第18話 ケイと元飼い主

ピンポーン……ピポピポピポピポピポピポピピピピピピンポーンピンピ――


「はい!」


 うるせー! 深夜になんだよ! と思いながら休日前で夜更かししてた俺がインターホンのモニターを見ると、知らない人が立っている。


 女の人?


 背が高く、金髪で、帽子をかぶっている。


「そちらに、我の番犬が世話になっているはずだ」

「あの……どちら様でしょうか?」

「わたしはサタン。王だ」

「佐田さん? 俺は王さんではないです。すみません。お部屋を間違えてますよ」

「いや、ここであっておる」


 ……頭のいたいのが来た。


「おぬし、番犬を拾って行ったのはおぬしであろう?」


 番犬……え?


 俺が振り向くと、ケイがおすわりをして俺を見ている。


「ケイちゃん、このひと、わかる?」


 モニターに映る女の人を指で示すも、ケイは首を傾げて……かしげる仕草がかわいぬぅ!


 画面から、深夜の来訪者が喋る声が届いた。


「ここにいるのはわかっている。我は番犬の位置を知ることができるゆえな」


 位置情報チップでも埋め込まれていたのかもしれない。


 もしそうなら、俺は知らなかったとはいえ、他人様のお犬さんを勝手に?


 玄関を開けると、俺よりも背が高い超絶美人が仁王立ちしていた。


 一七五センチの俺よりも高い!


 モデルでもやってんのか?


 瞳が金色……どこの人?


「番犬、帰るぞ」


 佐田さんがケイに声をかけると、ケイはびっくりした顔をして部屋の奥へと引っ込む。


「待たぬか!」


 佐田さんが、俺の許可なく勝手に部屋の中に! て、裸足!? てか、羽毛に覆われたロングコートの下は素足!? 変態か!?


 変態でおかしな人……ケイの元飼い主らしい佐田さんの手を、俺は賢明につかむ。


「待ってください!」

「邪魔をするのか?」


 あたりまえだ! ここは俺んだ!


 ケイが、リビングの奥で小さくなって震えている。


 でも、どうしよう? もし、迷い犬とかの届け出を佐田さんがしていた場合、俺は知らずして子犬を連れ去った側になって……返さないといけないのか?


「あの、佐田さん、俺はケイと一緒に暮らしていて、とても大切なんです。お金はお支払いするので譲ってもらえないでしょうか?」

「あ? お前はバカか? 人間が飼えると思っているのか? 地獄の亡者ども、悪人どもが逃げ出さぬようにと目を光らせ、火をふき、吹雪で威嚇し、爪や牙で罰を与える番犬だぞ?」


 かなり痛い人だけど、ケイのことに詳しい。やっぱり、飼ってたのか……そうか。


「これまで一緒に生活をしてきて、俺にとってとても大事な子なんです。お願いします。貯金あるんで……足りないなら借りてでも払いますから」


 佐田さんは腕をくみ、ケイと俺を交互に見る。


「地獄から出てくるのに、馬鹿カミが邪魔するから時間がかかったせいで、番犬を捕まえそこねたうえに、お前みたいな変人に拾われていたとは……おい、番犬! どっちといたいのだ?」


 佐田さんが、ケイに尋ねる。


 ケイは、すぐにタタっと駆けて、俺の後ろに隠れるとピタリと俺にくっついた。


 ケイ! 君は最高の相棒だよ!


 佐田さんはケイと俺を見て、うなずくと口を開く。


「よかろう。では、お前に譲ろう」

「ありがとうございます! おいくらを――」

「いや、よいよい! そんなものには興味ない」


 そうとうな金持ちなのか!?


 佐田さんは、ケイに言う。


「許してやるから、逃げ出した悪人たち全てをしっかりこちらに送り返せ。いいな?」

「ワン!」

「邪魔をしたな」


 佐田さんが帰っていった。


 悪人たち? おくりかえす?


 よくわからないけど、ともかくケイはこれでちゃんと俺の子だよぉ!


 正真正銘の相棒!


「ケイちゃん、おいで! 抱っこしたい」

「キューゥ……ピーピー♪」


 甘えてくれる大きなお犬さんを抱きしめる!


 もふもふぅ!


 このモフモフを、守ったのだぁああ!

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