episode 024

その後は何事もなく、12時44分に予定どおり飛騨古川駅に到着した。

この間にスマートフォンでニュースを検索したところ、町田知事が急死したことが速報として伝えられ、死因ははっきりせず突然死であると思われるが詳細は不明であること。

また、町田知事の後継争いが早くも動き始めていることを報じていた。

SPの死に関しては今のところ何も発表されておらず、関係者と警察内部だけの情報となっているようだ。


飛騨古川は、瀬戸川沿いを白壁土蔵が連なり、瀬戸川を悠々と泳ぐ1,000匹の鯉を眺められる歴史を感じられる観光地だそうだ。

しかし、私の目的は観光ではない。

飛騨古川駅前から、タクシーで安峰山の山頂を目指す。


安峰山は標高1,058mの低山で、山頂からの眺望、晩秋の朝霧の立つ日は雲の上にいるような不思議な感覚を味わえ、午前10時を過ぎると朝霧が少しずつ晴れ、眼下に古川盆地を見渡すことができるらしい。

古川町太江地区から林道を通り、山頂まで行くことができ、飛騨古川駅から徒歩でも2時間半ほどで山頂にたどり着くことができるのだが、今の私にはもうそんな体力は残っていない。

吐き気と下痢を薬で抑え込むのがやっとだ。

確実に人生の終わりに近づきつつある。


なぜこの山を選んだのかというと、まずは低山なのに山深い。

もうひとつは車で山頂まで15分程度で行けることだ。

山頂まで行ってしまえば、林道を下り、適当なところで脇にそれて身を隠せばそれで済む。

山深い場所であればあるほど、林道を100mもはずれれば、発見される可能性は極めて低くなる。

家族でキャンプに来ていた女の子が行方不明になって何年も発見されなかったことがあったが、キャンプ場で、付近を大人数で捜索しても発見することが難しいのだから、林道から脇にそれた誰にも探されない男が発見される可能性などあるはずがない。


そう、私はこの地で人生の終末を迎えるべくやってきた。


自分の余命を知ってから、今までのキャリアを活かし、人を殺してきた。

それもそろそろ終わりにしなければならない。

体力的にも限界が近づいているし、これ以上殺したい相手も思い浮かばない。

人を殺すのを楽しむサイコパスではないので、意味もなく人を殺したりはしたくない。


山頂でタクシーを降り、展望デッキから古川盆地を一瞥し、さっそく林道を下り始めた。

わずか1,000m程度の山とは言っても、初夏を迎える季節でも山頂はTシャツ短パンという服装では肌寒かった。

さらにハットにトートバッグという山歩きには不向きな格好ではあったが、平日の午後ということもあってか、山頂には林道を登ってきたらしい中年女性3人組ハイカーしか見当たらなかった。

お弁当を広げて楽しそうに食べだしているので、しばらくは下山しないだろうし、私のことなど眼中になさそうだ。

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