第23話 自主性

 ボイルは改めて成長したスキルの確認と、エリナに会う約束を取り付ける。鉄鉱石などは全て売却予定だ。


【鎚技】【上級金属防具業】【上級槌の心得業】【上級槌の攻撃強化業】【上級|打砕(ださい)強化業】【下級水魔法業】【発見術】【上級採取】【下級採掘】【夜目技】【育成技】【下級マッピング】これが戦闘後のスキルだ。


 武器と魔法、採取が上がった。そして新スキルも一つ覚えた。槌の進化は槌術からSPを消費して鎚業に、そして鎚技になった。打撃強化術が進化し、打砕強化に名称が変わった。そして上級まで育った。


 金属防具、心得、攻撃強化、水魔法、採取は進化しても名前は変わらなかった。二段階目からはSPが必要だった。一段階目はお試しのようなものなんだろう。


 新スキルは【下級マッピング】だ。休憩時に【下級漁獲】と入れ替えていた。ホワイトリリーの群生地はマップに記載されている。三日後改めて行けば、また採取可能だ。


「アークたちは仲がいいな」


 新たなアーツは鎚で二個。エレファントハンマーはフルスイングの上位版だ。使用MPもそれなりに必要だ。リキャストタイムは二五秒。


 ハンマーヘッドは攻撃力が上がり、頭部攻撃時に追加ダメージが発生する。稀に二秒のスタン状態を引き起こす。これで鎚のアーツはフルスイング、ハウリングソウル、ストロングプレス、エレファントハンマー、ヘッドハンマーの五個になった。


 水魔法も新たに三個覚えた。使用MPにリキャストタイムは全てバブルスフィアと同じだ。バブルリペアは回復魔法。回復量はポーションの半分。バブルカーテンは前方の僅かの範囲に薄い水の膜を張る防御魔法。バブルオーラは火と土属性耐性を上げる魔法だ。


「お客さん着いたよ! またのご利用をお待ちしています」

「ありがとうございました」


 一同お礼を言い、馬車から降りる。


「ボイルさんは、このままオベールですか?」

「いや、知り合いの店に寄ってから向かう」


 夕日が照らすだす城門や城壁は壮大で幻想的だ。


「では、ここでお別れです」

「今日はありがとう」

「こちらこそいい経験をさせていただきました。明後日も楽しみにしています」

「またな!」


 お互いに手を振り合い別れる。トリスは早くレポートに纏めたいのか、行きと同じように走り去った。モンスターに対する執着心は、少しは満たされたようだ。ボイルたちは装備を解除し、ゆっくり城門を潜る。


「おう! 兄ちゃんも今帰りか!」

「パロミトールじゃないか! 昨日の夜ぶりだな!」


 声をかけてきたのは北門で馬の説明をした衛兵だ。


「今日は昼からの勤務なんだ」

「シフト制なのか」

「衛兵は二四時間、どんな時でも住民を守る職業だからな!」

「ありがとう」

「いいってことよ!」


 二人は拳を作り軽く打ち付ける。


「オベールだがいい宿だ。ありがとう」

「今度一杯奢ってくれ」

「おう。金を稼ぐ算段も付いた。三日後以降なら予定が空いているぞ」

「改めて連絡するよ。いやー探検者と酒を飲み交わすなんて楽しみだ」


 ボイルはディノスをパロミトールの前に差し出す。


「今日テイムしたゴブリンのディノスだ。よろしくな」

「これが農場に居付いていたゴブリンか。まあ悪いことしてないしな。罰則はなしだな」

「ネスからもそう言われた」

「なら問題ないな」


 ボイルはここで一つ考えていたことを提案する。


「もしよかったら、俺が寝ている間だけでいいのだが……」

「なんだよ。歯切れ悪いな」

「実はこのアークは騎士に憧れていてな。よかったら、訓練に参加させてくれないか? いい経験になると思うのだが」


 プレイヤーの許可があれば、テイムモンスターはある程度の自由行動は可能だ。だがそれでは味気ない。仲間が活々としていないと面倒見がいいボイルは楽しくない。


 アークは直立不動で成り行きに身を任せているが、どこかわくわくしている。ディノスは訳が分からず、楽しそうに街並みや行き交う人を眺めていた。


「……うーん。……ボイルが全責任を持つなら訓練所に招待しよう!」

「俺は探検者だ! テイムモンスターとは一蓮托生! 全責任くらい持つさ。というかそれだけでいいのか?」

「ボイルを信用しているからな! 俺の紹介で参加許可を与えるさ。ただ、もしかしたら隊長たちから保証金を言われるかもしれない」


 もし物を壊したときに請求するには手間も時間もかかる。最初にある程度預けて、何もなければ訓練をやめたときに、返してもらうほうが要領良く事が進む。


「言われたら言われただ。それでアークたちが楽しめるならそれでいい」

「で肝心のアークはいいの?」

「カタカタ!! カタ!!」


 見たこともないほどの浮かれ具合だ。


「ディノスはどうだ?」

「ゴブゴブ! ゴブゴブ」


 仲間外れはいや。俺も参加する。そのような身振り手振りでディノスは意思を伝える。


「ということだ。よろしく頼む」

「いつから参加する?」

「パロミトールの予定はどうだ?」

「今日はこの業務で終わりだけど、明日は朝から訓練が入っている……」


 どうやら訓練は好きではないようだ。


「カタカタ!」

「どうやら、明日からでも始めたいようだな」

「了解。朝にオベールに迎えに行くよ。そのときはこれを着ていてくれ」


 パロミトールが取り出したのは、茶色で模様がついたビブスだ。


「これは、テイムモンスターを識別するために着るものだ」

「スキルがなくてもいいのか? それに、今も着ていないぞ」

「テイム主が側に居ないときに着用する服だよ」


 トールは優しく微笑み、ボイルの不安を払拭する。そして今度はあからさまに作った表情でボイルを揶揄う。


「え? 探検者はスキルがないと着られないの? まさか……その下は……裸……。お前変態だったのか……さっきの考えさせてくれ」

「失礼だな! ちゃんと服着ているわ! ……そういうことか。確かにアークたちも着られる」


 鎧の下は農民のような布服(インナー)だ。スキルがないと服を着られないなら、誰しもがログイン時裸になる。だが実際は服を着ていた。オシャレとしてなら問題なく着られる。


「ということで、二人ともちゃんと着といてくれよ」

「カタカタ!」

「ゴブゴブ」


 二人は嬉しそうだ。アークは訓練ができることに。ディノスはお揃いの服をもらえたことに。


「ほかに必要なものはあるか?」

「訓練に使う武器や防具とかの道具類はある。飲み物とか食べ物くらいかなー」

「わかった。明日は頼むな」

「おう! 俺も楽しみにしている。それじゃ業務に戻るな」

「頑張ってくれ」


 四人は軽く手を上げ別れる。ボイルはもらったばかりのビブスを二人に渡しエリナに会いに行く。約束の場所は昨日と同じだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る