7−4 冬雪その得意料理はヤキソバ

 冬雪のワンルームにクロを招く。

「お邪魔します」

 そう言ってクロが部屋に入るなり匂いをすんすんと嗅いでいる。

「臭いですか?」

「冬雪の匂いがする」

「えっ」それはちょっと恥ずかしい。

「臭くはない」とクロが言ったのを聞いて安心すると、一人掛けのソファーをクロに差し出し、お茶はないので、ペットボトルの炭酸水をグラスに注いでクロに渡した。それを両手でもってゆっくり飲むクロ、さて期待の眼差しを向けるクロの為に何を作ろうかと冷蔵庫の中を見て決める。

「クロさん、ヤキソバは好きですか?」

「好き、クロに嫌いな食べ物はない」

 それは作り甲斐がある。

「じゃあキャベツたっぷりの特性ヤキソバを作りますのでちょっとまっててくださいね。結構自信ありますよ」

 麺はレンジで予め温めておく。油をひいて野菜と肉を炒める。付属の粉末ソースは半分だけ使う。

「冬雪、料理上手」

 作れるレシピには限りがあるけど、自炊をしているとどうせ食うなら美味しい物という事で動画などを参考に少しばかり料理の努力をした結果である。まさか、自分の部屋で女の子にふるまうとは思わなかったが、

「まぁ、結構がんばりましたからね。ここからが俺のヤキソバの特殊なところです」

 麺をほぐさずにただ焼き色を入れる。両面しっかりとバリバリになるまで焼いていく。野菜の水分と肉の油で少しほぐれてきたので、あらかじめ作ったソースをかける。

 かた焼きヤキソバ風のそれに最後は生卵の黄身を落としてやり完成。「どうぞ! 熱いうちに」

「いただきます」

「じゃあ俺もいただきます! クロさんは料理とかはされないんですか?」

「ブリジットに禁止されている。今のところ、カップ麺を作る事と冷凍グラタンを電子レンジに入れて作るくらい」

「うん、何かあったんですね」と、ブリジットの苦労を何か感じた。

 はぐはぐと一心不乱に食べているので美味しいのだろう。「おかわりもすぐ作りますので、慌てずにゆっくり食べてくださいね」

「食べ物は食べれる時にたべる」

「そうですか……」クロは常に空腹で、食べ物への執着も凄まじい。バクバクとヤキソバを食べ終えると皿を冬雪にむけて「お代わり食べていい?」

「あぁ、はい! すぐに作りますね!」

「大丈夫、冬雪が食べてからで」じっと見つめてくるクロ。ご飯を食べたいという表情ではなく、冬雪に興味を持っているような表情だ。「クロさん、好きな人はいますか?」

「ボス、ブリジット。タマ、冬雪」

 同じ宮水ASSの人間だ。

「俺もいれてくれてるんですね。なんか嬉しいですよ」

 少し照れ臭いなと笑う冬雪に「ねぇ、冬雪」

「はい、なんですか?」

「まだ食べ終わらない?」

「あはは、速攻で食べて、速攻でお代わり作りますから!」

 掻っ込むようにヤキソバを食べて、二杯目のかた焼きヤキソバの調理に入ろうとしたときだった。

 クロが料理をしようとした冬雪を突き飛ばす。「冬雪、頭を小さくして部屋の壁に、何かに狙われてる」

「そんな……うそでしょ」突然の事に冬雪は驚く、クロが物凄い密着してきて、クロの匂いだとか身体の柔らかさだとかを感じて少しばかり心音が高くなる。クロは冬雪を抱きしめるように冬雪の頭をクロの胸のあたりまで小さくさせると銃をぬいた。

「3,2、1で冬雪は玄関に」

 クロはその襲撃者とやりあうつもりなんだろう。「クロさんは? 狙撃者にそんな銃じゃ」

「大丈夫、そこにいる」

 ベランダのガラスごしにクロは銃を向ける。ガラガラと窓をあけると入ってきたのは身だしなみがキチンとした優男。

「さすがは宮水ASSのクロ様」

「二階堂」

「はい、二階堂です」一体この男は誰で、何が目的なんだ?

「今日の目的はクロ様ではございません。そちらの宮水ASSのルーキー、立花冬雪くん、大切なお客様をお守りできるか確かめにきました」

「クロさん、この人ってもしかして……」

「六麓HSの二階堂」

「はい、二階堂です」

「俺を確かめにきたって、俺が護衛対象を守れるかどうかってことですか? もちろん、それを全うするために今から準備をしようと思っているところです」

 冬雪の答えにクスりと笑う。「失礼、宮水ASSは人材不足なんでしょうか?」

「冬雪はすぐに死ぬ。でもクロより、二階堂より強い」

「ほう」

「それに冬雪の教育係がクロ、今二階堂が何かをすればクロは二階堂を襲う。ここは西宮だから殺さないけど、生きれなくはできる」

「えぇ、私も西宮なので、死なない程度に確認をしにきたのですが?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! いきなりテストならそう言って」

「お言葉ですが、立花冬雪様、そんな事。実際の仕事中に仰れますか?」

「それは……言わんとしている事は分かります。ならばどうすればご納得いただけますか? 俺が二階堂さんと立ち合えばいいんですか?」

「話が速くていいです。できればクロ様には手を出さないように伝えてきたいただければ」

「二階堂さんでもクロさんには勝てないんですか?」

「そうですね」顔に手をやり、今までの澄ました顔ではなく、邪悪な表情で「クロ様相手ですと、わが六麓HSのやり方より汚い戦いになりそうですから」

 勝てないとは言わない、かといって勝てるとも言わない。クロと同等クラスの化け物なんだろう。なんなんだこの土地は……

「分かりました」要するに冬雪相手では手加減をするという意味なんだろう。馬鹿にしやがって「怪我してもしりませんよ」

「お気遣いありがとうございます」ここでやるのかよ? と冬雪は思うが構える二階堂。

「私の働く六麓HSの社長。白亜お嬢様は実力至上主義でございまして、私もクロ様もお認め頂いています。ですが、立花冬雪様は違う」

「それで、テストなんですね?」

「こちらもご理解がお早くて助かります。ここは西宮市ですが、殺すつもりできていただいて結構です。まぁ、私は死にませんが」

 相当自信があるのだろう。隣の市でナンバーワンの依頼数を誇る殺し屋の老舗、六麓HSの二階堂は構えを解いてみせると、ノーガード、打ち込みやすくなっただろう? と言わんポーズで冬雪を挑発した。

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