はぁ、可愛かった♡

 昼食を食べ終えた私と莉緒は、昼休みが終わる少し前に教室に戻る。

すると、教師室に入ってすぐ、視線を感じたのでそちらを見ると雪音と目が合った。

 雪音はいつもの人たちと話をしていたようだが、いつ私が教室に入って来るのかを気にしていたようだ。

 なので私は、そんな雪音に一度だけ微笑んだあと自分の席に戻る。


 (あの雪音が、友達との話に集中できないくらい私と莉緒のことが気になるみたいだね。まぁ、自分とは距離を置いている私が、突然莉緒と腕を組んだりしたら気になるか。でも、嫉妬してる雪音も可愛いなぁ)


 そんな事を考えていると、莉緒が私の方を向いて話しかけて来る。


「なぁ。なんかすげぇ、雪音さんに見られてる気がするんだけど」


「それは、雪音の彼女である私と腕を組んだんだから、その相手である莉緒を気にするのも当然じゃない?」


「いや、それは六華から組んできたのであって、私はむしろ被害者でしょ。完璧にとばっちりじゃん」


「なに?不満なの?因みにだけど、腕を組んだのは莉緒が初めてだから。まだ雪音ともした事ないよ」


「……は?まじ?絶対それのせいじゃん。そんな初めていらなかったわ。…頼むから私を巻き込まないでくれ」


 莉緒はそう言いながら手のひらで目を覆い、天井を見上げた。

 そんな姿を見せられては、さすがの私も申し訳なく思ったので、お詫びをする事にした。


「まぁ、巻き込んでしまったのは悪いと思ってるよ。お詫びと言ってはなんだけど、今日の放課後に好きなもの奢るよ」


「なら、駅前のカフェでパフェ奢って」


「わかった。好きにカスタムして頼んで良いからね」


「よっしゃっ!」


 莉緒は見た目はアレだが、実はかなりの甘党だ。

 私も甘いものはそこそこに好きだが、莉緒は私以上に甘いものが好きで、彼女と出かける時は必ずと言って良いほど甘いスイーツを食べに行く。


「ほんと、なんであんなに甘いもの食べてるのに太らないの?」


「さぁ?そういう体質だからじゃね?」


 莉緒は私より少し身長が高く、スレンダーな体型をしている。あんなに甘い物を食べてるのに、その養分はどこに行ってるのか疑問である。

 ただ、少なくとも胸ではない事は分かる。だって、私より小さいし。


 そんなこんなで、莉緒と話していたら昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、少しすると先生が入ってきた。


 (さてと、午後の授業も頑張りますか)


 お昼を食べた後なので、少し眠い自分にそう言い聞かせ、午前以上の視線を感じながら授業を頑張る事にする。






 一日の終わりを告げるチャイムが鳴り、帰り支度も済んだので莉緒に声をかける。


「莉緒、帰るよ」


「はいよー。今片付けてるから少し待たれよ」


 待たれよって、何かの映画で聞いたことがある気がするが、莉緒ってたまにボケなのか素なのか分からない時があるため反応に困るのだ。


 ツッコミを入れるべきかスルーすべきか悩んでいると、どうやら莉緒の準備ができたようで声をかけられた。


「よし、準備できた。帰るぞー。…って、どした?むずかしい顔して」


「いや、ツッコミを入れるべきなのか流した方がいいのか悩んでた」


「誰かボケたん?」


 この反応はどうやら素の発言だったらしい。ツッコミを入れなくてよかった。もしツッコんでいたら、私の頭がボケたと思われていただろう。


「なんでもない。気のせいだった。早く帰るよ」


「ういー」


 準備のできた莉緒にそう声を掛けると、なんとも気のない返事が返ってきたが、いつもの事なので気にせず帰る事にする。


 教室を出る時、まだ教室に残っている雪音の方を見ると彼女はまだ帰り支度をしていた。そこにいつも一緒の友達が声を掛けていたので、おそらくは一緒に帰るのだろう。

 

 こっちに気づくかなとも思ったが、話しかけた友人がちょうど私と雪音の間に立つ形となっているので、おそらく気づいていないだろう。

もし気づいていたら、手でも振ろうかと思ったが、どうやらタイミングが悪かったようだ。

なので、今回は何もせずに帰る事にする。


 ただ、今日は少し距離を置きすぎたので、明日の朝は最初に声をかける。

 相手を依存させるためには、距離管理は大事なのだ。






 私と莉緒は現在、駅前のカフェに来ていた。

 私はカフェモカとモンブランを注文する事に決め、莉緒に注文を決めたか確認する。


「莉緒、注文は決めた?」


「おうよ。私は四種のフルーツを盛り合わせたパフェに、生クリーム増しにする」


「飲み物はいいの?」


「じゃあ、カフェオレのミルク多め」


「砂糖は?」


「今日はいいかな」


「りょーかい。店員さん呼ぶね」


 お互いの注文が決まったので、私は店員さんを呼んで注文を済ませる。

 注文したものがくるまで暇だったので、莉緒には雪音の可愛さについて聞いてもらうことにした。


「ねぇ、莉緒」


「んー?」


「今日の雪音、莉緒に嫉妬しててめっちゃ可愛かったと思わない?」


「いや、されてる側としては気が気じゃないんだけど? 普段の雪音さんなら確かに可愛いと思うけど、今日のはさすがに共感できんわ」


「なんでよ。いつも余裕のあったあの雪音が、今は私の行動一つ一つを気にしてくれている。こんなに嬉しいことは他にないよ。しかも今まではなかった嫉妬までしてくれているし。不安と嫉妬を滲ませたあの表情、ほーんと可愛かった♡」


「お前は相変わらず歪んでるなぁ。…んで? 今回は何が目的でこんなことしてるわけ?」


「大したことじゃないよ。ただ、雪音には私に依存してもらおうかと思ってね」


「はぁ。純粋な雪音さんも見納めかぁ…」


 莉緒との付き合いはそこそこに長いため、私が雪音に対して歪んだ愛情を持っていることは知っている。

 それでも彼女は、それを否定しなかったし、やめるようにも言わなかった。彼女はただ、『愛のカタチなんて人それぞれでしょ。それを外野である私がとやかく言うつもりはないから』と、バッサリ切り捨てた。


 私はそんな彼女だから何でも話せるし、頼ってしまう。今回巻き込んだのも、彼女なら気兼ねなく私の計画を話しても問題ないし、なんだかんだ言って、相談などにも乗ってくれるからだ。

 だから私は友人として、彼女が一番好きで大切なのだ。


 雪音の可愛さについて話していたら、注文したものを店員さんが持ってきて、私と莉緒の前に置いた。 

 私は話していたことで多少喉が渇いていたため、カフェモカで喉を潤した後、モンブランを一口食べた。

 そして、目の前にある、二人分はありそうなパフェについて、注文者に尋ねる。


「それで? こんなバカでかいパフェなんか注文して、食べきれるわけ?」


「余裕っしょ。これくらいならたまに食べるから行ける」


 莉緒が頼んだパフェは何層名になってるのか分からないくらい層が出来ており、層と層の間には生クリームと果物、果物のソースが挟まっているようだ。

 そして一番上には大量の生クリームに、いちご・桃・マンゴー・マスカットが色とりどりに飾られており、見ただけで胸やけしそうだった。


「まぁ、残さないで食べるなら何でもいいけど」


「任せときな!」


 そう言うと彼女は、さっそくスプーンを持って、目を輝かせながらパフェを食べ始めた。その嬉しそうな顔を少し可愛いと思ったが、わざわざ言葉にするような事でもなかったので、私もフォークを片手に持ち、モンブランを食べるのであった。




 それから数分後、莉緒の前にあったバカでかいパフェは、綺麗に完食されていた。


「ほんとに全部食べるとか、驚きで言葉が出てこないよ…」


「言ったろ?余裕だって」


 彼女は本当に余裕そうな顔で、ミルク多めのカフェオレを飲む。

私もそんな彼女を眺めながら、この後はどうするかを尋ねる事にした。


「それで?この後はどうする?どこか遊びに行く?」


「んー、今日はいいかな。家帰って妹の面倒見ないと」


「わかった。なら今日は解散ということで」


「おう。また今度どこか遊びに行こうぜ」


「なら、土日はどう?私予定ないし、莉緒が良ければだけど」


「日曜なら暇だからいいよ」


「わかった。じゃあ、日曜に遊びに行こうか。何するかは私が適当に決めとくよ」


「はいよ」


 こうして、日曜日に莉緒と遊ぶ約束もしたので、私たちはレジでお支払いを済ませ、カフェを出る。

 そのまましばらく歩いた私たちは、駅の改札を通って電車に乗り、それぞれの家へと帰った。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければこちらの作品もよろしくお願いします。


『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327

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