第34話 闇夜の遭遇、土厳塁根


 モエルは、ちょっと様子見てくるだけだから―――と、台風の時の死亡フラグに酷似した台詞をミナモに吐いたのち、木と木の合間に足を運ぶ。

 ミナモが何事か、馬車の荷物を急いで漁る音だけを目の端に捕えていた。


 湿っぽい地面を足早に、しかし足音を消しつつ進んでいくと、果たして敵は見つかった。


「見つけたと言っていいのか……?」


 大きい、魔獣なのだろうが全容が見えない。

 例えるならば気球が森林の中を進んでいるような具合である。

 サイズ感だけしか見えないが、だいたいそんな印象だ。

 見えないけれど。

 時間帯は、この世界で時計を所持していないから正確ではないが、午後八時くらいの暗さ。

 真っ黒な球体が進み、何かがちぎれるような音が、時折り木々の合間を駆け巡っていく―――。


 見れば、たまに木にぶつかっているのだ。

 それを障害物とも思わないような

 そしてミシミシと、木の根が出る程度には損傷している。


 ハードル走で、あ、倒しちゃった―――くらいの感覚なのかもしれない。

 歩行スピードは散歩をしているような感覚なのだろうか―――あの、土厳塁根は。


 モエルは木の陰に隠れながら並走する。

 魔獣の速度にはついていけた。

 魔獣の、四足歩行系よりは攻撃を当てやすいだろう。

 だが攻撃はしない。


「一筋縄ではいかないだろうな……!」


 見込みが甘かった、魔獣だから獣の派生だろうと思っていたが、立体物というか……。

 せいぜいホッキョクグマみたいなサイズ感をイメージしていたが、あそこまでの巨大さか。

 背後で人の気配がした。

 ソワソワと、外套が揺れる……ミナモが近づいてきたようだ―――。

 むう、やはり追いついてきたか。

 わかったよ、これ以上は進まない。


 ここまでの偵察で我慢しておくか。

 おそらくは、今後、将来に賭ける。

 複数人もしくは部隊でこういった魔獣の相手をするのだっろう。

 討伐は無理でも撃退とかになるのやも知れない……。

 細かい枝をばきっと踏み抜いたりしないようにする。

 音を立てたらまずいのはわかる。

 それはわかるからへまはしないようにするぜ。


 モエルは細心の注意を払い、大型魔獣からゆっくり離れようとした。

 元々、この地震と共に移動しているような輩だ―――多少の物音はかき消されているだろうけれど。


 ふと隣を見ると、狼の顔があった。

 モエルを睨んで姿勢を低くしている。

 ふと、その口元に力が入っていくように見えた。

 怒りの表情。


「うっ……!おおおおお!?」


 とっさに、右手で炎を生み出すモエル。

 不定形なその熱術を、目の前に盾のように構えた。

 森が照明に照らされ、明るくなる―――!

 きゃいん!と狼は―――弾空狼の親戚だろうか?吠える。


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