第5話 逗留地

 午後8時を回ったころにレオンと銀河は当座の拠点として手配されていたカンボジア王国軍クサック・スメイ基地へ到着した。

 2千メートル規模の滑走路1本に、地方の小学校のような2階建ての建物が2棟、大型だが雨漏りしそうな格納庫が4棟。敷地面積はとにかく、寂びれた印象が拭えない基地だ。夜間照明(ところどころ破損している)がなければ廃墟だと思ったかもしれない。

 大型輸送機が2機は収まるほど余裕のある格納庫の脇に機体を駐機させると、ケイゴたちが出迎えに来た。

「銀河さん、お疲れ様です」

「……ああ」

 あからさまに不機嫌な様子の銀河に、ケイゴは何かあったのかと尋ねようとすると、銀河の後ろにいる人影――先の戦場で保護した現地の少女に気付いた。

「その子……」

「くそっ、ふざけんなってんだ…!」

 銀河の顔は怒りで歪み、拳は強く握られていた。


 2時間前――

 戦闘終了後、リンケージたちは擱座した〝アルフェラッツ〟から降りてきた二人――相模龍斗とフィオナ・フェルグランドから簡単に事情を聞いた。二人は3年前の大規模作戦でイグドラシル連合の前線指揮官を撃墜し、二つの世界を繋ぐディメンションポケットを維持する装置を破壊してイグドラシルへそのまま転移したこと。地球への転移は予期せぬもので、嘗て所属していたMUF横須賀基地に身を寄せる予定だということ。

 レオンは横須賀基地にいるという高遠司令との繋ぎになると判断し、機体の整備も必要だろうということで自分たちとの同行を提案した。

 自分たちも異邦人であることを手早く説明すると、撃破した敵部隊の遺留物を漁る。が、目ぼしいものは何もなく、装備からカンボジア正規軍ではなくAAAである可能性が高いだろうということしかわからなかった。

 その後、すぐにでも活動拠点として手配されているクサック・スメイ基地へ移動すべきだと判断したが、基地までは30キロほどということもあり、レオンたちは地上を移動、コウイチたち輸送機残留組は先行して基地へ向かい、受け入れ準備を進めることになった。

 と、ここまではよかったのだが――

「俺が、この子を家に帰す」

 銀河は保護した少女を『テロリストに誘拐された』と思い、親元へ帰してあげるべきだと考えた。テロで両親を亡くした自分と戦闘に巻き込まれた少女の境遇を重ねたためだ。

 対してレオンは何かを考えている様子で黙っていたのだが、「俺も同行する」と言い、結局三手に分かれることになった。

 コウイチとマナミは輸送機でボートフェルト大尉たちと共に基地へ。

 ジョーとケイゴたちは自走不能になった〝アルフェラッツ〟を運びながら陸路で基地へ。

 レオンと銀河は少女を家に帰してから陸路で基地へ。

 ちなみに、アンディ・フランク・エイブラハムはレオンたちと距離を取りつつ追随することにしている。これは密集による発見を避けるためだった。

 少女とはうまくコミュニケーションが取れなかったが、コックピット内に設えられた即席のサブシートに座らせて道案内をしてもらうと、20分程度で到着しそうな場所だった。

「もうすぐ家に帰れるぞ」

 銀河は我が事のように、嬉しそうな顔を少女に向ける。

『警告しておくぞ』

 対して、レオンの態度は冷ややかだ。

『トラブルになりそうだったら大人しく引き揚げろ』

「どういうことだよ」

『世の中のすべての善意がいい結果を生むとは限らないということだ』

「だから、どういう――」

『見えたぞ。10時方向だ』

 機体のディスプレイ越しに映っているのは、貧しい集落だった。

 あばら家と言って差し支えない家々に、薄汚れたシャツを着た活力のない人々。100人はいないであろう小規模の集落は、夜であることを差し引いても人が生活を営んでいる生気を感じられない。

『01より03、警戒しておけ』

『了解。気を付けてくださいよ』

 やや離れた場所のアンディたちに周辺の警戒を任せると、レオンは〝ロードナイト〟から降り、銀河も少女の手を引きながら続いた。

 銀河たちに気付いた人々は、慌てて家の中に戻っていく。

 ただでさえ少ない人通りが、全くなくなってしまった。そのくせ、窓や戸の隙間から、視線だけを感じる。

 銀河は周囲を見回しながら少女の手を引き歩いていく。

「誰も出てこないな」

「おい」

「警戒されてるのか?」

「おい!」

 レオンは銀河を止めた。

銀河は不機嫌そうに「なんだよ」と振り返ろうとすると、「おい、あれ見ろ」「あれ、ヤサじゃないか」と、動揺の声が聞こえてきた。

 銀河の顔が徐々に明るくなる。

「俺は敵じゃない!この子をテロリストから保護したんだ!」

 この村で間違いない。この子を家に帰すことができた。

 銀河は心の中で充足感が広がっていくのを覚え、手を繋いだ少女へ振り返った。

 しかし、少女の表情は銀河が予想していたものではなかった。

 強張っている。

 緊張しているのかと思ったが、違う。彼女の表情は、不安か、もしくは恐怖によるものだ。

 改めて正面に向き直ると、銀河の前に数人の男たちがやってきた。痩せ型に見える、身形がきれいとはお世辞にも言えない風貌であり、表情は余所者に対する敵意というよりも、汚いものを見る蔑みに近かった。

「なにをしてるんだ」

 開口一番、非難の声が上がった。

「ヤサ、なんで戻ってきた」「あいつらはどうした」「お前らは一体何をしたんだ」

 口々に、少女と銀河、レオンに負の感情がぶつけられる。

「俺たちはこの子を追い回してたテロリストを倒したんだ。だから、この子を家に帰そうとして――」

「なんてことをしてくれたんだ!」

 銀河の説明に、村人は目を見開き、罵声を浴びせた。

 周囲にざわめきが広がっていく。

「報復されるんじゃないか」「俺たちがやったと思われちまう」

「俺たちゃ皆殺しだ~」

 明らかに、少女が戻ったことについて歓迎されていない。

「戻るぞ」

 レオンは銀河の肩に手をかけるが、銀河はそれを払いのけた。

「ふざけんなよ!なんだよそれは!」

 村人たちの態度が許せなくなり、表情を一転、怒りをぶつける。

「この子は死ぬかもしれない恐怖で必死に逃げてたんだぞ!それを、なんで戻ってきただと!?俺たちへの礼なんていいさ。だけど、なんでこの子を受け入れてくれないんだ!」

 先ほどまで感じていた達成感は、微塵もなくなっていた。代わりに湧いてくるのは冷めた目を向けてくるこの村の人々への憤怒だ。

「この子の親はどこだ!自分の娘が命からがら帰ってきたんだぞ!」

「死んだよ」

 返ってきたのは、ぶっきらぼうな一言だった。

「父親は奴らに逆らって殺された。母親は見せしめに公開レイプされた上で処刑された。その子はやつらの性欲処理のために連れていかれた」

 銀河は言葉を失っていた。

「わかったら帰れ。二度と来るな。俺たちを巻き込むな。余計な事……、しないでくれ……」

 最後は項垂れながら、男が言い切った。

 暗に、その子を助けたのは間違いだと、そう言われたのだ。

「行くぞ」

 レオンの声に、銀河は黙って従った。

 銀河は少女の顔を見ることができなかった。

 唯一、彼女の手が小刻みに震えていることだけが、銀河の手に伝わっていた。


「そんなことが……」

 格納庫前で、ケイゴは困惑した。

 どんな顔をすればいいのか、どんな声をかければいいのか。

 それがわからないまま、銀河の隣に立っていたレオンが「行くぞ」と声をかけてきたため、そのまま基地司令部へと向かうことになった。



 作戦卓を挟み、リンケージたちはクサック・スメイ基地司令官と対面した。

「ようこそクサック・スメイに。わたしがこの基地の責任者のウン・フオト少佐だ」

 褐色の肌に側面を刈り上げた頭の40代男性が敬礼すると、

「MUFニューカッスル基地、第666独立機甲中隊、レオン・ホワイト特務中尉です。お世話になります、フオト少佐」

 レオンはこれまでの傭兵生活で培った軍人相手のマナーで返礼した。

 フオト少佐は口角を上げ、その仕草からも歓迎していることが窺える。入室前にすれ違った人の中には戦闘服を着崩したガラの悪い男や顔を伏せたままの軍属であろう清掃員がいたが、地方の寂びれた軍事基地などこんなものかと気にすることはなかった。

「ここに到着する直前にもAAA部隊をひとつ潰したそうじゃないか。頼もしい限りだ」

 先の戦闘のことは、既にボートフェルト経由で委細伝達済みのようで、リンケージたちはかなり持ち上げられた。その中で、銀河には先ほどからイライラが募っていた。

「そんなことより――」

「ひとつ、確認したいことが」

 銀河が喰ってかかりそうな勢いで問い詰めようとする声を、レオンが遮った。

「AAAによって、周辺の集落が被害に遭っているようですが、軍では対処されないのですか?」

 アンディたちはレオンの質問に「マジかよレオンさん」と表情を強張らせた。

 これは「お前たちはちゃんと仕事をしているのか」と、喧嘩を売っているようなものだからだ。MUFと各国軍の力関係はいまいちわからないが、初日から喧嘩をふっかけていいことなど何もないだろう。

 動揺していたのは銀河も同様だった。自分の言いたいことをレオンが遠回しに追求したからだ。ただし、銀河はもっとストレートに詰問するつもりだったが。

 逆に、ジョーは「何やら皆張りつめているでござるな」と理解が及んでいないようだ。

「手厳しいな、中尉」

 フオト少佐は苦笑し、両手を上げた。

「それに関しては、我々の落ち度だ」

 フオト少佐は作戦卓を操作して、立体映像を出力しながら基地の内情を語りだした。

 クサック・スメイ基地は嘗て2千人近くの将兵が詰め、連隊規模の機甲及び機械化歩兵戦力と2個飛行隊の攻撃ヘリ部隊、大型輸送機2機を有する規模だった。隊舎を含め、多くの建物もあったが、イグドラシル連合軍による東南アジア方面攻撃に直接晒され、その傷跡の癒えぬ間に半年前から続くAAAとの小競り合いが、部隊立て直しを上回る損耗という結果に繋がった。

 現存するのは40名に満たない歩兵と、旧式の戦車T75が1輌、基地外周に固定砲として設置している自走砲155ミリが3輌、非装甲車両が4輌、軽装攻撃ヘリが2機。

 対してAAAにはこの近辺に確認されているだけで10輌ほどの装甲車輛に加えてヘリどころか戦闘機マルチロールファイターも保有している。歩兵に至っては困窮による食い扶持稼ぎの参加者が増えているため正確な人数さえ掴めない。

 極めつけが――

「ハルクキャスター……」

 3機のハルクキャスターが映像出力された。

 頭部の中央を貫く大きな角を持つグレーのハルクキャスターは、まさにオーストラリアで伝えられていた機体だった。

 他に、軽装甲冑のような見た目に剣を持つ緑色の機体と、対照的に重装な甲冑姿の槍斧を持つ赤い機体が映っている。

「〝ラブリュスツヴァイト〟……それに、〝フランベルク〟と〝ハルバード〟か……」

「ウルズ機……」

 先ほどから後方で黙って話を聞いていたフィオナと龍斗は前に出てきて説明する。

 オーストラリアで転移直後に戦ったのはミーミル王国製の主力機である、第二世代機の〝ハイドラ〟で、今映っているのはウルズ帝国製第二世代機、運動性能に比重を置いた〝フランベルク〟と、防御力と機体出力に比重を置いた〝ハルバード〟だという。

 そして角の機体は〝ラブリュスツヴァイト〟。嘗てイグドラシル連合のオーストラリア駐留軍で指揮官をしていた男の乗機であるワンオフ機で、強力な機体だそうだ。

「さすが、オペレーション・シャングリラの英雄だな。よく理解している」

 フオト少佐は感心しながら話を引き継ぐ。

「ただでさえ厄介な状況下で、3機のハルクキャスターはAAAと共闘関係にある。これでは手の打ちようがない。あれをどうにかするんなら、それこそ1個軍――数百輌の戦車やMLRS、そして航空団規模の戦闘機が必要だ。それもかなりの損失を覚悟でな」

 それはリンケージたちも理解していた。オーストラリアではたった2機のハルクキャスター相手に陸空混成連隊を編成して対応していた。しかも前衛のハルクレイダーはほぼ全滅。疲弊した1機を墜とすためにガーディアンでも7機総がかり(正確にはウィストル・ユノーの〝ペルセウス〟も含め8機)で畳みかけたのだ。

 リンケージたちは悟った。

 ここカンボジアに来たのは偵察を命じられたからで、どさくさに紛れて横須賀に行く腹積もりだった。

 それは難しいと、今理解した。

 未だ疲弊しているカンボジア軍が応援を寄こしたとしても、状況は改善しない。応援を寄こした先から各個撃破されて、やがて一国で対応できないと見た周辺国が、MUFが本腰を入れる。それで解決はするだろう。半年先か、一年先かわからないが、物量に押されてAAAもハルクキャスターもやがて力尽きる。

 しかし、その果てにあの村の人たちはいない。

 あのヤサという少女は、本当の意味で帰る場所を失うだろう。

 だから、決意した。

 自分たちが、あの3機のハルクキャスターをなんとかする。

 それ以外に、目の前の不幸を止める手段などないのだから。


 その場ですぐに解散、とはならなかった。

 龍斗はフオト少佐に横須賀への連絡許可をもらい、その場で高遠司令と人工衛星を使った遠距離通信を行った。リンケージたちも丁度いいと立ち会う。

 現在時刻21時15分、日本との時差は2時間である。この時間に連絡を取ろうとするのは非常識――というより、平時の基地に基地司令官がいるとは思えなかったのだが。

『これは、最も意外な人物から連絡が来たものだ』

 3年前のオーストラリア奪還作戦――オペレーション・シャングリラで使用された符丁を使用したことで、比較的スムーズに基地司令まで繋がった。

 ディスプレイに映ったのは、二十代半ばから後半の、柔和な笑みを浮かべる好青年だ。青い軍服をきっちりと着こなし、ギリギリ見える階級章は(MUFのルールはよくわからないが)将官のものに見える。

『二階級特進取り消しだね』

 戦闘中行方不明M I A取り下げの話を冗談交じりにしながら、高遠は笑う。

『少佐、部下の保護に感謝する』

「いえ、お気になさらず」

 高遠は龍斗たちの後ろにいたフオト少佐に声をかけ、次に視線をその横へ。

『そして、そちらは『ニューカッスル事件』解決の立役者、かな?』

 高遠は瞬時にリンケージたちの存在を(全てではないにしろ)見抜いた。

『そんなに警戒しないでくれ。この場に似合わない民間人としか思えない人物と、ニューカッスルからカンボジアに特殊な偵察部隊が送られているという『情報』があり、逗留予定地であるクサック・スメイにいる人物。あとは、経験則とカマ掛けだ』

 レオンは勘が良すぎる横須賀基地司令官にやや警戒の色を見せながら、敬礼の姿勢を取る。

「第666独立機甲中隊、レオン・ホワイト特務中尉です」

『横須賀基地司令官・高遠慎哉少将だ。特務中尉……ね。訳ありかな』

「詳細についてはこの場では……。高遠司令には――」

『横須賀に来て、詳細を、かな?』

「……ええ」

『いいだろう。君たちを歓迎しよう。僕も君たちに興味がある。そこでの用が済んだら、横須賀に来るといい。ライナスのことは気にするな。方便はこちらでなんとかする』

 実に頼もしいとリンケージの何人かが沸き立つが、レオンだけは全面の信頼を置くにはまだ警戒が必要だと、本能が語りかけていた。

『さて。では相模少尉、フェルグランド准尉。ここ3年間の報告はこちらに来てからだ。まず、何が必要だ?』

 柔和な笑みを消し去り、高遠は訊いた。

「〝アルフェラッツ〟は現在自走不能状態です」

 龍斗は真っ先に必要な『力』について説明する。

「アルフェラッツ用にVIMFと各部装甲を。ハルクレイダー用の火器もお願いします。VIC―2とGFW―6の高分子ワイヤー、MMI―3Bと40ミリ弾倉もお願いします。そして…現地で合流したニューカッスルの部隊との同行及び現地AAA勢力との交戦許可を」

『いいだろう。現地部隊指揮官の許可があれば、こちらでは現地部隊との同行及びAAAとの交戦を許可する。物資に関してはニューカッスル支援用に用意していた武装類の輸送機を1機そちらに向ける。明朝には届かせる』

「ありがとうございます、司令」

『他に、必要なものは?』

「……副司令に、無事をお伝えいただけますか」

『フフッ、いいだろう。子煩悩な副司令に伝えておくよ』

 最後に柔和な笑みに表情を戻した高遠は、通信を終了させた。


 リンケージと龍斗たちは情報交換でも、と思ったが、さすがに両者とも疲労が凄まじい。リンケージたちは10時間以上のフライトから戦闘に突入し、龍斗たちも戦闘中に地球に転移している。

 まずは体を休め、翌日に改めて会合の場を持とう、とその場を解散し、割り当てられた隊舎へと向かった。

 その僅か10分後――

「ケイゴっ!!」

 ドンッ、とドアを乱暴に開け、慌てた様子でケイゴとマコトと部屋に飛び込んできたのは、ついさっき部屋の前で別れたはずのホノカだった。

 二組のベッドとテーブルで一杯のスペースに、ユニットバスがあるだけの決して広くはない部屋に、興奮した様子のホノカの荒い息がやけに大きく聞こえた。

「そんなに慌てて、どうかした?」

「なんだよ、さっきは『勝手に部屋に入らないように』とか『覗くな』とか言ってたくせに」

 上半身だけベッドに体を預けていた少年二人は、疲れた体を起こしながらホノカに向き直った。

「覗かれてた」

「「は?」」

 ホノカの返答に、少年二人はポカンとした顔をして顔を見合わせ、

「マコト……」

 ケイゴは隣のマコトをジト目で見たが、

「いやなんもしてねぇよ!っていうか一緒にいただろ俺たち!」

 尤もな答に、どういうことかとホノカに訊く。

 すると、彼女はシャンプーのボトルを差し出した。

「隠しカメラよ」

 ボトルの側面には、よく見なければわからない大きさの穴があり、その奥にレンズが見えた。

「レオンさんたちに伝えよう」

 そうして、解散して20分もしないうちに、再集合することになった。

「どういうことか説明願いたい、フオト少佐」

 リンケージに龍斗たちが加わり、フオト少佐の居室へと駆け込んだ。

「なぜ部屋の中にカメラが隠されている」

 レオンは小型のカメラをバラバラと置いた。調べてみると、自分たちが宛がわれた部屋にひとつないしふたつのカメラが隠されていたのだ。巧妙に隠された状態で。

「すまない。おそらくそれらは回収漏れだ」

 どういうことかとヒートアップする面々(特に女性陣)に対し、フオト少佐は淡々と説明する。

「先ほど話したように、ここは何度か戦闘に晒されている。そんな中で、裏切り者がいるのではないかという声も上がったのだ。このカメラはその監視のためのものだ。数週間前に外したつもりだったのだが、君たちの部屋はずっと空き部屋状態だったので、回収を忘れていたのだろう。こちらの不手際だ。謝罪しよう」

 フオト少佐の謝罪に、これ以上の詰問は憚られた。

 渋々ながらも、抗議はそこで終わり、解散となった。

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