第24話 杖と冒険者!

「『エルダー・トレント』の材質に耐えられる芯材っていうと限られてくるんだよなァ。つっても、嬢ちゃん。アンタが短杖を使うか長杖を使うかで話が変わってくる。あんたどっちが欲しいんだ」

「短杖で、お願いします」


 短杖と長杖。文字通り、杖の長さで分けられている。


 取り回しが効き、持ち運びやすいがその分杖としての性能がいくばくか劣る短杖。これは戦闘や護衛など短い詠唱をよく使う魔法職が使う杖だ。


 逆に長杖とは持ち運びにくく、杖としての性能が高い。持っているのはバフや回復などの大規模に魔法を行使する必要のある魔法職だ。


 マリは戦闘をメインにする魔法使い。なら、短杖を使うのは当然のことで。


「まァ、接客しちまったしな。見積りくらいは作ってやんよ。こっち来な」


 気だるそうにズボンに手を突っ込んで歩くガモンはどこからどう見ても浮浪者のおっさんだ。本当にこれが1本で白金貨15枚も持ってく杖職人? ぼってんじゃねえの。


「利き腕出しな」

「こ、こう?」

「そうだ。そのまま動かすんじゃあねえぞ」


 ばっと腕を伸ばしたマリに巻き尺をもって近づくガモン。そして、腕の長さを測って紙にペンを走らせていく。


 ……お? 紙を使っているのか??


 紙とは貴重品だ。作れることにはつくれるのだが、大量生産することが出来ないため、使っているのは貴族や王族などの書類をよく書くような人種。中でも金を持っている奴らだ。


 その中でさらっと紙にメモを取っていくガモン。かなり金を稼いでるとみるべきだ。やっぱりそれなりの杖の値段を取っているのは間違いないようで。


「おォーし、サイズはこんなもんで良いだろ。芯材は……おい! ミット! Rランク7の素材は何が残ってる?」

「え、えっとぉ……。グランド・ミノタウロスの鋭角、槍鉄鯨の龍涎香、あとは隕鉄の重鉱ですね」

「どれも微妙だなァ……。相性が悪ぃ。R8の素材は……まだウチにあったっけ?」

「こ、黒死鬼の魔核が残ってます!」

「お、良いの残ってんじゃあねェか。そいつで作ろう」


 黒死鬼? 聞いたことが無いモンスターだ。

 だが、グランド・ミノタウロスよりも上のランクの素材ということはよっぽど強いモンスターと思える。


「つーことはだ。杖のサイズがこれくらいで……。杖の芯材に使う材質の量は……」


 あーでもない、こーでもないと言いながらガモンが紙に計算式を走らせる。凄まじい速度だ。普段から相当量の計算をこなしているのだろう。さっきまでのやる気の無さはどこへやら。


 目を喜々として輝かせながら紙に式を書き終える。ほとんどの計算を終えたのは書き始めてから数分も立っていないうち。


 ガモンは立ち上がると、文字で真っ黒になった紙を俺達に押し付けてきた。


「これが見積り書だ」

「いや、全然読めないんですけど」


 俺がそう言うと、ガモンはため息をついた。


「素材費、製作費、補償費。全部合わせて白金貨7枚だ」

「なッ……」


 あまりの金額にエマが気絶した。


 俺は後ろに倒れ込むエマが怪我しないように支え込む。


 俺が考えていた予算は白金貨5枚。2枚オーバーだ。2枚だからと侮ってはいけない。金貨に換算すると200枚である。流石においそれと払えるような金額じゃない。


 だから、


「なあ、その杖を使えば魔法の威力はどれくらい上がるんだ?」

「あん? 今の杖を見てみねえと何とも言えねえぞ」


 だから、新しい杖の有用性を知りたい。その杖に対して白金貨7枚を払うだけの価値があるのかどうか。それを知りたい。


 俺はちらっとマリに目配せ。


「こ、これがボクの杖だよ」

「ほぉ。48式の後期モデルか。市販に流通してる中だと値段に対する杖の性能はまあ良い方だな。ま、市販に流通してる杖にまともな杖はねえんだけど」

「ですよねえ」


 ガモンの言葉に頷くマリ。ガモンはその杖をよく見て、魔力を流したりわずかに振ったりしていた。


「しっかし酷い杖だな。よくこれで魔法を使うもんだと感心するぜ。なぁ、嬢ちゃん。アンタの周りにこれと同じ杖を使ってる奴は?」

「い、いないです」

「だろうな。魔法使いで市販の杖を使うのは初心者だけだ。なぁ、アンタがこのパーティーのリーダーか?」


 ガモンが俺を見る。


「ああ。そうだ」

「なら、財布の紐もアンタが握ってんのか」

「そうだ」

「悪いが……俺は杖のことは全然分からん。分かりやすく頼む」

「そうだな。まずは魔力の親和性。こいつが6倍から8倍は改善する。つーことはだ。6倍から8倍、魔法が使いやすくなるってことになる」

「使いやすく? 発動が速くなるってことか?」

「それもある。だが、同時に魔法の威力も上がる。当たり前だ。魔力の制御性能があがるんだから。それに応じて威力も上がる。そうだな。俺の見立てだとざっと5倍は上がるぜ」

「ごっ、5倍!?」


 今日の昼間、エマの支援を受けて放ったマリのLv3魔法を思い出す。


 ただの『火炎弾ファイア・バレット』で、『エルダー・トレント』の腹に大きな穴をあけたのだ。あれの5倍。


「おう。ついでに発動速度は6倍くらい早くなる……つってもこれは魔法の種類によるけどな。平均してそれくらい早くなると思ってくれたらいい」

「6倍も!? 俺が何にも知らねえからって適当なこと言ってねえか!!?」

「言うわけないだろ……。魔法使いにとって杖ってのはそんだけ重要なんだよ。普通の魔法使いが良い杖を手にして一気にランクを上げる……なんて話は聞き飽きるほど聞いてんだろ。アンタが、その魔法使いのことを思うなら白金貨7枚ってのは安い買い物だと思うぜ」


 7枚か……。


 俺は手にもったままのクソ長い枝をちらりと見る。


「あ、そうだ。俺たちが持ってきた『エルダー・トレント』の枝があるだろう」


 これだよ、これ。っていう感じでガモンに見せる。


「ああ、あるな」

「杖に使う場所以外要らないから買い取ってくれって言ったら買い取ってくれるか?」

「あん? そういう感じか。良いぜ、白金貨5枚金貨50枚ってとこでどうだ」


 予算は少しオーバーするが、ガモンの言っていることが正しければ、マリの戦力の大幅増強に役立つ……というか、マリの奴、魔術都市ここに来てからあり得ないくらい強くなってないか?


「よし。買った」

「ほ、ほんとに!? ほんとに良いの!!?」

「ああ。俺達には絶対にいる杖だ」


 俺ははしゃぎたいのを一生懸命抑えているマリの頭を撫でた。


「じゃあ明日の昼に来てくれ。完璧な杖を用意するぜ」

「明日ァ!?」


 何だコイツ!?

 ただの有能じゃんか!!!

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