第16話 ふざけたスカウト
「誰???」
『悲報、家出娘、謎の男を連れ込む』ってふざけてる場合じゃなーい!!
「セトです」
名前はいいの。名前は。もう分かるから、おばさん耳遠くないから。
「私ね、トラを捕まえたのっ!!」
「「本当!?」」
ぴょんぴょん跳ね気味に報告するルナを見て思い出した。私たちはルナに優しくしなければならない。ルナが寅を手に入れた現在、その重要性はさらに増している。なんとか、私たちの元にとどめないといけない。
がばっ。
ルナに抱きつく。頬づりもする。愛してるをする。
「ルナすごい!!ありがとう!!」
ショウコさんが、褒めてくれる。いっぱい愛してくれる。
なのになんでだろう、心が冷たい。
「それで、セトはトラを捕まえる時に、私を助けてくれたの」
ショウコさんとおっさんの視線が鋭い。
なんで、なんで。
「そもそも、見つけられたのだってセトのおかげ。なんだかよく分からないけど、超リアルな夢を見て、セトに会って、行かなくちゃって思ったの」
視線がさらに鋭くなった。殺気さえ感じられる。
なんで、なんで。
「セト君は死神なの?」
やっぱり警戒するよな。さすがに。
「まあそんなところですね。世界をよりよくしたいんですよ」
母さんのために。境なんていらないんだよ。
ルナの提案で揃ってアニメ鑑賞。
「ああそんな壊したら証拠が残るだろ…」
「ショウコさんおっさんがうるさい」
「ルナ、画面を観なさい、そこにはイケメンがいます」
三次元にも現れたけどね。怪しい。怪しいの塊だ。
この前一瞬水盆に写って消えたのはきっとこいつだな。
酉は夢を見せる能力を持つ。
タイガが盗んだ2つのとは違うが、こちらが捕まえられなかったから、先をこされていたのだろう。
セトと名乗った青年はソファーになんの違和感もなく腰掛けている。日常に溶け込みつつある。
スパイというわけか。
だけど今更なんの情報を?
そもそもタイガはどうやって境界を壊すつもり?
『なぜ』が積み重なっていく。面白い。
私の性格は父親譲りだ。
なんでも知りたがる。そのせいで父は死んだ。
あれから私の人生は…
違う。もう少し後だ。何もかもが上手くいかなくなって幸せが崩れていったのはもう少し後…
「先生…?」
「?『先生』?五条先生?」
痛い。激しい頭痛がする。
ルナが心配そうな目で見つめてくる。
なんで忘れてたんだ。なんで、なんで。
高校の先生も殺されたことを。
計画を伝えながら、シオリはこの少年との出会いを、タイガとの出会いを回顧した。
『ただいま』
ジャラジャラと音がする。ビーズでできた
『おかえりなさい。あら?』
タイガの後ろに隠れるようにして、一人の少年が入って来た。
『シオリ、新入り君がいます』
その言葉とともに、タイガは少年を半ば無理矢理前に出す。
『こっこんにちは…』
私は背が高い、意図せずに高圧的になってしまっているのかもしれない。少しかがんで目線を合わせる。
『こんにちは、名前は?』
『えっと…分かりません』
分からない。ということは…
『そう、では、名無し君…は呼びづらいからネモと呼ぶわね、いい?』
『あっはっはい』
元の体制に戻る。目線がタイガとぶつかる。何かを話したそうな顔だ。
『もう疲れたでしょう、その部屋が空いてるわ、寝なさい』
『あっはっはい』
ネモは部屋に入っていった。
『ネモ、呪いないのね』
2人だけのリビング、ソファーに並んで腰掛ける。
『うん』
タイガは新聞を読みながら軽く答える。
『子を継承したの?』
タイガは2つの能力を持っているが、同時には使えない。誰に継承するのか、なかなかタイガは決めなかった。決めようとしていなかった。
『そう』
相変わらず、タイガは一つの記事を見つめている。
『なんでネモにしたの?』
タイガは新聞を置いて、私を見つめる。
『気に入ったから』
『君の顔が気に入った。仲間になってほしい』
『ふざけないでいただけます?』
『体ももちろん好きだ』
『何もよくなっていませんが、容姿を褒めていただき感謝します。ちなみに消える方法ご存知ですか?』
『そのメガネを外したらもっと好きだ』
『…やめてください。不愉快です』
『消える方法、教えてあげる。だけどその前にメガネ外して』
『…』
『うん。やっぱり君、仲間になってくれ』
『消える方法は?』
『君?それとも境界?』
本当にふざけたスカウト。
「ネモ、覚えた?」
「あっはっはい」
「うん。よかった」
机に常に置かれっぱなしの2つの新聞。
いつも見ている2つの記事。
《日本人ジャーナリスト、米国で殺される》
《文化祭で何が!?男性教員一名死亡、女子生徒一名意識不明》
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