第10話 私はあなたを許さない

 須実が嫌がらせをしてくるようになって早2週間も経ってしまった。

 1ヶ月前まではあんなに仲良しだったのが信じられない程の豹変ぶりだ。

 あれから何度須実と仲直りを試みたか。またあの時みたいに仲良くしたいと何度思ったことか。須実には分かりっこないだろうけれど。


 おまけに須実から全てのSNSアカウントをブロックされてしまった。

 そして今日、グループチャットの表示が5人から4人へと減っていた。

 誰がグループを抜けたのか確認してみると案の定須実だ。

 暇つぶしにSNSの趣味垢でフォロワーとやり取りをしている最中、とある呟きが目に入った。


「優香って女マジでウザイんですけど。一体いつまで友達ヅラしてくる気?」

「ムカつくからアイツの私物壊しちゃおっかな〜。でも私はいい子ちゃんだからそんな事しませーんw」

「アイツ、いちいち話しかけてくるから鬱陶しいんだよねw」

「アイツ、私の事を友達だって勘違いし過ぎwマジで頭おかしいだろw」

 間違いない。須実のアカウントだ。その酷い罵詈雑言の数々に腸が煮えくり返るような気分になる。

 須実を懲らしめてやりたい…そう思ってしまった。

 須実が小百合達に嫌がらせを受けていたのは須実自身の自業自得ではないか。

 須実のこういう所に憤った小百合達が嫌がらせをするに至ったのではないかと。


 けれど、理由はどうであれ人を攻撃すれば最低な加害者に成り下がってしまう。

 だから我慢するんだ…と。私は何度も自分にそう言い聞かせていた。


 でも、我慢の限界だった。毎日須美にあることないことを言いふらされて辛かったこと。SNSで悪口を書かれたことも。だから、須美を少しだけ懲らしめてやることにした。

 少し懲らしめるだけならば構わないよね?


 次の日、学校に着くと須美は既に学校に来ていたらしく彼女のリュックサックが机の横に掛けられている。

 私は、須美のリュックサックを漁って水筒を取り出した。

 そして、そのまま蓋を開けると彼女の机の上で水筒を真っ逆さまにひっくり返す。水筒の中身が勢いよく流れ出してくる。須美の机の上はあっという間に水浸しになった。私は、空っぽになった彼女の水筒を床に向かって乱暴に叩き付ける。

 その一部始終を見ていたのだろうか。小百合が楽しそうに笑いながら

「優香、あんたなかなかやるじゃん。マジで面白かったんだけど!」

 と手を叩きながら言う。

「優香、あんたひょっとして須美と何かあった?」

 悠里が心配そうな顔で聞いてくる。私は、須美から受けてきた嫌がらせの数々を小百合達に打ち明けた。


「マジで最低だよね!」

 笹江が唇を尖らせながら言った。私の話を聞いていた小百合は小さく舌打ちをすると

「アイツはそういう奴なんだよ。」

 と忌々しそうに吐き捨てた。

「アイツさ、取るに足らない事でキレ散らかすし、少しでも気に入らないことがあるとしつこく嫌がらせをしてくるからマジでムカつくんだよね。」

 悠里が淡い茶色の髪の毛を指先で弄りながら言う。


「アイツさ〜自分が悪い癖に被害者振るから厄介なんだよね。」

 笹江が真顔で言った。その表情には何とも言えない怖さがあって「うん」と頷かずには居られなかった。


 その後、須美が教室に入ってくると、水浸しになった自分の机を見つけて今にも泣きそうな表情になっている。

 須美は拭くものを何も持っていないのだろう、ただどうする事も出来ずに立ち尽くしていた。

 おまけに、椅子まで水浸しになって座ることも出来ない。

 今にも泣き出しそうな須美を見て、何とも言えないような快感が心の底から湧いてくるのを感じた。

 須美が傷つく様を見るのが楽しい。もっと懲らしめてやりたい。気が付けば須美を傷付ける方法を考えてしまっている自分が居た。

 勿論してはいけないことだと分かっている。けれど、今まで須美から散々嫌がらせをされてきたのだ。須美を傷付けても許されるような気がした。


 やがて千夏が教室に入ってくる。水浸しになっている須美の机を見るなり

「大丈夫!?」

 慌てて雑巾を取って来ると須美の机を拭き始めた。

 小百合達はさっき教室を出て行ってしまったためここには居ない。此処に居るのは私と千夏と須美だけだ。

 千夏が私の事を見るなり一言。

「これ、まさか優香がやったの?」

 千夏の一言に私は何も答えなかった。

「何とか言って。優香がやったの?それとも小百合達がやったの?」

 黙っていると千夏が更に聞いてくる。私は小さな声で

「知らない。」

 とだけ答えた。


 そして、昼休み。また一人でお弁当を食べようとすると、小百合達が笑顔で私に向かって手招きをする。

「優香、良かったらあたしらと一緒に食べない?」

 と小百合が親しげな笑みを浮かべて言う。

「良いから一緒に食べようよ。」

 笹江がそう言いながら近くにあった椅子を自分の隣に持ってくる。

 私は食べている途中のお弁当を持って笹江の隣に座った。

「須美ってマジでうざくね?」

 小百合が教室中に響き渡るような大声で言った。

「分かる〜。アイツって自分が悪い癖に被害者振るし、マジで頭おかしいんじゃないの?」

 悠里が不気味に笑いながら言う。2人の言葉が耳に入ったのだろう、須美がピクリと頬を引き攣らせる。

「アイツマジでムカつくよね。」

 笹江がわざとらしく顔をしかめる。

「ね、優香もそう思うでしょ?須美ってマジでうざくね?」

 小百合が真顔で言った。須美に対する怒りも溜まっていたので私は迷うことなくその言葉に頷いた。

「うん、そうだね。」


 それから学校も終わり、私は千夏達を避けて帰ることにした。

 小百合達と一緒に過ごしている私を見て千夏は何かを悟ったらしく、何度も私に声を掛けようとしていた。

 須美の机を水浸しにした犯人が私だということがバレてしまったのだろうか?

 徒歩で家に帰っている最中にふとスマホの通知音が鳴った。確認して見るとメールが1件届いているようだ。


『千夏︰話がある。明日美ちゃん達も来ているから今すぐ公園に来て。』

 その文面を見て思わず心臓が止まりそうになる。千夏からだ。話といえばきっと須美のことに違いない。

 文面から察するに千夏どころか、明日美と一翔、五郎にもバレてしまっているみたいだ。


 私は、言いようのない不安を抱えながら重い足取りでいつもの公園へと向かった。

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