優しい死神

家猫のノラ

一章 出会い

第1話 泥にまみれた氷

「おいボウズ、大丈夫か?」

人間がうじゃうじゃと湧き出ては消える駅で、

「僕は人を待ってるんだ。」

僕は一人で座ってた。

「そうか、どんな人?」

「分からない。」

おじさんが僕の隣に座った、

僕のお腹が鳴った。

「お?腹減ってんのかボウズ?」

「うん。お腹空いた。」

「よし。じゃあ腹減らないところいこうぜ」

「うん。」

僕は二人で歩いている。

空へ、空へ。

僕は駅から消えた。



ガチャリ。灰色の扉が開く。

呼び鈴なんてない。ここにのは私たちだけだから。

「境界に居座ってた幽霊ボウズ送り出したぞー」

報告をしながらソファーに腰おおろし新聞を広げ始める。お前それ何年前のだよ。

彼はイケメンでもブサメンでもない、普通の50代(予想)おっさん。

「そう。居座ってた理由は分かったの?」

それに比べて私はというと、美人だし、スタイル抜群、街を歩いて入ればお食事、そのあとの色々♡も誘われる色気の持ち主。

街を歩いて入れば、ね。

「お父さんがまだ俗界あっちに居るみたいで、一緒にご飯が食べたかったらしい」

「お父さんの姿になったのね」

「そう。忘れてたけどな。」

彼の表情は変わらないけれど、長い付き合いだ。彼が悲しんでいるのはなんとなく分かる。

「1週間も居れば忘れるわ」

全然フォローになってないけどこれくらいしか言えない。

「…本当のお父さんに会わせてやりたかったよ」

「バカッ!笑えない。上に消されるよ?」

思わず声を張り上げてしまった。

「早く消されてボウズに会いたいぜ」

ヒステリックな私をよそに淡々と願望を重ねる。

お願いだから変な真似しないで。

「何言ってんの、今違反したら地獄行きよ?」

地獄に行ったら私はもうあなたたちに二度と会うことはできないだろう。

彼が新聞をたたみ、社会面の暗いニュースに埋めていた顔をだした。

彼の目は変わらない。

いつも何かを憎しみ恨んで怯えてる。

「俺には知ったこっちゃないね」

氷の様に尖った言葉。たった一言でその場の空気が凍えて重くなる。動けなくなってしまう。

「ごめん。」

全然お詫びにならないけれどこれくらいしか言えない。

フッと口元を緩ませて微笑む。氷が気休めほどに溶けていく。

「いいんだ、俺こそ変なこと言ってごめん。あと1ヶ月頑張れよ相棒ショウコ

ショウコは「あなたも」と言いかけてやめた。

彼の運命は変わらない。

どんなに幽霊ひとに優しくしても。

彼は必ず、地獄行き。

彼には大切な人がいるのだろうか。

会いたい人がいるのだろうか。

その憎しみと恨みと怯えでいっぱいの目で彼は何を見たいのだろうか。

灰色の部屋で二人。

罪の氷を溶かし合う。

短すぎるよ。

まだ私も彼も凍えているのに。

ドロにまみれた氷は今すぐに割れてしまいそう。

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