨てるなら私もハルを軽蔑する」と付け加えて、希美は帰って行く。

戌春はどうすりゃ良いんだ、とコントローラーを投げ捨てて泣きながら布団に包まった。


1章

茅家戌春は人より要領が悪く、ミスだらけの人生を送ってきたアラサーフリーター。『テロリストになって、見えない敵や自分の周囲の何もかもを壊して自分も死にたい』と願うのに、出来る事は『お守り』と称した電動ガンとガスガンを隠し持って、夜、故郷の北国の街を散歩しながら、それを想像する程度の「負け犬アンダードッグ」青年。

そんな戌春は数ヶ月前までバイトで一緒だった10歳年下の少女・早島莉歌を尊敬していた。自分をイジるホールチーフの遠藤に怒りを露わにし、取り巻きの女子大生バイトを殴って退職になった莉歌を戌春は「戦乙女ワルキューレ」と呼んで、内心尊敬していた。

夏の夜、いつものようにホールの仕事でミスをして、そのストレス発散の散歩の途中、公園で女子高生同士の喧嘩が起こっていて、街灯の明かりに一瞬照らされたのは一対複数で戦う莉歌だった。戌春は電動ガンを構えて声を上げながら突進すると、莉歌を取り囲んでいた高校生達は奇声を上げて銃を構えた男を目にして逃げていく。

莉歌には開口一番「邪魔すんな!」と怒鳴られたが、多勢に無勢だったことは莉歌も認めており、助けられたことに感謝しつつも、戌春の奇行じみた習慣を知ると莉歌は爆笑し、逆に莉歌の喧嘩の理由を聞いて戌春も納得し、莉歌は突然に戌春に連絡先の交換とまた会う約束をつけ、戌春を「ワンコ」と呼んで帰って行った。


2章

数日後、戌春のスマホに莉歌から連絡が入り、二人のお互いのストレス解消という名目で、戌春とまた夜の散歩がしたいと言う内容だった。

散歩をしながらバイト先の現状、莉歌の家族のこと。お互いに色々知って、戌春は莉歌がカフェイン錠剤を口にするのを目にする。

頑張りすぎて昼夜逆転気味なんだ、と言う莉歌。

それ以来二人はストレス解消に戌春と莉歌は度々どちらかが先に誘って一緒につるむようになった。

戌春の妄想じみた自殺シチュエーションに莉歌がノリノリで乗ったり。

二人でリサイクルショップを訪れて、莉歌と戌春がお互いにジャケットを、莉歌が『お守り』のガスガンを買って、レンタルビデオ店で「ワルキューレ」と言う映画を借りて、後日ネットカフェで二人見てみたり。

ネットカフェの帰り道にストリートピアノで戌春が一曲弾いてみたり。

莉歌が戦乙女になったのは彼女が両親からかけられた期待に対して余裕が無いことや、そんな余裕の無い自分に関心を示さないこと、そしてカフェイン錠剤で寝不足になってるうちに期待や周囲の悪意に耐えられなくなったから。と戌春は知り、「ワンコはつるんでて楽しいから好き」と言う莉歌が強く、戦いに身を投じる戦乙女なんかでは無かったことを知る。


3章

遠藤の手痛いイジりの後、バイトの後輩の大学生・豊岡が戌春を飲みに誘う。その際に戌春と莉歌の関係を知って、戌春に手を出さないでおけと忠告しつつも、スマホの画面のガスガンを構えた莉歌の笑顔を見て「やっぱカヤさん人徳ありますよ」と漏らす。

その帰路、家に帰りたくないと戌春の部屋に泊まることをせがむ莉歌を、隣に住む幼馴染みの希美と協力して家伝いに戌春の部屋に招き入れた。

彼女の姉の智秋が夏休みで札幌に帰ってきたと言い、「家にいたら頭おかしくなる」と顔を渋くする莉歌。翌日彼女を帰すのにも付き合った希美は戌春に「あの子、ちょっとハルに寄りかかりすぎかも」と心配する。


そして秋が深まる頃に二人の関係は暗転する。

戌春はバイト先での別のバイト大学生の財布の盗難で、遠藤の根拠の無い濡れ衣と罵倒同然のイジりに耐えかねて即日辞職を店長に宣言。

そして願望のままハロウィンの街中で電動ガンとガスガンを構えるも、引き金を引けず、見えない敵とも戦えず、警察には射殺されることなく「お騒がせ野郎」と注意されて終わった。

「もう何も出来ない本物の負け犬アンダードッグだ」とその日から戌春は自室に籠もり、布団を被って電動ガンを手放さず、莉歌からの連絡も全て無視するようになった。


4章

泣きながら布団に一時間籠もるも、自室の電子ピアノが眼に入り、莉歌と一緒の時に弾いた曲を弾いて、戌春はようやくジャケットを羽織り、ベルトにガスガンを、キーボードケースに電動ガンを入れて莉歌の元へ向かう。

夜の街を戌春は走る。莉歌は最初に彼女と出会った公園でベンチに座っていた。莉歌に、戌春は自分が莉歌を拒絶したことを詫びた。

莉歌自身も自分がいっぱいいっぱいでワンコのことを見てなかった。ワンコに甘えてたと謝ると、二人ともあまりにも痛々しい姿に苦笑した。

莉歌は大学進学の模試の結果が上手く行かず、両親の詰問や教師の言葉に怒り交じりで、しかし応えようとしてますますカフェイン錠剤に頼って勉強した。

その度にどんどん強くなる怒りの矛先を学校で自身へ向けられた悪意に向け、再び戦いにのめり込んで、集団で殴られて右目にものもらいみたいな傷が出来た。その合間に連絡しても戌春がずっと答えなかった。だからムカついて乗り込んだ。と語る。

そして戌春が莉歌の連絡に答えなかった理由を語ると、「やっぱワンコはかわいいわ」と戌春を抱き寄せる。

莉歌は戌春の好きなところ――弱くて、惨めで、優しいくせに悪ぶって、出来もしないことをしようと必死で、そこが最高にかわいい――を上げると、戌春も莉歌の好きなところ――本当に最高に強くて格好良い、でも寂しがりで甘えたがりな所がかわいい――を上げ、やっぱ莉歌ちゃんは俺の戦乙女だと返す。小柄な戌春は莉歌にぎゅっとハグされるのだった。

そして莉歌はワルキューレに相応しい顔――本物の戦乙女にも、いつか見た同名の映画の隻眼の主役にも似た顔――で、二人で戦うことを戌春を誘う。莉歌の言葉に戌春は応えた。


5章

その夜、二人の戦いが始まった。

莉歌が盗んだ鍵で戌春は彼女の家のメルセデスベンツを乗り回し、莉歌は自分の学校を戌春の電動ガンで銃撃してやる。

戌春は夕食に元バイト先のファミレスに入り、遠藤の大型ミニバンが出ることが困難なようにベンツを駐車して退勤後の遠藤を苦しめつつ舌鼓を打つ。

水源地で湖に向かって、自分の敵に絶叫と共に銃を乱射する。帰りにカーセックスらしい車を見て、「私達もする?」と問いかける莉歌に戌春は流石に無理と断った。

そして朝早くマンションに戻り、莉歌の両親に車を使ったのがバレると、怒りを露わにする両親に莉歌は「車借りてデートしてただけだよ。そんなことも気づかないでさ、期待だけするなんて親失格だと思わない?」と嘯き、戌春を「私のワンコ」と誇らしげに紹介した。


冬を迎える頃、戌春は豊岡に自分のバンド仲間が商店街に開くバルの正スタッフに誘われ、戌春は豊岡の誘いに応じる。莉歌も自分の我儘を通して志望先の大学を変え、カフェイン錠剤を手放すと共に戦うことで自分を落ち着かせることは無くなった。

もう莉歌は戌春と夜遊びの時だけ戦乙女になるようになっていた。


エピローグ

クリスマス間近の雪の日、公園のクリスマス屋台を訪れた戌春と莉歌はコートの下にガスガンを忍ばせて雪の公園でデートに興じ、戌春がストリートピアノで一曲弾いた後、観衆に向かって二人は銃を抜きながら笑い合うのだった。


※二巻へのヒキとして、莉歌の大学入学の後、智秋の存在(帰郷によって戌春と莉歌の関係性の歪さの指摘)を匂わせておく。

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