第5話

 マントの使い方は、単純にマントを身につけた状態で魔力を注ぐこと。魔力は、魔法が使える人ならば誰でも扱う事が出来る。つまり、ここに住む犯罪者全員が使う事ができてしまう。だから、このマントに認識阻害能力がある事はバレてはいけないし、盗まれてもいけない。


 問題は、ずっと魔力を注ぐことは出来ないという事だ。例えば、寝ている時。これは絶対に魔力を使う事は出来ない。自動で魔力を注ぐ芸当なんて、少なくとも俺にはできない。また、連続で使い続けるのも無理だ。魔力自体は自然界にいくらでも存在するけれど、それを扱うには精神力みたいなものが要る。幸い、このマントの魔力使用量は大したことは無いけれど、それでもずっとは無理だ。どれくらい持つかは実際使ってみなければわからない。


 そう考えながら、階段を降りていく。そして、改めて店へと入る前にマントを起動してみる。すると、面白いくらい誰も俺の事を気にかけない。チラッと見ても、それだけだ。まあ、俺も知らない人をジッと見たりなんかしないから、マントの効果かどうかはまだ分からないってことだな……。


 一旦外へ出る。店の前にはさっきの2人組が待ち構えているという事は無く、辺りをうかがっても野菜を持ったおばさんが歩いているくらいだ。って、こんな暗い時間に不自然な気もするけど、よくわからない。少なくとも派閥の中には、おばさんは居なかったと思う。俺が知ってる範囲では、女性は居ても元キャバ嬢みたいな若い子だけだったと思う。


「うぅ、寒い」


 これから冬に向かう季節だからか、日が落ちると驚くほど寒くなる。マントでしっかりと体をくるみ、隠れられる場所を探す。この島が犯罪者の島になる時に、住人が追い出されているから空き家は結構残っているはずだ。犯罪者が全部で何人居るかは知らないけれど、元の島民より多いって事は無い……はずだ。だといいな……。


 とりあえず、店から少し離れた建物を覗いていく。大抵はすでに誰かが住んでいるようだったが、マントの効果で顔を合わせてもすぐに立ち去れば、怒鳴られるようなことも無かった。何件か覗いてみて、誰も住んでいないような納屋を見つけた。今日はここで夜を過ごすことにする。ああ、ビールしか飲んでないから腹が減ってきたな。

 

 納屋の中には当然食糧なんて置いてなかった。代わりに、木の板が何枚か置いてあったのでそれを床に敷く。直接地面に寝るよりはマシだろう。


「これからどうしようかな……」


 行く当てもなければ、いつまで逃げ続ければいいのかも分からない。ポケットから出したイフリートの石……魔道具の石? それならいっそ魔石と呼ぶか。そのほうが呼びやすいしカッコイイ。これが原因だから、これを渡すだけでいいのか? いや、無理やり奪われて殺されそう。大体、誰に渡せばいいかもわからんし。いろいろ考えているうちに、まぶたが下がってくる。はぁ、明日の事は明日の俺に任せよう……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る