第2話 巻き込まれ

 俺は田宮亮。20歳だ。盗みに魔法を使ったため、佐渡島に送られてから数年が経つ。こんなちんけな俺では、この島じゃ一人で生きていけない。だから、俺は派閥に入れてもらって……今、後悔している。


「おい、亮! ぼーっとしてんじゃねえよ!」

「はい、すいません!」


 俺に怒鳴ったのは村田先輩。先輩は、魔法で暴行事件を起こしてここに連れてこられたと聞いている。ただ、普段の行動からは結構後輩たちの面倒見もいいし、俺も村田先輩に声をかけてもらってここに居る。ただ、いくら先輩がいい人でも、組織全体がいい物かと言えばそうではなかった。実際、トップに立つ人物はどこかで殺人を犯した人だと聞いている。会えるのは側近だけで、実際に見た事は無いけれど、数百人規模のグループを纏めるにはそれくらいの度量が無ければ無理だろう。


「ちっ、こっちにも来やがったか!」

「ど、どうしましょう?」

「小屋へ逃げ込むぞ!」


 先輩に連れられて小屋へと入る。俺たちは今日、他の派閥と戦争をしている。原因なんかは俺たち下っ端には知らされていない。集まれと言われたから集まったのだ。まさか、こんな殺し合いになるなんて思ってもみなかった。そして今、俺たちは相手派閥に追い詰められている。


「亮、お前だけでも逃げろ」

「そんな! 先輩を置いて行くなんてできませんよ! それに、俺の力じゃ一人で逃げ切る事なんて無理です!」

「いいから逃げろ! 今すぐここで死ぬよりはいいだろうが!」


 先輩が叫ぶと同時に、小屋の入口が吹き飛ぶ。何かの魔法を使ったのだろう、入り口には手を前に向けた男が立っていた。その後ろにも数人いる様だ。


「逃げ回るなよ、いくらネズミだからってなぁ」

「どうせこの島からは出られないんだ。だったら、邪魔者は排除するべきだろう?」


 男たちはそう言って小屋の中に入ってくる。3部屋程度しかないこの小屋じゃ、すぐに捕まってしまうか、最悪このまま殺されるか……。


「俺が気を引く。だから、お前はその隙に逃げろ」

「あー? 逃がすと思ってんのか?」


 先輩は小声だったのに、耳がいいのか相手の男の一人がそういう。俺も何とか気を引いて逃げ出すなりなんなり出来ないかと小屋を見回す。すると、小屋に不釣り合いな綺麗な赤い石が置いてあった。そうだ、せめてこれを投げて気を引こう。そう思って手のひらサイズの石を拾った瞬間――ドカンと爆発が起きた。その衝撃で小屋は吹き飛び、中心が燃え出す。その燃えている中心部には人が居た。


「……人?」

「ふははははっ、久しぶりの顕現だ。思いきり暴れさせてもらおう」

「な、ななな、ぎゃああ!」


 炎に包まれた男は、そう言うと辺りを火の海にした。先輩はさっきの爆発でどうなったか分からないし、俺たちを襲っていた奴は今火だるまで燃えている。炎に包まれた男は、ひとしきり暴れた後に俺の前に戻ってきて言った。


「俺はイフリート。火の魔人だ。ちょっと力を使いすぎたから寝る」


 それだけ言うと、俺の返事を待たずにさっき俺が拾った石へと吸い込まれて行った。


「おい、こっちの方へ行ったはずだぞ!」

「探せ! そして、殺せ!」


 イフリートが暴れた結果だろうか。さっきよりさらに殺気立った男たちが、わめきながらこっちへ向かってきている様だ。本能的に、見つかるとヤバイ……そう思って逃げることにした。幸い、ここの近くにはバイクが置いてある場所がある。俺は男たちに見つからないように駐車場へ行き、暗い道を走り出した。


「バイクで逃げるやつが居るぞ! 追え!」


 ただ、改造バイクがうるさすぎて、バイクで逃げたことがすぐにバレてしまった。誰だよ、こんな騒音仕様に改造した奴は! とりあえず、距離だけでも離そうと、バイクを駆って逃げ、民家が近くなった所で乗り捨てて建物に逃げ込むことにした。

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