第4話 ドア越しの攻防

麻衣の視線の先で、チャイムは鳴り続けている。


「誰かな?」

「麻衣が1番恐れている人じゃない?」

「どーしよぉ‥」

「無視してると、近所迷惑かも」

「私、なんかムカついてきた」

「まあ、そう喧嘩腰になっても‥」

「じゃあ、どうするの?」

「俺が出ようか?」

「変なことにならない?」

「大丈夫、任せておけよ」

「じゃあ出て」


康博がドアレンズを覗くと、果たしてタケオであった。康博はロックを外し、チェーンをかけたままドアを開けた。

予想外だったのだろう。タケオは康博を見ると、目を丸くした。


「や‥康博先輩‥あれ?何で?」

「どうも」

「あの、麻衣先輩は?」

「いるけど、タケオには会わないって」

「どうして康博先輩がここに‥?」

「麻衣がお前に言ったろ。試験勉強してるって」

「えっ、どうなってるんですか?」

「こうなってるんだけど」

「じゃあ何で麻衣さんは、康博先輩がいるのを隠すんですか?」

「プライベートなことだからじゃない?」

「でも、付き合ってるんだったら‥」

「付き合っちゃいねーよ」

「えー、それって変じゃないですか」

「それを変だと思ってる間は、麻衣みたいな女とは付き合えないよ、お前は」

「‥‥」

「とにかく麻衣は明日試験だし、お前も好きな女が迷惑しているのは本意じゃないだろ?」

「はあ、それは‥」

「じゃあ、今日のところは帰るんだな」

「‥はい」

「あてはあるのか?」

「何とかします」

「タクシー代出そうか?」

「いえ、僕も男ですから、大丈夫です」


康博は、タケオの大げさな物言いに吹き出しそうになった。

だがこれから一晩中、この手の大げさな台詞に悩まされることに、康博と麻衣はまだ気づいていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る