第6話 秀才の理想は青き衣の人

「ボギャブラに出したら、確実にポイっ」

「替え歌じゃなくて、名前のあて字なら、いくらでもあんだけど。この前、レーベル作るためにワープロやってたらさ、茶色の毛が安堵する飛ぶ鳥の『茶毛安堵飛鳥』になって、一人で笑ってた」

「あるある、そんなの。単純なのでは、GAOが顔になっちゃってさ」

「ひえぇ。アーティスト『顔』はコワい」

「グロテスクのグロで、大グロ巻とか」

「ドリカムのカムが、噛みつくになったりね」

「中国とか行ったら、マジで、鳥が噛む夢――『鳥噛夢』――でドリカムと読ますんじゃないかな」

「まさかあ。だいたい、ドリームズ、カム、トゥルーって正式名称でやるんじゃないの」

「でも、考えたら、面白いかも。GAOは、我雄々しいで『我雄』」

「うまい、座布団一枚!」

「trfは『茶有絵譜』」

 レシートの裏に走り書き。

「ティーときたら、何でも『茶』ですな」

「他にないもん」

「バス停の停がある。低い、丁寧、定め、皇帝……いくらでもあるじゃない」

「可口可楽遊びはそれぐらいにして、そろそろ歌わないと」

 「口にする可し、楽しむ可し」ということで、コカコーラを、可口可楽と表記するのは、比較的有名な話。中国のような漢字の国において、外来語を漢字で表す例として、よく引き合いに出される。音もカコカラクと、コカコーラに似ていなくもない。故に、傑作とされる。

「じゃあ、私、一番。いきなりですが、あちらの歌を」

 ユキ、素早くボタン入力。流れてきたのは、作品としては懐かしい「プリティウーマン」。

「もうギャグはだめよ」

「分かってるって。『フリ〇ンとーちゃん』何て言わないから」

「言ってるって!」

 ……じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ……。

 イントロが盛り上がってきていた。


 ユキが話し終えると、堂本は首を大きく捻った。

「で?」

「で、とは?」

 ユキも首を傾げる。

「木川田。君と君の女友達の、ある日の遊びっぷりは拝聴した」

「面白くなかった?」

「面白いと言えば面白いけど、馬鹿々々しいと言えば馬鹿々々しい」

「ひどいわ」

 胸の前で、手を組んでみせるユキ。もちろん、わざと。

「折角、小説のネタになるかと思って、必死に記憶を蘇らせたのに」

「ネタねえ……。大御所の嘉門達夫かもんたつおからいただいている部分が多いなあ」

「知ってるの、嘉門達夫?」

「もちろん知ってる。それより、アイディアの無断借用はまずいんじゃないか」

「大丈夫、大丈夫。元々が人の歌で稼いでるようなもんじゃない。今さら、文句は言わせない」

「無茶苦茶だ。嘉門達夫はきちんと許可を得てやっているそうだよ」

「ほんと? あの数ですごい! で、とにかくさ、今まで堂本クンが書いてきた小説の中で、完成しているのを読ませてもらったけど、笑い・ギャグがほぼほぼゼロじゃん。もう少し、何とかなんない?と思って、身近な笑いの話題を提供してあげてる訳。どう? Boy meets Girl ならぬ Boy needs Girl なんか、ぴったりじゃないの。それから、カ〇ーラの替え歌もオリジナルだよ」

「替え歌か、それって? だいたい、どうやってファンタジー系統の話に、カラオケのネタを入れるんだよ?」

「剣と魔法の世界に、カラオケがあっちゃ、悪い?」

「悪い。もしあったとしても、僕らのいる現実世界での、カ〇ーラの歌を歌うものか」

「アニメの歌とかならいいんかな」

「一緒だよ。本物の歌を使うと、おかしなことになる。権利関係も手順を踏むのが大変そうだし」

「レイアース、見たことあるの?」

 先ほど語って聞かせた、カラオケ店でのエピソードに出て来たアニメ作品だ。問われた堂本は、目をそらし加減になる。

「参考程度には」

「また参考。ふーむ、もしかして、セーラー戦士のシリーズも?」

「……木川田だから言うけど、ある。でも、シリーズが始まる度に、二回ほど見て、すぐやめてるな。描きたいファンタジーからは、ずれてるから」

「ははあ、何となく分かる」

「笑わないなら、自分の理想、話すけど」

「そんな約束、できませーん。でも、聞きたい」

 やれやれといった具合に、堂本は肩をすくめた。

「かなわん。……宮崎駿の世界を、剣と魔法の世界と融合させたい。これが僕の書きたい、理想の物語」

「はあ……」

 口をぽかんとさせるユキ。

「……要するに、純粋なファンタジーで、宮崎駿的な物語……。難しそうだな。『魔女の宅急便』じゃ、だめなんでしょ?」

「魔女が出ればいいってもんじゃない。一番近いのは、『ナウシカ』かな、やっぱり」

「言葉だけ聞いてると、完全にオタクだあっー」

 頭を抱える格好をするユキ。それから、堂本の方をちらと見て……。

「外見は、こんなに賢そうで、顔もまあまあなのに……」

「どうでもいいだろ、そんなこと」

「『ナウシカ』ねえ……。理想の女性像まで、ナウシカじゃないでしょうね?」

「究極の理想像なら、そうなるかもな」

「ひええ」

「もちろん、現実的でないのは分かってる。現代社会において、ナウシカにずっと側にいられたら、気疲れしそうだし」

「……でもねえ、女だって、思うことあるのよ」

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