メタリックガーディアン ~君が手にする魔法の剣 外伝~

神在月ユウ

第一章 異世界からの放浪者

プロローグ

 機甲暦63年10月――

 イズモ特別区鳳市は、戦場になっていた。

「散開しろ!とにかくやつのごぶあっ――」

 イズモ防衛隊指揮官の乗るカバリエが、巨大な丸太に押し潰された。

 正確には、直径8メートルを超える、爬虫類を思わせる尻尾に、であるが。

「隊長!――くそっ、ファルコン1のKIA確認!02が指揮を引き継ぐ!」

 ミーレスであるサンダーボルトは肩の240ミリキャノンを放ちながら後退する。その後方にもサンダーボルトが3機、射撃を繰り返しながら次席指揮官の行動に倣った。

 各機は上を見上げている。

 全高120メートルはあろうかという、直立する爬虫類を思わせる巨体。100メートル近い太い尻尾は周囲のビルを薙ぎ払い、口からは3000度に達する火炎を吐き出して街を蹂躙する。周囲からは戦車やミーレスの集中砲火が繰り返されているが、金属を思わせるウロコに阻まれ、決定打には至っていない。

 突如として現れたこの巨獣は、奈落獣。

 時折行われるラーフ帝国による奈落獣テロ。それに立ち向かうガーディアンの姿は、イズモ区民たちを救う救世主である。

 はずなのだが、彼らは今や救世主ではなく、無慈悲にひき潰される蟻に見えた。

 その混沌の戦場を、4機のライトニング級がビルの合間を縫って疾走する。

「アンディ、フランク、アブ、ついてきているな」

「もちろんですよ」「ボーナス貰わないうちは死にませんって」「あぶー」

 たてがみを靡かせる先頭のライトニング級は、脚部のターボローラーを唸らせながら巨獣に肉薄する。

 3人の返答を確認し、先頭のライトニング級〝ロードナイト〟は二振りの構造相転移ソードを構え、時にビルの外壁を、時にアンカーガンを用いた跳躍を駆使し、巨大奈落獣の死角に回りこむ。リンケージである青年――レオン・ホワイトは前を見据え、巨獣の足を狙い切り払うが、表面を撫でるだけで切り裂くには至らない。

 ライトニング級の逆サイドからは黒い重装甲ファランクス級が地表を猛進していた。

「あの火炎、いくら〝クロガネ〟の装甲でも耐えられないかもな」

 リンケージである橘コウイチは冷や汗を垂らしながら、〝クロガネ〟の右腕に装備された巨大杭打ち機を構え、跳躍。奈落獣の尻尾の付け根を目がけ、杭を打ちつけた。しかしその一撃はウロコを破ることなく弾かれる。それどころか、大きく身動ぎした奈落獣に振り落とされ、大きく唸る尻尾によって機体が弾かれる。〝クロガネ〟は50メートル先の高層ビルの中層に叩きつけられた。

 ビルにはりつけにされた〝クロガネ〟、その上空を、幾条もの白煙が通り過ぎていく。一泊遅れ、同じ方向からヒュンヒュンと空気を切り裂く音が追従した。

 無数のミサイルと砲弾が、巨獣に向って伸び、着弾。爆煙が巨獣の体を覆い隠した。

 奈落獣から1キロ離れたビルの合間に、その発射元はあった。キャタピラの上に砲戦装備の人型上半身――それだけ語れば典型的なディザスター級であるが、その容姿は異様だ。

 全身にのたまうコードと、火炎放射やミサイル、滑腔砲を腕に背部に装備しているその全高は40メートルもある。周囲の高層ビルに匹敵する巨体、そのコックピットで女はわらう。

「アハハハハハハハハ――!さーっずがアタシ!さっすが〝ムラクモ〟!さぁどうよ、怪獣君!」

 煙が晴れた。そこで、リンケージ・山田マナミのわらいは止まる。

 煙の跡には、空に向かい咆哮を上げる、目に見えて無傷な奈落獣が健在であった。

 この場にいる誰もが、絶望の二文字を刻み込まれた。近接では一撃でカバリエを粉砕した尻尾を振るい、広域に吐き出される高温の火炎はAL粒子で保護された装甲ごと焼却する。その体は飽和攻撃に対してもビクともせず、有効打を打てずにいる。時間の経過は死を生むばかりで、次々と戦車が、ヘリが、ガーディアンやミーレスがパイロットごと消えていく。

 そんな絶望的空気のもと、上空より降下する影があった。

「なんだよ、こいつは」

 それは20メートル超の白亜の機体であり、

「ラーフのやつら…、ふざけやがって!」

 そのコックピットで、十代後半の少年は、怒りを滲ませながらスティックを握っていた。

「やるぞ、〝クロスエンド〟!!」

 背部に装備されたウェポンボックスから4基のブレードイグニスが飛び出し、奈落獣に向かっていく。オーバーロード級ガーディアン〝クロスエンド〟はCALブレードを引き抜き、先行させたイグニスに続いて奈落獣の胸部へ急降下する。

 そのとき、巨獣が動いた。

 胸部のウロコが規則的に動き、観音開きに開く。その間から白い光が漏れ、次第に輝きを増していく。強力な砲撃か、殲滅攻撃か。どちらにしろ、放置すれば碌(ろく)なことにはならないだろう。

 しかし、〝クロスエンド〟のリンケージ、結城銀河はそれを好機と判断した。

(あの強固な装甲を抜くには――)

 〝クロスエンド〟は更に加速し、胸部へと到達する。

(この柔肌に突き立てる!)

 CALブレードを手前に引く。突き立てるための予備動作だ。

 白光は輝きを臨界させる。

 刃が突き立てられた。

 同時、巨獣の胸部から光が放たれた。

「う、……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!!!」

 白い光が視界を覆う。何も見えない。

 奈落獣を中心に半径1キロが白い光に包まれた。

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