第22話 武器

 鞄屋を後にした俺は、大量の服を大容量鞄に仕舞って、スラくんにも冒険者用鞄の定位置に収まってもらい、久しぶりに両手が空いている状態で街を歩いた。

 次に向かうのは財布やタオルなど、必要最低限の生活用品を買うための雑貨屋だ。


「雑貨ってどこまで揃えたら良いかな」

「うーん、結構人に寄るんだけど、冒険者は持ち運べる量に抑えるっていうのが一番重要だから、リョータはそこまで力はないだろうし少なくしないとだよ」


 確かにそうだよな……欲しいものはたくさんあるけど、持って歩けなかったら意味がない。そう考えると宿暮らしの冒険者っていうのも大変だ。


「アイテムバックがあればいくらでも荷物を持てるんだけどね。あれはたまに市場に出回ってもすぐに買われちゃうし、馬鹿みたいに高いから無理なんだ」

「それってどういうもの?」

「あっ、そっか。これも知らないんだね。アイテムバックっていうのは……簡潔に言うと、見た目や重さは小さな鞄なのに、中には大きな部屋ぐらいの収納スペースがある鞄のことだよ」


 見た目は小さな鞄で、収納スペースが大きな部屋ぐらいとか、さすがにありえなくない……? それも魔力とかスキルとか、そういう不思議な力によって生み出された物なのだろうか。改めてこの世界って凄いな。もしかしたら地球より発展してるのかもしれない。


「アイテムバックって、買う以外に手に入れる方法はないの?」

「ダンジョンの宝箱から出ることがあるから、お金をかけずに手に入れるって考えたらそれしかないかな。でもそれはかなり難易度が高いよ。上級ダンジョンの奥からしか出てきた記録はないって聞いたことがあるから」

「そうなんだ……じゃあ目標は高くってことで、上級ダンジョンでのアイテムバックの入手も目指さない?」


 難易度が高いからって諦めきれないほどに便利そうだから思わずそう提案すると、リラは面白そうに笑って頷いてくれた。


「確かに目標は高く設定しておかないとね。リョータの魅了があれば夢ってほどでもないと思うし」

「魅了は厄介だけど強いからなぁ……でもさすがに厄介すぎるけど」


 さっきもスキル封じの効果が切れるってことで、服屋の試着室に二人で入ってかけ直してもらったのだ。こんなことを続けてたら、めちゃくちゃ誤解されそうな気がする。


 スキル封じは攻撃魔法の系統だから、基本的には街中での使用はダメだし、隠れてやるしかないのだ。やっぱり早めに魔車が欲しい。

 魔車を引く魔物はいくつか種類があるらしいんだけど、俺達にはユニーがいるから魔物は必要ないので、車部分だけを買えば魔車として使うことができる。早くお金を貯めたいな。


「リョータ、雑貨屋はあそこだよ」

「おおっ、なんか掘り出し物がありそうな雰囲気」

「確かにそうかも。たまにこれ何だろうって思ったものが、思わぬ便利グッズだったりするんだよね」


 俺達はそんな話をしながら雑貨屋に入り、店員の男性と話をしながら必要なものを買い揃えた。欲しいものはたくさんあったんだけど、持ち運べないからと泣く泣く諦めた物がたくさんあり、アイテムバックを手に入れようと決意を新たにした。定住できないって辛い。


 そして雑貨屋の後は靴屋に行って俺に合った靴を購入し、本日最後に向かったのは……武器屋だ。

 リラがさすがに一つも武器を持っていないのは心許ないし、武器を持ってないだけで舐められて、スリなどの犯罪に巻き込まれやすくなるって忠告してくれたので、俺でも扱えそうなもの買うことにしたのだ。


 リラが採取用のナイフを買っているという武器屋に向かうと、狭い店内に所狭しと武器が並べられていた。奥のカウンターにいるのは頭にふさふさな耳がついたガタイの良い男性だ。


「いらっしゃい! お、リラじゃねぇか? またナイフの手入れか?」

「ううん。今日はリョータの武器を買いに来たの。私のパーティーメンバーだよ」

「リョータと言います。よろしくお願いします」


 俺が挨拶をすると、男性はニカっと人好きのする笑みを浮かべてくれる。


「やっと仲間ができたんか、良かったな!」

「そうなの。それでリョータは私みたいにスキルで戦うから物理は強くないんだけど、護身用に武器が欲しくて」

「確かに一つは持ってた方がいいな。お前は……意外と筋肉はありそうだし、ナイフじゃなくて短剣でもいいかもな」


 おおっ、俺が剣を持つのか。短剣といえどもちょっとだけわくわくする。武器は怖いけど、やっぱり憧れでもあるんだよな。学生の時に旅行先で木刀を買ったのは良い思い出だ。


「ちょっとこれを持ってみろ」


 そう言って渡された短剣を持ってみると、思ったよりも重くて驚いた。短剣でこの重さってことは、普通の剣はどれほど重いのか。それを振り回してるとか考えられない。


「重いか?」

「かなり重いです」

「ははっ、そりゃあダメだな。じゃあ次はこれだ」


 それからいくつかの短剣を持って、見よう見まねで試し振りをしてを繰り返していると、七本目の短剣が今までのものと比べて手に馴染む感じがした。重すぎなくて俺にはちょうど良いかもしれない。


「それが良さそうだな」

「はい。軽さが良いです」

「それはうちにある短剣で一番軽いやつだぞ? お前はあれだな、筋肉はついてるが剣を振るための筋肉は発達してないんだな」


 それは当然だ。剣を持ったのなんて初めてなのだから。俺の筋肉はダンスをするためにつけたものだけだ。


「これはいくらですか?」


 値段を聞くと今の所持金で買えないことはない値段だったので、思い切って買うことにした。サービスで鞘もつけてくれて、残ったお金で手入れに必要なものも購入する。

 お金を払ってから剣を受け取って腰に下げると……なんだか強くなった気分だ。腰に刃物をぶら下げているというのは少し緊張する。


「意外と似合ってるじゃねぇか」

「ありがとうございます。使いこなせるように頑張ります」

「ああ。もっといい剣が欲しくなったら来いよ」


 そうして剣を手に入れた俺達は、武器屋を後にした。魔物を、生きてるものを自分の手で倒す勇気はまだ俺にはないけど……いざという時に少しでも役に立てるように、素振りなどをして使えるようにはしておこう。

 俺はそう誓って、覚悟を決めながら腰に差してある剣を撫でた。

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