15.呆気ない

 いつもの校舎が、色とりどりに装飾され、様々な人で賑わっている。

 そんな中、俺たちはベランダに避難していた。

 理由は簡単。

 人混み嫌いの柳生の休憩だ。


「一緒にまわろうって言ってたくせに」

「まわった、まわった」

「ほとんど食べ物関係だろ」

「……人がいるのが悪い」

「そら、文化祭だからいるだろうよ」


 防犯の都合上、生徒や学校側が招待した人以外入れないようにはなっているが、元々生徒の数が多い学校だから、来る人だって多くなる。

 買ってきた焼きそばを食べながら屋外を見れば、吹奏楽部が演奏をしているところだった。

 もちろん、その周りには人が沢山集まっている。

 屋外でこれだ。

 出し物がある屋内には、当然もっと人がいる。


「結局、田所さんとはスケジュール合わなくてまわれないんたけ?」

「俺たちがフリーの時間は向こうが委員会の仕事で、こっちが店番しているタイミングで向こうはフリーなんだよな」


 委員会も大変だ。

 見回りやら、雑用やら、色々やらされているのがわかる。


「もうまわらないのか、文化祭」

「もう充分でしょ。それにそろそろ僕ら、店番だし。それ終わったら文化祭も終了でしょ」


 なんか、呆気ないよね。


 吹奏楽部の演奏が終わったらしく、拍手の音がここまで聞こえてくる。

 それを見下ろしながら、柳生がポツリとそう言った。


「呆気ないか?」

「だって、準備にすごく時間を要しててもさ、始まってしまえば終わるのはあっという間じゃん? その後には、なにも残らず、明日には学校だって、準備期間前と同じ姿になっててさ」

「寂しいか?」

「多少はね。……卒業したときも、そうなるのかな」


 風が吹く。

 屋外でのイベントはすべて終わったと、委員会の生徒の声が聞こえた。

 ベランダのドアが開いて、クラスの奴がこちらを見る。

 

「木津、柳生、時間だよ」

「わかった」

「はーい」


 返事をして、散らかしていたものを片付け、立ち上がった。

 俺たちのクラスはペットボトルのジュースを販売している。

 文化祭が始まったときは賑わっていただろうが、終了までそう時間もないこのタイミングで来るのは、買うよりも捨てに来る人のほうだろう。

 

 実際、店番として立っていた時間はそんな調子だった。

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