第9話 スケルトン

 二人が墓門を潜ると、すぐに墓守が現れた。


「ヒャッヒャッヒャ。供物は持ってきたかのォ」

「酒と摘みを少しな」

「おいボイル。こいつは敵か?」

「分かっているのに聞くな。マーカーでてるだろ」

「そこはノリでさ!」


 お約束を求めるハヤトにボイルは一刀両断する。


「敵対されたら困る!」

「それもそうか」

「そちらさんは、お前の連れかのォ?」


 墓守は顎でハヤトを示す。


「飲み仲間候補だ」

「候補は外していいぜ!」

「まだ飲み合っていない」

「つれないなー」


 筆頭墓守は会話の切れ目を見つけ、話し出す。


「宴はもう始まっているぞォ」

「それはすまなかった。行くぞハヤト」

「酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞ」


 ハヤトは昔に流行った呑兵衛御用達の歌を歌いながら、二人の後を付いて行く。

 墓地内はおどろおどろしい。バットやスケルトン、グールの姿もちらほら見える。だが、二人は襲われない。なぜなら管理者の墓守が先導しているからだ。


「この先が宴の会場だァ」


 二人が案内されたのは汚れているが、造りはしっかりしている木造の建物だ。


「ふーん。墓地にこんなところがねー」

「倉庫兼墓守の住居だァ」

「ここに住んでいるのか?」

「希望者だけはァ。もっともォ、今住んでいるのはオイラだけだァ。ヒャッヒャッヒャ」


 ここら一帯だけ墓地の雰囲気はない。


「速く開けてくれよ。体が燃料さけを欲しているんだよ!」

「こっちの客はせっかちだァ」


 墓守は扉を開け、大声で叫ぶ。


「探検者の客だァー。お前らもてなせェ!!」

「うおおおお、客だ客だ!!」

「呑兵衛なら大歓迎だ!!」


 そこには木箱の上や地べた、吹き抜けの二階廊下など、至る所で年代も種属もいろいろなゴーストが酒を飲み盛り上がっている。中にはNPCマーカーのスケルトンやグールが楽しく酒を飲みかわしていた。

 他にも、一階には墓地の管理道具などが置かれていた。


「供物を出しなァ」

「速く混ざろうぜ」

「仕方ないな」


 一階の真中で、盛り上がっている集団にボイルは声をかける。


「これは差し入れだ。楽しんでくれ!!」

「ありがとう!! 俺も混ざるぞ」


 ボイルはインベントリーから酒と料理出し、ハヤトは宴会に混ざる。


「蟹酒! 俺はこれが好きでな!!」

「リザードマンは甲殻類好きだねー。私のおススメはハーブ酒です」

「エルフだのー。儂は酒ならなんでも構わんぞ」

「ドワーフはこれだから……肉に合う酒が一番!」

「獣人は酒より摘みだな! 果物系は最高の酒だ」


 最後は人間のゴーストが好みをいう。


「楽しく飲んでこその酒だろ! もっと騒いで飲もうぜ!」


 さっそく、周りに溶け込んでいるハヤトが場を盛り上げる。


「あのコミュ力は凄いな」

「お前は混ざらないのかァ?」

「先にテイムしたいからな。宴会は後だ。それに俺の名前はボイルだ。向こうのがハヤトだ」

「ボイルは何をテイムし、何を望むゥ?」


 その問いかけには、真剣みが窺える。


「俺は、スケルトンをテイムする。そのありようは忠義に篤い騎士だ。そしてその心意気を貫き通せるだけの向上心をもってほしい。技術は後からでもいい」


 いくら力を持っても心が無ければそれはただの虚無だ。気持ちだけでも、力だけでも、どっちかに特化すれば頓挫する。ボイルは一緒に強くなれる仲間を欲した。知識や技術などの力が無くても、成長できる土壌を持っている者を願った。


「教え導くのは年長者の役割だ」


 それを聞いた墓守は懐疑的な顔だ。


「安心しろ。ちゃんとその世代、その子にあった教え方をするさ。押し付けるだけなら幼児でもできる」


 それは部下を持つ者としての矜持。そして現実で部下を育ててきた自信だ。ボイルの部下は、低学歴の技術も何もない所謂使えない奴が多かった。そんな新卒者や中途者を育てたのはボイルであり、勤めている会社でもある。


 上司は部下を揮いたたせ成長させる。会社は向上心を継続させる。ボイルの持論だ。給金やワーキングタイムなどはボイル自身、何もしてやれない。個人一人一人が思うだけではなく、会社という組織で行動しないと次世代は育たない。


 現状維持は緩やかな衰退であり死だ。


「テイムモンスターは仲間だ。都合のいい駒ではない!!」

「……分かった。スケルトンのテイムを許可する。つい来いィ」


 墓守はニンマリと笑いかかける。


「ハヤト。俺たちはテイムしてくる。楽しんでいてくれ」


 何も言わずにいなくなるは忍びない。ボイルは断りを入れる。


「待て待て待て! 俺も行く!」

「いいのか?」

「酒もいいけど、面白いほうがいいさ!」

「そうか」


 来たときのように、墓守が二人を先導する。


「あいつだァ」

「あいつ?」

「ボイルの想いに応えるスケルトンだァ。あいつをテイムしてみろおォ。Fランクの魔石はあるかァ?」


 そこには、ボロボロの片手剣と錆が目立つ小盾で鍛練――戦闘を意識した行動――をしているスケルトンがいた。小盾の形状はバックラーと言われるやつだ。外円部はギザギザで中央から外に向けて螺旋状の線が伸び、それが立体感をだす。装飾の全てがソードブレイカーの役割になっている。


 逆に片手剣はなにもない。量産品のようだ。マーカーはモンスター扱い。


「問題ない。紹介を感謝する」


 ボイルはその辺りにいる奴をテイムするつもりだったが、墓守の好意に甘える。願い通りのモンスターとなれば、それはユニーク個体でもある。そんな打算的な考えも、ボイルにはあった。


「おいおい、アレってユニーク個体って奴か! ボイルいいな。絶対強いぜ。俺も戦いてー!」

「テイムできたら、俺と決闘するか?」

「もちろんだ!」


 PKはなくとも、双方の同意で対人戦はできる。経験値も戦利品もないただの手合わせだ。決闘システムともいう。スケルトンはFランク。たとえユニーク個体でも種属の枠からは一脱はしない。


「初めまして、俺はボイルだ。お前をテイムにしきた」

「……」


 スケルトンは鍛練をやめ、ボイルを見る。そして無言で剣を向ける。


「力を示せと?」

「……」


 無言で頷き構える。


「いざ尋常に」


 ボイルも構える。距離はお互いの間合い内だ。剣よりリーチが長い槌の優位性は一つ無くなった。


「俺が合図する!」


 ハヤトの宣言に、構えている二人は頷く。

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