話し合い

相談

年が明けた来春には白翔が高校を卒業をする。


前に編集社の人たちに東京に行くつもりはない、高校を卒業するまでは碧波、白翔ともに北海道に残ると大見得を切った。


振り返れば自分の気持ちだけで押し切った形で当時の白翔のことをしっかり考えていなかった。


学校帰りの白翔に話があると声をかけた。


「覚えてる?白翔が中学卒業したら編集社からスカウトされたこと。勝手に話を進めてしまってゴメン。ホントは中学を卒業したらスグにでも上京して編集社で働きたかったのかなと思ってさ」


白翔は言葉選びをするためにしはらく黙っていた。


当時中学を卒業してスグにでも編集社で働いて欲しいと言われた時は嬉しさよりも驚きで迷っていてさ。


行きたい気持ちもありつつ、高校にも行きたい気持ちで揺れていたから碧波が強く言ってくれてよかった。


それを聞いて碧波はひと安心した。あの時の決断は間違っていなかった。せめて高校を卒業したらと考えていたこともあり、来春から上京をするか尋ねる。


碧波はどうしたい?上京したら打ち合わせも楽になるし人気マンガ家でもあるから色々なイベントに参加して欲しいってオファーが来るかも。


メディアに出た方が全国に名を売ること出来るし知名度アップにも繋がると思うよ。


白翔が高校を卒業をしたら上京したい。一緒に同棲しよう。炊事洗濯するからお願いと頭を下げた。


白翔は家族に高校を卒業して上京することを伝えると釧路に住む碧波の家族とも相談しなきゃ行けない。


母親を通じて連絡を取ってもらい、クリスマスの日、午後6時に札幌駅集まることが決まった。


当日、碧波にとっては数年ぶりに会う家族に抱きついていた。


ご両親もマンガ家として活躍をする碧波を誇らしく思っていて近所で賞賛の声が沢山届いているみたい。少し談笑したあとに飲食店を訪れた。


席に座ってマンガ家として打ち合わせやイベントに参加するために上京したい。お願いしますと頭を下げた。それを見た白翔も同様に頭を下げる。


白翔君は碧波のアシスタントなのかな?碧波は成人になった訳だし自分の行動に責任を持つように。自分たちの後悔のないように。それと家は決めたのか?


まだ物件は決めてない。白翔はアシスタント兼マネージャーの役目もしてくれている。高校を卒業したら編集社で働くことになっていてと話していた。


そして門出を祝して豪華にステーキを人数分注文をして大人たちはお酒を嗜み、高校生の白翔は高級なジュースを飲んで報告会を終えた。


札幌駅から函館駅に帰る途中、白翔は碧波に話しかける。

さっきご家族に編集社で働くって言ってたけど碧波が伝えてくれたの?


碧波は顔面蒼白になっていて聞かずとも答えは分かっていた。まだ伝えてないということに。


翌日、碧波のスマホを借りて河島さんに電話をして高校を卒業をしたら上京して編集社に務めると伝えた。


どうするか

改めて上京をすることを決めた碧波と白翔。未だにどこに住むか決まっていない。


碧波は高校を卒業して数年だが、マンガ家としてだけでなくグッズの売上の一部をもらっていることもあり東京都の郊外なら中古マンションを買えるほどまで稼いでいた。


河島さんから電話がかかってきた。

物件決まってないならこっちで用意するよ。マンガを描くことに集中して欲しいからね。


ホントにいつも気にかけてくれて有難いと思いつつもこの話を断った。自分の住むところは自分で決めよう。いつまでもおんぶにだっこはよくないと考えた。


マンガを描く時間以外はスマホで賃貸物件を探していた。さすが日本の首都東京、鉄道沿線は驚くほどの値段で北海道ならもっと広い家に住めると呟いていた。


都心ではなく、郊外まで広げて探してみるものの今度は家賃は下がるものの沿線と言っても近くに物件は既に埋まっていた。


多摩川を挟んだところにある神奈川県川崎市、高尾山を越えた山梨県大月市、江戸川を越えた千葉県舞浜市、荒川を越えた埼玉県川口市と近隣の都市を広げつつ考えていた。


条件は家賃の安さだけではない。それは最寄駅の電車がどれだけ停車するのか、都心に出やすいか。他には飲食店やスーパー、コンビニが周辺にあるのかといくつか絞っていくと空いている物件は限られてくる。


白翔と話し合っている中で全ての条件を満たすのは難しい、どこかを妥協しないと決まらない。最近はスマホのアプリでオンライン内見が出来るよとアドバイスを受ける。


いくつかのアプリを入れてオンライン内見を複数の物件を見て回った。その中で碧波が特に興味をもったのは埼玉県所沢市。関東ローカルチェーン店、山田うどんの発祥の地であって人気作品の舞台にもなっていて自然豊かであり、都心にも近い。


白翔は家族にこの物件に住もうかと話をする。


実際に見て良さそうなら契約をしようかと話がまとまって実際には高校が卒業をしてから黒木家、紅松家揃って現地に行こうという話に決まった。母親から碧波のお母さんにそのことを伝えて改めて日時を連絡するとラインをした。


バレンタインの日に白翔が高校を卒業をする。それに合わせて前日に碧波の家族は白翔の家に集まった。みんなで白翔の卒業式に参加をして門出を祝福した。


午後1時、卒業式を終えて学校近くの飲食店でお昼を食べて家に帰って着替えてから函館空港に向かって羽田空港に飛び立った。2時間弱の空旅で碧波と白翔は久しぶりの東京、両親は初めての東京の地に着いた。


晩御飯を食べるには少し早いため、翌日に向かおうと考えていた所沢の物件を見たいと不動産屋に電話すると案内出来ると伝えられて電車で向かう。


所沢駅からさほど遠くなく、利便性のいい場所で内見してみていい場所だなと感じていた。実際に碧波と白翔は見てここに住もうと決めてその場で契約を交わした。


ひと安心したからなのかお腹が鳴る碧波。近くに山田うどんのお店を見つけて入った。うどんセットを注文しておかわりを食べてしまうほどだった。


その日の夜、ビジネスホテルに泊まって碧波は寝付けず空を眺めていると流れ星が流れてきてお願いをする。


「石岡杏子と子グマのリナちゃんが映画化になりますように」

言霊ことだまの力を信じて頑張ろうと誓う。

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