第30話 王都への道中
王都に出発する日の早朝。指定された外門に向かうと、そこにはかなり立派な魔車が鎮座していた。今まで街中で目にしてきていたものよりも豪華でかなり大きい。さらに車を引く魔物も見たことがない種類だ。
「リョータ、リラ、こちらに来てくれ」
たくさんの兵士が動き回っている中に入っていくのを躊躇っていると、ギヨームさんが俺達に気付いて声をかけてくれた。
「ギヨームさん、おはようございます。凄く大きな魔車ですね」
「ああ、上からの指示で、この街にある中でかなり良い魔車を手配してある。車自体が魔道具だから、中は空調完備で揺れもほとんどないぞ」
マジか……そんな魔車があったなんて。もうそれは自動車だ。やっぱりこの世界ってかなり発展してるよな。
「引いてる魔物は地竜ですか?」
「そうだ。こいつらが一番体力あって早いからな。こいつらなら予定から遅れることなく着くだろう」
地竜、そんな存在もいるのか……見た目はティラノサウルスを小さくした感じというか、ラプトルだっけ? 確かそんな名前の恐竜を大きくした感じというか、とりあえず恐竜だ。
「ユニーは乗れるでしょうか? 並走してもらう予定だったんですけど、地竜について行けるのか……」
「ヒヒンッ! ヒヒーン!」
俺がギヨームさんにユニーのことを相談した途端に、ユニーが顔を俺のお腹に擦り付けて何かを訴えてくる。
「……地竜にも付いていけるって言ってる?」
「ヒヒンッ!」
再度問いかけるとユニーはドヤ顔で頷いた。こんなに自信があるなら大丈夫なのかもしれないけど……ちょっと心配だ。俺のそんな気持ちが分かったのか、リラがユニーを撫でながら口を開いた。
「リョータ、ユニーちゃんなら大丈夫だよ。ユニコーンはかなり足が速いし体力もあるから。車を引いてる地竜になら遅れをとることはないよ」
「ヒヒンッ」
確かにそうか、地竜は車を引くんだからそこまで速度は出ないよな。
「じゃあユニー、疲れたら休憩にしてもらうから、ちゃんと言うんだよ」
――そうだ、スラくんにユニーに乗って貰えば良いのかもしれない。スラくんが一緒にいるだけで疲れることはない。それは俺が一番実感している。
そう思いついた俺は、スラくんを鞄から出して目の前に掲げ、ユニーの背中に乗ってくれるように頼んでみた。すると少しだけ不満そうな様子を見せながらも、プルプルと大きく震えて了承してくれる。
「スラくんありがと!」
「……スライムなら、車に乗っても大丈夫だぞ?」
俺とスラくんの会話を聞いて、ギヨームさんは首を傾げながら声をかけてくれた。
スラくんがヒールスライムってことを隠すために、スラくんの能力には触れずに話をしていたので、ギヨームさんは不思議に思ったようだ。
「えっと……あの、スラくんは外が好きなのと、あとユニーがスラくんのことを好きなんです」
「そうなのか、従魔同士が仲良いのは珍しいな」
「普通は仲良くないんですか?」
「まあそうだな。別種の魔物だと気が合わないことも多いと聞く」
そうだったのか。二人は結構仲が良くて俺抜きで通じ合ってるような時もあるし、これが普通なのかと思ってた。二人が仲良くて良かったな。俺は二人が仲良くしてるのを見るのは結構好きなのだ。
それから俺はスラくんをユニーの背中に固定して、リラと共に魔車に乗り込んだ。魔車と並走する兵士達とは軽く挨拶をしたけど、気の良い人達ばかりだったので、この先の道中への不安が少し減った。
「魔車ってこんなに揺れないんだ……」
街を出て数分が経ったけど、俺はさっきから感心しっぱなしだ。とにかく全く揺れない。なんなら魔車が動いてるかいないかも分からないぐらいだ。
「私もびっくりしてる。他の魔車はもっと揺れるよ? 魔道具の魔車ってこんなに凄いんだね……」
「これってどのぐらいの価格なのかな?」
「多分相当高いよ。それこそ王都に家が買えるぐらいかな」
マジか……さすがにそれは買えない。最近は依頼を頑張ってお金も溜まってきてるけど、あくまでも少し余裕ができたぐらいだ。
「魔道具じゃない魔車はどのぐらいの値段なんだろ」
「うーん、私もリョータと会うまでは買おうと考えたことなかったから、詳しいことは知らないんだよね。王都に着いたら魔車を売ってるお店に行ってみようか」
「そうしよっか。王都はルリーユより人が多いだろうし、魔車がないとかなり大変だと思うから」
「確かにね……スキル封じをかける場所を探すのが大変だと思う。ルリーユは私が街中を把握してたからまだ良かったけど、王都は全く知らない場所だし」
全く知らない場所でルリーユより都会で人が多くて、そんな街で三十分に一回、人目につかない場所を見つけるのなんて至難の業だろう。中古の安いやつでも良いからとりあえず魔車を買おう。
「兵士がたくさんいるなぁ。これって警戒されてる?」
窓から外の様子を見て思わずそう呟くと、リラが苦笑しつつ頷いた。
「逃げないようにってことだと思うよ。リョータのスキルは敵だったら怖いからね」
「やっぱりそうだよなぁ。はぁ……謁見とか気が重い。なんとか敵意はないことを示さないと。リラ、俺が何か悪いことを企んでも、リラなら簡単に俺を止められるってアピールして欲しい」
「もちろん。リョータが危険人物扱いされないように頑張るよ。リョータは悪いことを考えるような人じゃないって分かってるから」
「ありがと。本当に助かるよ」
それからもリラと話をしながらひたすら魔車に揺られ、お昼ご飯は道路脇に止まって軽く食べて、夜は街や村に宿泊した。
そうしてひたすら移動するという、思っていた以上に辛い日々を二週間過ごしていると、ついに目の前に王都が見えてきた。
「あれが王都か……デカいな」
「私も初めて来たよ。こんなに大きいなんて、凄いね」
王都は丘の上に王城があって、そこから丘を下るように街が広がっているみたいだ。城壁で囲まれているのは王城の近くだけで、その周りの街には自由に出入りできるらしい。
俺は目の前に広がる大きな街に、心が浮き立つのを感じた。
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