ママだーいすき

@wizard-T

おしりたたき

 ぼくはママがだーいすき。だからね、ママのことはぼくがまもってあげる。


 ぼくのおうちは6かいだてのマンションの1かい、108ごうしつってところ。このおうちにいるのはぼくとママだけ。

 パパ?いないよ、ぼくがうまれてすぐいなくなっちゃったんだって。どうしてだろ、こんなにいいママなのに。

 どういいママなのかって?みんないってるでしょ、わるいことはわるいっていわなきゃだめだって。ママはそれをやってる。


 だからぼくはママのことがだーいすき。


 ママはきょうもぼくのために、スーパーってところでひっしでがんばってる。

 あ、おとこのひとがこわいかおをしてママにせまってきた。

「何だよこのポテトサラダは!蓋が半開きで空気が入ってるじゃないか!」

 ぼくわかるよ、こういうかおをしてそういうことをいうってことは、ママがわるいことをしてるっていうこと。

「大体、ここのスーパーの店員はなってな……」

 わるいことをしたらおしおき、そうでしょ?

 だからこのひとはいまからママのことをおしおきしてあげなきゃいけないの。そうだよね。


「あっちょっと、いやその、これはっ…やめて、誰か止めて下さい!」


 ママちょっとごめん、おいたはゆるせないでしょ?だからこのひとにおしりぺんぺんしてもらうから。

 ほら、ママをかつぎあげて、みぎてをおしりにふりおろして……あれ?なんでいやがってるの?だってママがわるいことをしたからさっきみたいにおこってるんでしょ?それなのになんで?


「た、助けてくれー!!」

「謝ればいいのに…」

「だって、だってこのポテトサラダ、蓋が、あーっ!」


 ……ママかわいそう、でもわるいことをしちゃってめいわくをかけちゃったんだからしかたがないよね。

 でもさすがママ、えらいよね。ものすごーくいたいはずなのに、いたいってひとこともいわないでがまんして。でもやっぱりいたいんだよね、きれいなかおがぐちゃぐちゃになってるよ。はやくごめんなさいすればいいのになー……。


「ちょっと、お巡りさん、こっちです!」

「あーっごめんなさい、見間違いでした!本当です、いやそうじゃなくてここに持って来るまでの間に開いちゃったんです!この人は何も悪くありません、本当です!」

「白昼堂々女性を掴み上げて尻を叩くだなんて、暴力行為だけでなくセクハラと言われても反論できないと思いますよ……」

「ちが、ちがっ、手が勝手に……いや本当に……!」

「後は署で聞きますから……」


 あれ?なんでだろう、わるいことをしていたママをおしおきしてただけなのに、おまわりさんにつれていかれちゃった。

 おまわりさんってわるいことをするひとをつかまえるのがおしごとなんだよね、それがどうして?




「……やっぱり、配属を変えますか?」

 ママはおしおきされていたいいたいってなってるだろうってことで、いったんおみせのうしろにひっこんでなかまのひとといっしょになにかはなしてた。

「はい……できれば……」

「でも難しいですよ、ここに勤めてからもう二年なんでしょ?それだけいればすっかり配膳の仕事を覚えてしまっているでしょ、それからまた配属を変えるとなると…」

「我慢して覚えます」

「それはまあその、そうなんですけど……うちも……」

 はっきりいわなきゃだめだよ。

 いいたいことがあるならばはっきりときこえるようにいう。これあたりまえのことじゃない?あたりまえのことができてないなんてだめなおとなだね。

「大変なんですよね、このご時世。経営が……」

「ええ、それに一人のパートタイマーをおいそれと優遇する訳にも行きませんし」

「もうしばらく、このままの仕事、配膳係をやらせて下さい……お願いします」

 わざわざこんなところまでつれてきてなにがいいたいのかよくわからないままおわっちゃって、ママのなかまってへんなひとだね。

「ったくもう……参ったね。俺あの人らみたいにクビになりたくないもんな……ましてや犯罪者なんか真っ平ごめんだよ」

 ママがもとのばしょにもどっていくと、ママのなかまのおとこのひとがつらそうにためいきをついていた。

 そういえば、ママはこの6かげつでこういうことがなんかいもあった。えーっと、たしかきょうが6かいめだったかな。さいしょはねえ…………ごめんわすれちゃった。

 2かいめはね、いまみたいにママがわるいことをしたからってどなってきたおんなのひとがママのほっぺたをたたきまくって、ママがいたくないのかっていわれてだいじょうぶですってママがいったからそれでおわり。

 それで3かいめはママがしっぱいして床におみずをこぼしておきゃくさんのスカートにかけちゃって、それでおこったおじさんがママをどなりつけて、そのあとおみせのそとにつれだしてママのくびをつかんだんだ。

 ママがわるいことをしたから、おこるのはあたりまえだよね。でもそのおじさん、そのあといなくなっちゃったみたいなんだけど、どうしたんだろ?




「おしごとってたいへんだねー、ママ」

「うん、精一杯私たちの為に頑張ってるのにこれじゃ足りないって騒ぐ人っているのよね、可哀想に……」

 おしごとにもどってきたママのところに、ママとおなじぐらいのねんれいのおんなのひとと、そのおんなのひとをママってよんでるおんなのこがやってきた。

 ふたりとも、さっきママがおいたをしておこられたところをみてたみたい。でもさ、ママがわるいことをしてたのをしってるんでしょ?なのにどうしてママがかわいそうなの?

「あっと……」

「いえ大丈夫です、ほら」

「はいっ……」

 そうだよね、ママはちょっとさっきのおしおきでつかれちゃってるんだ。おかしのふくろをおとしちゃうのもしかたがないよね、

 そうだよね。おんなのこはていねいにふくろをママにわたした。そのおんなのこをみたおんなのこのママはおんなのこをえらいえらいっていいながらあたまをなでた。

「ご苦労様です」

「おっとすみません、道を塞いでました。ほらほらこっちこっち……」

 ママがいろんなふくろがのったくるまをおしていくと、なぜかみんなみちをあけてくれる。

 そうだよね、くるまのじゃまだもんね。

 おとこのひともおんなのひとも、おとこのこもおんなのこも、おにいちゃんもおねえさんも。おしごとのじゃまをしちゃだめだよね、だってかいものができなくなっちゃうから。


「ちょっと何これ!」

「どうしたんですか?」

 あっ、どなりごえがする。ママたちみんなそっちのほうこうをみた。なんかおんなのひとがおにくのはいったふくろをもちながらこえをあげてる。なんだかものすごくおこってるみたい。

「ちょっとこれ見てよ!消費期限を示すシール!これじゃ………………あのー、すみません。えーと、これ……シールが剥がれちゃってるんですけど………………いつまで持つんですか……?」

「すみません、古川さーん」

「精肉担当の古川です。あーこれ確かにシールが剥がれちゃってますね。大変失礼しました。今回はこちらの商品でどうかご容赦を……」

「わかりました…………でも、どうかしっかりお願いします、よ……」

「はい、わかりました……」

 あんなにおこってたのにママのかおをみるときゅうにモジモジしだした。おトイレにいきたくなったのかな?どっちにしろへんなひとだね。



「今日の仕事は上がりですね、お疲れ様でした。これどうぞ」

 ママってすっごくにんきがあるんだね。

 だってそうじゃなきゃなかまのおんなのひとからのみものをわたされたりしないでしょ、ぼくなんかまちがってる?

「本当大変ですよね、最近のお客さんって乱暴で。そうでしょう?」

「その相手をしてるんだから尚更ですよね」

「開店早々にやって来てあんな難癖付けて怒鳴り込んで…どんな人生送ってたらあんな事が出来るんでしょうかね」

「今日は日曜日だから開店早々来た所で別に」

「いやそれを差し引いても、いきなり何事もないポテトサラダの包みを勝手に開けておいてあんなクレームつけて挙句…………」


 あれ、ママがしなものをならべるのをしっぱいしたからおこってたんじゃないの?りゆうなんかどうでもよくて、ただもうおこりたいから、ママをおしおきしたいからおしおきしてたの?

 そういうふうにらんぼうなことをしちゃいけないって、パパやママからおそわってこなかったんだ……わるいパパとママだね。もしぼくのパパがそんなパパだったら、ぼくはぜったいにパパのことすきにならない。みんな、そうだよね。




「お帰りですか」

「はい……」

「なんかまた大変な事があったとか、大丈夫ですか」

「大丈夫です、大した事じゃありませんから…………」


 マンションにかえってきたママを、みんなすごーくしんぱいしてる。ママはやっぱりみんなのにんきものなんだね。

 だからみんながママのことをかまってくれる、みんなママのことがだいすきなんだよね。

「はぁ……全く」

「どうしたんですか?」

 あれ?ベビーカーっていうのにあかちゃんをのせた、ほかのだれかのママがつらそうなかおをしてる。

「いえ何でも……明日雨が降りそうで、しかもかなりの大雨になりそうで」

「そうでしたね、ああ洗濯しなきゃなー……」

 でもママがね、なにがあったのかなーってしんぱいしてふりかえるとそのひとはきゅうにえがおになっておてんきのはなしをしはじめた。おてんきがしんぱいならばさいしょからいえばいいのに、どうしてなんだろ?

「あそこの奥さん……」

「しっ、人生を台無しにしたくないでしょうお互い」

「はい…………あそこの旦那さん、一体何をやってるんですかね」

「まったく、その通りよね……あんないい人を置いて何処行っちゃったんでしょうねー……」

 ぼくのパパがどこにいるのか、ぼくはしらない。ママだってしらない。

 なんでぼくが、ママがしらないってしってるかって?だってママとパパはすきだからパパとママになったんでしょ?それでぼくがうまれたんでしょ?すきなひとといっしょにいたいんでしょ?ぼくがもしママだったら、なにがなんでもさがしにいくし、そのまえにぜったいにはなれないでってひきとめる。


「…………どうしたんです正野さん」

「いえ、私ここに越してきてまだ半月なんですけど…」

「ああそうでしたね。じゃあ正野さん、あの人に逆らってはいけませんよ」

「はあ…………でも私、まだ見てないんですけど」

「さあおうちに帰りましょう!明日どころか明後日まで雨ですから、はやくお洗濯しないと危ないですよ!」

「全く羨ましいですね、あんなに安い値段でこのマンションに入れて。それもすべてあの人のお陰なんですから、まあそういう事で…ああ、正野さんは焼き芋を召し上がった事がないんでしたっけ」

「私だって焼き芋の一度や二度ぐらい……」

「いやいや、あの人が作る焼き芋ですよ。いやー、実においしくって、本当に今でも思い出すぐらいで…去年の晩秋でしたよね、残念ですよね正野さんも」

 このしょうのさんってひとがすむおへやは、ほかのおへやよりちょっとやすいみたい。どうしてなのかなあ。それにママのおかげでやすくなってるって、ぼくにはぜんぜんわかない。


 ねえママー、おしえてー。

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