卒業

居候

白翔は小学校、碧波は中学校とそれぞれ卒業した。

中学受験のしていない白翔は近くの公立中学校に行くことになる。短い春休みをどのように過ごそうかと考えていた。


マンガ家となった碧波の作品が載っているかどうかの確認をするために本屋に行くことが毎週の楽しみになっていた。また次に会った時に改めて作中に登場させてくれてありがとう。そう伝えようと家に帰る。


ガチャっと開けると見慣れない女性用の靴が置いてある。同級生の女の子が遊びに来たのかと思って自分の部屋に向かう。


「白翔お帰り。一緒におやつ食べようよ」


人は驚くと固まって言葉が出てこなくなることがある。そう聞いたことがあるがまさにその状況。まずは人違いだといけないと名前を尋ねる。


あの……赤松碧波さんですよね?間違ってますか?


しばらくお互いにだまりこむ。碧波は手を掴み、リビングに連れて行き、ジュースとお菓子を冷蔵庫から取り出す。


白翔、碧波のこと忘れちゃった?好きな女の子出来たのかな?怒らないから正直に答えて。


碧波のことを忘れたことないし、中学校を卒業して遊びに来てくれてありがとう。来るなら駅まで迎えに行ったのにな。それでいつまでいる予定なの?


この時はただ遊びに来ただけだと思ったが次の瞬間、驚きのあまり聞き直してしまうことになる。


いつまでってとりあえず高校を卒業するまではいる予定だよ。


遊びに来たというより居候させてもらうことになるってこの前メールしたの見てないの?


ちゃんと確認しておいてよ〜。見落としかもと部屋のパソコンで履歴を確認するがそういったメールはない。


碧波、メール届いてないよと伝えるとスマホを取り出して確認すると送信済みとなっている。


何故だろうと気になって携帯会社に問い合わせをするとアプリや写真等の総容量がいっぱいで送受信がしにくいこととかなり古いスマホを使っていて最新のバージョンに出来なかったことによるものと伝えられる。


ジュースとお菓子を食べながらマンガ家、赤松碧波の従姉妹恋愛物語を毎回楽しみにしていることや作中に名前は変えているにしてと登場させてくれてありがとうと伝えた。それでどうしてまた函館に?


そうだね〜……。碧波は顔を曇らせつつ話し出す。


中学2年生でマンガ家デビューをさせてもらったけどその時暮らしていたのが釧路で担当してくれている人が北海道に行くと他のマンガ家さんも受け持っていて行き来するのが大変だから中学校卒業したら東京に出てきて欲しいと出版社の社長さんに頭を下げられてね。


でもなんで函館だったの?


高校を卒業するまでは北海道に出るつもりはないって口論になって函館なら新幹線も走っているから、他の地方にいるマンガ家さんも途中で会えるしそれならばと折れた感じでね。


白翔のお母さんに電話してお願いをしたら快く受け入れてくれたよ。釧路の高校よりも函館の高校の方が制服がかわいいからね。


ひと通りの話を聞いてマンガ家の担当さんどうこうよりも単純にかわいい制服を着るためにわざわざ釧路から函館にやって来た。そう思えて仕方ない。


プライバシー保護

碧波が居候することになり、好きな人とずっと一緒にいられることはホントに嬉しい。だが喜んでばかりもいられない。


豪邸のようにいくつも部屋がある訳ではなく余っている部屋がなくどのようにするか頭を抱えていた。高校生の女の子と同じ部屋にいることはたとえ従姉妹であっても許させないと自負していた。


「ちょんちょん、白翔何か考えごとしてる?」


今度中学生になるし、碧波は高校生になるから同じ部屋に仕切りを出来るほど広くないし、余ってる部屋があるからその部屋を使ってって言えないしどうしたらいいのかなって考えていてさ。


リビングで勉強すればいいだろうけど分からないことあったら辞書なり取りに行くのに部屋の行き来したりしたら碧波に迷惑だからな……。難しいね。


碧波のことを考えてくれてありがとう。とりあえずは学校の宿題は授業後に終わらせるつもりでいるし、終わらなかったら図書館でやる予定だよ。


だから白翔は今まで通り自分の部屋を使ってもらって大丈夫だよ。マンガの打ち合わせとかは基本的にファミレスや喫茶店でやることが多いから気にしないでね。


そっか、これからは女子高生マンガ家として忙しくなるね。勉強を教えてあげることも出来ないし、力になれることは少ないけど打ち合わせが終わったら毎回お店まで迎えに行くとかそれくらいはするよ。


白翔は相変わらず優しくてかわいいね、そう言って碧波は抱きしめて頭を撫でる。好きな女の子に抱きしめられることが嬉しい。


顔を見ると何か言いたそうな表情をしている。ニコりとした表情で見つめる。


ねぇ白翔、旭川で約束したこと覚えてる?一緒に指切りげんまんしたよね。

あの夏の思い出は何年経っても鮮明に覚えている。


碧波が中学校を卒業しても好きな人がいなかったら恋人同士になるということ。忘れたことなど1度もない。

だからこそ碧波に尋ねる。


「約束は覚えているよ。だってあの時はマンガ家になるとは思っていなかったし、でも今はどう思ってる?」


でもだってじゃないの。約束したのは碧波だよ、白翔が好き。だから男の子に告白されても断り続けてきたよ。


居候することになるとはさすがに想像つかなかったな。これでずっといられるね。好きな女の子いる?


いないよ。好きなのは碧波、同じ学年の女の子が束になっても適わないよ。改めて好きです、付き合ってください、お願いします。


碧波とキスをすると母親が帰ってきて気まずい雰囲気となり、買い忘れをしたと見て見ぬふりをしてくれたがガッツリ見られてしまい恥ずかしい。

碧波に今度からキスする時は部屋でしようと伝えた。

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