偏見差別主義者

@wildness

第1話 ついに・・・・・・ついに完成した!

※この物語はフィクションです。



1970年代。

舞台はアメリカ合衆国、マサチューセッツ州ケンブリッジ。

世は空前絶後の自尊心ブームの渦中にあった。


歴史的不景気のなか、成功に必要なのは自尊心であり、自尊心こそがのし上がるための努力の原動力であると、多くの人間が信じていた。

そのため、あらゆる米国人は己の自尊心を保持し、他人の自尊心を直接傷つけることなく立ち回らなくてはならないという、現代マウンティングの基礎とも言えるコミュニケーションを確立していた。


「ついに・・・・・・ついに完成した・・・・・・!"偏見発見装置"!!」


齢十四の少女──サンは、そんな複雑化する米国社会に新たな一大ムーブメントを巻き起こそうと企んでいた。


「世に蔓延るリベラルの本性を暴き、勤勉な日本人の潜在的自尊心の高さを証明してやる!」

「アンタも日本人じゃない」


五人家族が不自由なく暮らせるほどの広さの一室、サンはその一角に自分の城を保有していた。


一角というのは本当に一角で、長方形に広がる豪邸の一室を半分にし、さらにまた半分にし、そしてもう一度半分。

つまり八分の一程度の領地だった。

その領地に工具や電子機器などをこれでもかと配置し、大きな二つの棚には基盤や試作品、改造したゲーム機の数々が押し込まれていた。


「アンタねぇ・・・・・・その場所は好きにしていいって言ったけど汚すのは止めなさいよ」

「"半田"は私の友達なんだ!汚れと言うな絆の証と言え!」


サンに噛みつかれたのはこの部屋の主である。

残る八分の七を所持し、この豪邸で生まれこの豪邸で育ち、数々の英才教育を受けて傲慢に育った箱入り娘であった。


「そんなことよりこれを見ろエリ姉!」


そう言ってサンが取り出したのは黒い箱であった。

黒い箱から二対のケーブルが二箇所から伸びて、一方には接続部分が、一方には赤と黒のボタンが付いている。


「何よこれ。私こんなもののためにアンタに投資したの?」

「ふっふっふ・・・・・・侮るでない。この"偏見発見装置"は名前の通り、隠れた偏見や差別を数値化する為の装置なのだ!」


エリーはその青い目を呆れたように細めてサンをあしらった。

長く伸ばした金色の髪を誇るように整えて、読み進めていた本を広げる。


この広々とした一室には、サンのガラクタ以外に、びっしりと詰まった大きな本棚といかにも高級そうなソファがあった。

それに腰を掛け、紅茶を啜りながら片手に本を読むエリーの姿は、さながらイギリス世襲貴族家のようである。


「・・・・・・まあいい。理論より実践というしな・・・・・・この"偏見発見装置"、最初の餌食を決めたぞ──」


飼い犬は主人に吠えた。


「エリ姉!お前だっ!」

「えぇ・・・・・・」

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