2.両親の思い出

 ねぇ、あなた覚えている? 


 昌也が一歳になった時、公園でピクニックをしたわよね。


 レンゲの花が咲き乱れていて、あの子は花を手に取って楽しそうに笑っていたわ。


 あなたと出会ったのも、あの公園だった。


 あの日は公園がとても混んでいて、あなたは座るベンチが見つからなくて、たまたま私の隣に座ったのよね。そして、私が読んでいた本を見ると、「僕もその本好きなんです」って声を掛けてきて……。


 なんて唐突な男性だろうって思ったわ。でも、あなたが私を見つめる瞳がとても真っ直ぐで、優しくて、私はすぐにあなたに夢中になったわ。


 出会って一年で結婚して、二年後には昌也が生まれたわ。その五年後には三奈が生まれて。


 私は幸せな心で満たされていたわ。


 優しい夫に可愛い子供達……。


 永遠にこの時が続くと信じていたわ。


 そう────昌也が部屋に籠るようになるまでは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る