第46話 ダンジョンの中

 ダンジョンの入り口は狭い洞窟の入り口のようになっていて、人が二人並ぶのがギリギリの幅だった。中に入ると薄暗いけど、一応活動するのに問題のない程度の光源は保たれているみたいだ。

 ユニーはいつもより警戒している様子で、しかし足を止めずに奥へと進んでいく。


「このぐらいの明るさがあるなら魔道具はいらないかな」

「今はまだいらないね。でも奥の方は暗いかもしれないから、そうなったら使おうか」


 この世界のダンジョンはいろんなタイプがあるけど、こういう狭い通路のダンジョンは基本的に階段というよりも、階下に向かえる穴があることが多いらしい。飛び降りることもできるけど、縄があると便利だという話を聞いて色々と持ってきてある。


「あっ、さっそく別れ道だよ。基本的には右に進むので良いんだよね?」

「うん。分かりやすくたくさん分かれ道がある時も右からにしよう。それで行き止まりだったら戻る感じで。ユニー、それでよろしくな」

「ヒヒンッ」


 スラくんをぎゅっと抱きしめて、たまにユニーの背に乗ってもらって、さらにはリラの腕の中にも移動してもらってと、全員がスラくんに精神的にも物理的にも癒やされながら進んでいると、数分で初めての魔物に遭遇した。


「ホワイトウルフだね」

「グルルルゥ……」


 ホワイトウルフはユニーを警戒しているのか、俺達に向かって唸りながらも襲ってはこない。ダンジョンの中ではパッシブの魅了を発動してたら魔物に襲われてキリがないということで封じてもらってるので、珍しく駆け寄ってこない魔物だ。


「リョータ、ダンジョンでは魔物を見逃さないで倒していくので良いんだよね?」

「うん、良いよ。見逃してもまた遭遇するだろうし、俺達の安全を優先しよう」

「分かった。じゃあ倒すね」


 一匹のホワイトウルフなら俺が魅了で動きを止める必要もなく、リラの火魔法ですぐに魔石だけを残して塵となった。

 その光景にまだ少しだけ心は痛むけど、もう慣れてきた俺もいる。


「この調子でどんどん行こうか」

「リラの魔力量がヤバくなったら早めに教えて。その時は俺が魅了で魔物を遠ざけるから」

「了解。頼りにしてるよ」


 それからはリラの快進撃だった。狭いダンジョンでは魔物が単体でしか襲ってこないので、リラが全ての魔物を一撃で倒してしまうのだ。

 俺はただユニーの背中に乗ってスラくんをぎゅっと抱きしめているだけで、地下三階に降りたところで俺ってもしかしていらないんじゃ? と思ってしまった。


 しかしそんなことを考えていた十分後に、俺の力が必要な場面が現れる。


「リョータ、この先はヤバいかも」


 ユニーが突然足を止めたので、ユニーから降りて俺とリラで先を偵察に行くと、俺よりも一足先に曲がり角の向こうを覗き込んだリラが、凄い形相で俺を振り返ったのだ。


「何があった?」

「広い空間があって植物があるみたいで、魔物の群れがいる。数は五十ぐらい。魔物はゴブリン」


 小声で発したリラのその言葉を聞いて、俺の顔色も悪くなる。五十ものゴブリンとか、地上だったら討伐隊が派遣されるやつだ。


「どうする? 倒して進むか戻るか」

「――倒そう。広場の先にも道は続いてるみたいだったから、この先に下に降りる場所があるかもしれないし」

「分かった。じゃあ俺が魅了で動きを止めるよ」

「よろしくね」


 それからリラと息を合わせて、俺はスキル封じを解除してもらった瞬間ゴブリンに向けて魅了を放った。すると効果は抜群で、広場にいる全てのゴブリンが動きを止める。


「リラ!」

「分かってる! ファイヤーストーム」


 リラの凶悪な火魔法がまたしてもゴブリンを襲い、数十秒でゴブリンは全て魔石に変わった。ただ今回はゴブリンがバラけていたということもあり、一度には全てを倒しきれなかったので、俺の魅了が役に立ったみたいだ。


「倒し切れて良かったぁ。前よりも二十ぐらいは多かったから、ちょっと心配だったんだよね。やっぱりリョータの魅了は凄いよ。攻撃から逃れるゴブリンも、私が攻撃してる途中に反撃してくるゴブリンも本当ならいるはずなのに、魅了にかけられて身動き一つしないんだから」

「役に立てて良かったよ。それでさ、めちゃくちゃ今更なこと聞いてもいい?」

「いいよ。なんでも聞いて」

「この狭い洞窟の中で火をたくさん使ってるけど、酸素とかって大丈夫なのかなって思ったんだけど……」


 酸欠になったり一酸化中毒になったりしないのだろうか。そんな恐怖がさっきの大きな火を見て湧き上がってきたのだ。


「サンソ……?」

「え、もしかしてこの世界にはないとか!?」


 マジか……確かにスキルとかいう意味不明なものがある世界だし、空気だって日本と違う可能性は高いのか。俺もスキルを得てるんだし、この世界の何かしらの物質を吸って問題なく生活できてるのかもしれないよな……

 よく考えれば当たり前のことだけど、結構な衝撃だ。


「火魔法って、なんで火が出るの?」

「なんでって……魔力を火に変換してるからだよ? 私の魔力は火に親和性が高いから」


 そうか、確かにそうだよな。魔力を使って魔法を使うんだから、火だって魔力から作られてるのか。


「変なこと聞いてごめん。なんとなく納得できたよ」

「それなら良かった。じゃあ魔石だけ拾って先に進もうか」

「うん。そうしよう」


 それからも俺達は特に危なげなくダンジョンを進んでいき、夜までに七階まで下ることができた。かなり順調で明日にはクリアできそうなペースだ。


「私の中でダンジョン攻略のイメージが崩れるほどに順調だよ……」

「魅了スキルがあれば魔物は全く怖くないし、下に降りる場所まで案内してもらうこともできるからな」


 それは普通の攻略とは違うだろう。これがもしゲームだったら、チートすぎて逆につまらないほどだ。ただここは現実なのでチート能力万歳って感じだけど。


「そろそろ休む?」

「そうだね。スラくんのおかげで疲れないけど徹夜は体に良くないし、この辺で野営をしようか」

「あそことか広いしちょうど良いんじゃない?」

「本当だ。じゃあ、あそこにしよう」


 そうして俺達は、ダンジョンの中にいるということも忘れそうなど和やかな雰囲気で、今夜の野営場所を決めた。

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