私の「幸せ」は帝国への憎しみと、アナタたちの「幸せ」です。────天使より
支倉文度@【魔剣使いの元少年兵書籍化&コ
第一楽章 幼少時代
第1話 ただの哀れな少女が復讐を決意するとき
カマエル大帝国の魔導機関本部、そこに設けられた魔術師育成施設。
ここでは国に貢献する未来の魔術師を育てるという名目で、孤児や口減らしなどを集めては魔力を操る才能『魔力路』を付与して教育・実験などを施していく。
こういった施設は帝国領土内にいくつもあり、この大帝国を統べる『皇帝』が一番力を入れている政策であり、血筋に頼らない人工的な魔術師を生み出すシステムだ。
と言っても魔術師として大成する者は数少ない。
大半は『歩く殺戮兵器』となって戦場を巡り、帝国魔術師の魔力監視による徹底管理がなされる。
こうしてこの国は勢力を拡大させ続けた。
この施設に入ったが最後、人間ではなくなる。
魔術師として表通りを大手を振って歩けるのは一握り。
残りは暗いそれはもう暗い部屋で次の戦場を待ち、御国の勝利の為に真っ赤に焼けた他国の市街地を踏み歩く。
まさに天国と地獄の様相であった。
そんなある日、この魔術師育成施設に
腰まで届く長い金髪に、海のような深淵を宿した碧(あお)い瞳。
名を『エブリン』、とある貴族の数ある妾の子でここに送られたという。
魔術を扱う才能は誰よりも抜きんでて、尚且つ知能抜群。
愛想も良く誰とでも平等に接した。
大人達は新たな逸材が来て大喜び。
施設の子供達も彼女の才能と美しさに心酔した。
だが、誰も知らない。
この少女エブリンは────。
かつて自分たちがいじめ、蔑さげすみ貶めて、……嬲なぶり、焼いて、焦がして、叩きのめした、"たったひとりの哀れな少女"が、顔を変え姿を変え、新たなる力を手に入れて帰って来た
名前も出生も嘘、ただ"復讐"の為だけに地獄の底からよみがえった。
例えそれが世界を揺るがすことになろうとも彼女の意志は決して崩れない。
その為にこの施設に戻って来たのだから────。
遡(さかのぼ)ること2年前。
セリーヌ、9歳。
貧乏な村の生まれのこの少女は口減らしの為にこの施設へと入れられた。
この黒髪のみすぼらしい少女は、いつか立派な魔術師になりたいという夢を持ち、日々暮らしていた。
だが彼女はこの施設の指導官通称『教育者』たちから非道い虐待を受けていた。
理由は特にない、娯楽の一環としてストレス解消としてたまたま選ばれた。
例え死んでも代えは利くし、実験などで死んでしまうことも多少なりともあったため、誰も気にも止めない。
そもそもこの施設に入れられた地点で余程見込まれた者でもない限り人間扱いなどされはしないのだ。
大人たちの態度は次第に施設の子供達にも伝染していった。
施設内での厳しい生活の中で、敵意にも似た遊び心を芽吹かせ、まだ幼いセリーヌへぶつけ始めたのだ。
毎日、毎日、それはもう時間が余すことなく。
そしてある日、彼女が復讐を決意する『決定的な出来事』が起きた。
それは真冬の時期の夕暮れ。
今にも雪が降りそうな天候の中、施設内で狂気が渦巻いた。
「おい抑えろ! 縛れ!!」
訓練室で教育者の大人が嘲笑いながら見守る中、子供達がセリーヌに群がり彼女を拘束する。
「やめて! やめてよぉ!!」
セリーヌの悲鳴を笑いながら聞き流し、彼等は所定の位置に並んでいく。
このいじめの中心的存在である少年『アベル』の提案で、ある恐ろしいことが行われようとしていた。
即ち、魔術訓練という名のリンチである。
ひとりずつ、順に的当てのように魔術をぶつけていくのだ。
まだ未熟な術式ではあるものの、その威力がひとりの人間、ひとりの子供を死に至らせしめるほどにまで痛めつけることは容易である。
「いくぜ! 俺の必殺技ぁ……ッ!!」
「やめてぇ!!」
小さな雷撃が動けないセリーヌの腹部に直撃した。
例え魔力量の少ない技でも、彼女の柔らかい肉体を抉り抜くことは可能だった。
「ぎゃああああ!!」
セリーヌの断末魔は子供達や教育者達の爆笑で掻き消された。
これを引き金に、次から次へと子供達は魔術をぶつけていく。
「痛い゛よ゛ぉ゛! 熱い゛よ゛ぉ゛お゛ッ!!」
肉体は焼け、皮膚は剥がれ垂れていく。
筋肉組織がいくらか見える中でも、この圧倒的なリンチは続けられた。
「おーい、やりすぎんなよー。ハハハ」
教育者から声が掛かるが止める気などは一切ない。
それは更にリンチを加速させる為のものであった。
「助けてぇ! おとうさぁあん! おかあさぁあんッ!!」
燃え上がりながらも叫ぶさまは、無実の人間を処刑する魔女裁判の犠牲者そのものだ。
身体も顔も焼けていき、流す涙は灼熱によって拭われる。
悲しみと怒りに満ちたこの断末魔を、誰も彼もが笑顔で見る他なかった。
その感情しか持ち合わせなかった。
遠くでけたたましいサイレンが鳴り響く。
それと同時にリンチが治まり、彼女を焼き尽くしていた炎を教育者たちが消火した。
「あーあーやり過ぎやがってガキ共め……。人間じゃなくなってるよこりゃ」
「コイツ、かすかに生きてるな。しぶとい奴め……。おい、今夜コイツ捨てに行くぞ。いつもの場所でいいだろう」
そうだな、とセリーヌの拘束を解いて大きめの布に包んだ。
抵抗する力はおろか息をするだけでも精一杯な彼女は乱雑に馬車に積まれ、閑散かんさんとした土地へと運ばれる。
無造作に捨てられセリーヌはいくらか地面を転げる。
血で濡れた布の中で痛みに苦しみ寒さに凍え、歯をカチカチと鳴らしていた。
こんな身体でまだ生きているのは、きっと自分の中にある魔力路がまだ機能しているからだろう。
だがそれが機能しなくなるのも時間の問題だ、すぐにでも動かなくなる。
馬車が遠くへ行く音がすると、この見知らぬ土地に雪が降ってきた。
空気と地面は更に冷え込み、瀕死の肉体を痛めつけていく。
人にも自然にも殺されようとしている彼女は、恐怖と激痛の中であることを思い出した。
古い言い伝え、『魔女の伝説』である。
どこかの土地にいるとされる存在であり、魔術師とは一線を画した力を持つ。
残忍とも慈悲深いともあらゆる噂話が流れているのを小耳にはさんだことがあった。
────魔女に見つかって喰われるのが先か、ここで凍え死ぬのが先か。
子供ながらにそんなことを考えた。
そして自分にはもう"死"しか持っていないことに絶望する。
生まれてくるんじゃなかった。
こんな時代に、こんな世界に生まれるべきではなかった。
世界そのものが自分を拒絶しているのだ。
もう叫び声も涙も出すことも叶わないこの身体に無念と憎悪が重く圧し掛かる。
死んだら幽霊になって奴等を呪いに行けるだろうか?
死んだら自分は天国へ行くことが出来るのだろうか?
悔しい、許せない!
この世全ての煉獄を!
その業火であの施設を……いや、こんな国に仕立て上げた帝国も全て燃えてなくなればいい。
死では生温い、永遠の責め苦を味わわせなければ気が済まない。
死の安らぎなど以ての外だ!!
死して尚続く苦しみこそ相応しい!!
心内で呪詛を吐き出しながらも少女の身体は死に抱かれていく。
あらゆる感覚が麻痺していき、生命活動の停止を密かに悟ったそのとき。
「死んでから復讐だと? 呪ってやる? ……そんなもんはカスだッ!! やるならキッチリやらないとなぁ」
女の声が聞こえた。
この世全てを嘲笑う異次元の意思であるかのような。
声の主はセリーヌにとっての一縷(いちる)の希望となりうる、邪悪な力の存在だった。
その正体は……。
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