六華、どうしたの? side雪音

 私、朝比奈雪音には、付き合って半年になる彼女がいる。


 中学一年生の時に一目惚れして、三年生の時に同じクラスになった事をきっかけに、私から声をかけた。

 中学最後の年だったから、好きな人との思い出が作りたかったのだ。


 そうして、私から声をかけたり遊びに誘ったりしながら過ごした一年はあっという間に過ぎ、中学校の卒業式の日となる。


 その日、私は六華に呼ばれて校舎裏に行き、そこで私は六華に告白された。

 告白された時はあまりの嬉しさに泣いてしまって、それを拒絶と勘違いした六華が帰ろうとした時は焦ったけど、なんとか引き留めて自分の気持ちを伝えた。

 こうして、私は三年間の片思いが実り、好き人と付き合う事ができた。


 その後の日々はとても楽しかった。高校入学までの間は何度かデートもしたし、入学後も放課後は一緒に帰ってカフェに寄ったり、お買い物をしたりと充実した半年だった。


 ただ、私があと一歩を踏み出せないため、まだキスとかは出来ていない。よくてたまに手を繋いだり、抱きしめ合うくらいだ。


 私は、自慢ではないがクラスでは人気な方だ。男女関係なく友達は多いし、入学してからは告白も何度かされてきた。ただ、私には六華がいるから丁重にお断りしたが。 


 そんな私を私が客観的に見た時、よくいえば人気者、悪くいえば八方美人。それが私の自身に対する認識である。


 そんな八方美人な私であるため、学校にいる間は六華と一緒にいる時間があまりなかった。

 確かに六華の事は大好きだし大切だけど、友達との関係も大切にしていきたい私は、六華から接してこない限り、友達と過ごす事の方が多かった。


 私はそんな六華を、私を理解してくれているのだと思っていたし、私の気持ちや考えを優先してくれているのだろうと思っていた。


 私の大好きな六華は、とてもかっこいい。綺麗な黒髪を肩まで伸ばし、私より10㎝ほど高い身長と長い手足はモデルのようで、本人は自覚がないようだが、そのかっこいい系に整った顔とクールな雰囲気から、密かに人気がある。おもに女の子から。


 女の子から人気があるという点に少しモヤっとした変な気持ちになるが、いつも六華は私の事を一番に考えてくれている。


 例えば、朝は欠かさず私より最初にメッセージで挨拶をしてくれるし、私より早く登校して、一番に声をかけてくれる。


 私がメッセージを送ればすぐに返事をくれたし、帰る時は余程の予定がない限り、いつも一緒に帰った。

 それに、一日の終わりとして、寝る前には電話をするのが日課だった。


 私はそんな毎日が楽しかったし、六華が私を一番に考えてくれるのが嬉しかった。 

 だから私は、六華は私の事を理解してくれているのだと思っていた。


 ただ、いつからか私はそれを普通に感じていたんだと思う。

 六華はずっと私の事を一番に考えてくれる。私のやりたい事を優先させてくれるんだ、と。



 最初に違和感を感じたのは昨日の放課後だ。いつもなら、HRが終わると一緒に帰ろうとメッセージが来るのだが、その日に来たメッセージはいつもと違った。


『今日、一人で帰るから。また明日』


 という、少し距離を感じさせるような素っ気ない内容だった。

 その時私は、多少の違和感を感じつつも、何か急用が入って急いでいるためだと考えて返信をする。


『わかった。でも、珍しいね。なんか急用でもあった?』


 そう返信したあと少し待ってみたが、六華からメッセージが返ってくる事はなかった。

 私はその後、なんとも言えない不安を抱きながら、隣に六華がいないことに寂しさを感じ、急いで家に帰った。



 六華から返信が来たのは、私が送ってから数時間後のことだった。

 返事が来たことに安堵しながら、いつもの六華に戻っている事を期待してトークアプリの画面を開く。


 しかし、六華から返ってきたメッセージは、またも素っ気ないもので、ただ『何でもない』の一言のみだった。

 私は、彼女に何かあったのか、私が何か気に触る事をしてしまったのではないかと不安と心配で胸がいっぱいになる。


 その後も、六華から原因を聞き出そうと思い、それとなく聞いてみたりもしたが、曖昧にどこか距離を置かれたような返事が返ってくるばかり。

 さらには、日課の電話も『今日は疲れてるから寝るね』の一言で無くなってしまった。


 私はその日の夜、どうして六華が距離を置くようになったのかを考え、明日はいつもの彼女に戻ってくれている事を祈りながら眠りについた。





 朝、起きてすぐにスマホを確認する。いつも私が起きる頃には、大好きな六華から挨拶のメッセージが届くからだ。


 私は、六華からメッセージが来ている事を祈りながらスマホを開くが、いつもそこにあるはずの通知はなかった。


 今までこんな事はなかったが、もしかしたら寝坊したのかもしれないと思い、また不安で一杯になりそうな自分を納得させ、私からメッセージを送った。


 その後、学校に行く準備をしながら、六華から返信が来ていないかを数分おきにスマホを開いて確認する。


 そんな事をしていたからか、準備が終わっていないにも関わらず、いつも家を出る時間になっており、慌てて残りの準備を済ませて家を出た。


(はぁ。六華のおはようが聞きたい。昨日は電話も出来なかったから、余計声が聞きたい。ほんと、六華どうしちゃったんだろ)


 スマホ画面を何度も確認して、六華の事を考えながら最寄りの駅まで歩いている途中、六華からメッセージがきた。


『おはよ』


 その一言を見ただけで、安心してしまう。やはり、寝坊か体調不良などで連絡が遅れたのだろう。

 私はそう思い、彼女の体調などを気にしながら、すぐに返信する。


『おはよう。今日はメッセージがなかったから私から送ったけど、大丈夫?体調悪いとか寝坊とかしてない?』


 私にしては珍しくすぐに返信をしてしまったが仕方がない。いつも連絡をくれる彼女から連絡がなかったため心配だったのだ。


 しかしそんな彼女から返ってきたのは、寝坊でも体調不良でもないという内容だった。

 では、何故連絡をくれなかったのかと疑問に思いつつ、学校に行けばいつもみたいに挨拶してくれるだろうし、その時に聞けばいいと思い学校に向かった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。



『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327

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