プール

 夏休みに入ってから一週間が経ち、今日私たちはプールに行く予定となっている。

 外では太陽が煌々と輝いており、すごく眩しく、大きな入道雲と蝉の鳴き声が夏であることを強く主張してくる。


 そんな中、私は外の暑さを想像して部屋を出れずにいた。


「紫音、やっぱりやめない?外暑そうだし家にいようよ」


「んなこと言ったってだめ!雅たちもまってんだがら、はやぐいぐよ!」


「プールはさ、部屋に子供用プールを用意して、それで遊ばない?」


「そすたなことしたら部屋がびしょ濡れでねーが!」


 紫音に怒られた私は、渋々準備を済ませ、彼女に引かれる形で部屋を出た。

 すると、管理人用受付のところで今にも溶けてしまいそうな茜さんがいた。


 私たちはそんな茜さんに部屋の鍵を渡すため、声をかける。


「茜さん!出かけるので鍵をお願いします!」


「んぁー?あぁー、白玖乃ちゃんに紫音ちゃんねー。こんな暑いのにどこへー?」


「友達とプールに行ってきます!」


「そぉー。若いっていいわねぇー。楽しんでくるのよぉー」


 茜さんはそう言うと、机にぐでっとしたまま手だけを伸ばして鍵を受け取った。


 アパートの鍵を渡したあと、私たちは紫音が待ってくれている日傘を差して外を歩く。

 おかげで上からの直射日光は遮られているが、下からの地熱が私のHPをガリガリ削る。


「大丈夫、白玖乃?飲み物いる?」


「…お願い」


 私がそう言うと、紫音は一度日傘を私に預け、自身が持ってきた鞄から冷えたスポーツドリンクを出すと、蓋を開けてから私にくれる。

 私はそれを受け取ると、すぐにペットボトルに口をつけて飲んでいく。


「…ふぅ。ありがと、紫音。おかげで少し落ち着いたかも」


「それならよかった!また喉乾いたら教えてね!」


 紫音はそう言うと、私からスポーツドリンクを受け取りまたカバンに戻した。


 それからしばらく暑さに苦しみながら歩いていると、一花と雅が待っている場所へと着いた。


「おはよー、二人とも。今日も暑いね」


「おはよ。一花、雅。待たせちゃってごめんね?」


「別に良いわよ。白玖乃の様子を見れば、おおよそ何が合ったのかは分かるし」


 雅の発言に、紫音は何とも言えない苦笑いをしながら「ありがと」とだけ返した。

 私は暑さのせいで頭が回らず、何の話をしているのかよく分からなかったが、とりあえず待たせたことを怒られたりはしないようなので一安心である。





 その後、私たちは電車に乗って移動し、今日の目的地であるプールへと来ていた。

 ここのプールは割と有名なところで、名物は数種類ある長いウォータースライダーだ。


 私たちはさっそく入場券を買って中に入り、更衣室へと向かっていき着替える。

 私はワンピースタイプの水着で、色は紫音とお揃いの黒にした。


 雅もワンピースタイプの水着だが、少しフリルがついており、色も白ということも相まって、すごくお嬢様感がある。

 一花はビキニタイプで、色は黄色と少し派手めだが、元気な彼女にはよく似合っていた。


 そして、紫音。彼女も一花と同じビキニなのだが、何というか色気がすごい。

 いつもは明るい雰囲気の彼女だが、黒いビキニと肩紐を首の前で交差して後ろで結んでいるためか、凄く大人っぽく見える。

 しかも、彼女は運動が好きなので、適度に引き締まった腰回りの括れと透き通るような白い肌がとても扇情的でとにかくやばい。


 一緒に水着を買いに行ったはずなのに、そんな彼女の姿を見ると胸が高鳴ってしまう。


「あ、白玖乃!やっぱりその水着可愛いね!似合ってるよ!」


 紫音は私のことを褒めながらいつもの笑顔で笑ってくれる。

 だから私もいつも通りを装って、頑張って彼女のことを褒める。


「し、紫音もすごく似合ってる。大人っぽくて良いと思う」


 何だか子供っぽい感想になってしまったが、これ以外言う事ができなかった。


「ありがと!一花と雅の水着も可愛くていいね!」


「ありがと!紫音さん!私のは雅が選んでくれたんだよ!」


「だって一花ったら、水着を持ってないっていうし、スク水を買おうとしていたのよ?さすがに私が選ぶわよ」


「そうだったんだ」


 私が紫音の姿に見惚れていると、紫音たちが話を進めていく。


(これ、紫音大丈夫かな。変な人にナンパとかされるんじゃ?…ありえる。私が紫音守らないと)


 今日一日、私が紫音を守ることに決めたので、私はさっそく離れないように彼女と手を繋ぐ。


 そんな私を彼女は不思議そうに見て来たが、すぐに笑顔で握り返してくれた。


「ねぇ雅。あの二人は付き合ってないんだよね?」


「紫音からは特に何も聞いてないわね。でも雰囲気がもはや…」


 後で一花と雅が何かを話していた気がするが、手を繋ぐために紫音に近づいたことで、より彼女の魅力に当てられた私はそれどころではなかった。


「それじゃあ!さっそくプールを楽しもう!」


 紫音のその言葉を合図に、私たちはプールで遊び始める。

 流れるプールや波のあるプールで遊び、体が少し冷えるとジャグジーで温まる。

 ウォータースライダーでは二人組で滑るということで、私と紫音が一緒に滑ったりと楽しい時間を過ごせた。


 プールに来てから2時間ほど経った時、一花がお昼を食べることを提案してきたので、私たちはプール場内にある売店でお昼を買い、ベンチで食べることにした。


 一花と紫音が二手に分かれて飲み物と食べるものを買いに行き、私と雅で席を確保する事になったので、私は今ベンチに座って休んでいた。

 でも、あの魅力的な紫音を一人で行かせてしまった事が不安で、少し落ち着かない。


「白玖乃、少し落ち着きなさい?紫音なら大丈夫よ。あの子はしっかりしてるから」


「な、なんで分かったの?」


 私がソワソワしている理由を言い当てられた事に少し驚き、何故分かったのか言葉を詰まらせながら聞く。


「むしろ気づかないと思ったの?あんなに紫音の周りを気にしていたら誰だって気づくわよ?」


「え?じゃあ、紫音にも気づかれてる?」


「それは大丈夫。あの子は気づいてないから。だってあの子も…」


 最後の方は声が小さくて聞き取れなかったが、その言葉を聞いた私はホッと一安心する。


「あ、私ちょっとトイレ行ってくるね」


「いってらっしゃい。気をつけて行ってくるのよ?」


 安心した事で急にトイレに行きたくなった私は、雅に一言入れてからトイレに向かった。そして、トイレを出て雅のもとに戻っている途中、突然知らない男の人に声をかけられた。


「ねぇ、君一人?よかったら俺たちと遊ばない?」


「…いえ、友達と来ているので遠慮します」


 まさか自分がナンパされるとは思っていなかったので、一瞬思考が停止したが、何とか断る事ができた。

 これで終わりだろと思ったのだが、その男はしつこく声をかけてくる。


「ならそのお友達も一緒でいいからさ。一緒に遊ぼうよ。俺も友達と来てるしちょうどいいと思うんだよね」


 何がちょうどいいのかは分からないが、面倒だと思った私は無視して雅の所に戻ろうとする。

 しかし、男は私の態度が気に入らなかったのか、無理に引き留めようと腕を掴もうとしてきた。


 私は少し焦り、どうしようかと考えていると、急に横から肩に腕を回されて引き寄せられる。

 突然のことに驚きながら顔を上げると、そこには今まで見たことのないほど怒った紫音がいた。


「あんだ、うちの白玖乃さ何か用け?」


「お、君がお友達か。君も一緒にどう?俺たちと遊ばない?」


 男は紫音の魅力にやられたのか、紫音のことを舐め回すように見る。

 私は紫音がそんな汚い目で見られたことが許せなくて、さっきまでの焦りが怒りへと変わる。

 しかし、どうやら私よりも紫音の方が怒っていたようで、彼女の言葉は止まらなかった。


「遊ぶわけねぇべ。なしてわー達が誰だか知らねぇ連中と遊ぶんだ?あんだは突然知らん人さ声かけられてホイホイついて行くんけ?行かねーべ?わがったらさっさとうせろ」


 紫音が訛りながら早口でそう言い切ると、あまりの迫力に男は何も言えなくなる。

 その間に私たちは手を繋いでその場を去ると、急いで雅たちのもとへ戻る。





「雅、少しだけ席を外してくれる?」


「あら?…あぁ、やっぱりそうなってしまったのね。気をつけるように言ったのだけれど…。わかったわ。ほどほどにね?」


「うん。頑張る」


 雅はそれだけ言うと、少し離れた場所へと向かっていった。

 そして、紫音は私と手を繋いだままベンチに座り、私も隣に座ろうとしたら何故か手を引かれて彼女の膝に座らせられた。


 私は突然のことに驚いたが、腰に回された紫音の腕が私を離さないように抱きしめているため、身動きが取れないので仕方なくその状態のまま紫音に話しかけた。


「どうしたの、紫音」


「…なんで一人で行動したの?」


「いや、トイレに行きたくて」


「はぁ。それなら仕方ないか…」


 紫音はそう言うと、抱きしめたまま顔を上げて私のことを見てくる。その瞳はとても真剣で、自然と私も体に力が入る。


「白玖乃。白玖乃は自覚あるか分からないけど、とっても可愛いんだから一人で行動したらダメだよ?今回は私が助けられたからいいけど、必ず助けられるわけじゃないんだから、今度から気をつけてね?」


「う、うん」


 紫音があまりにも真剣な顔でそんなことを言うものだから、私は恥ずかしくなってしまい、返事をするので精一杯だった。


(でも、私を可愛いって言うけど、紫音の方が美人だと思うんだよなぁ。

 それに、さっき助けてくれた時はかっこよかったし…)


 私はそう思いながら、さっき紫音に助けられた時のことを思い出す。その時の紫音があまりにもかっこよかったので、心臓が高鳴り顔が熱を持つ。


「どうかした?顔赤いけど…」


「な、なんでもない!」


 私が慌てて誤魔化すと、紫音は不思議そうな顔をしていたが、深く理由を聞いてくることはなかった。


 それからしばらく待つと、途中で一花と合流したのか雅も一緒に戻ってきた。

 雅は私たちの状況を見て軽くため息をつくと、買ってきたものを私たちに配る。

 さすがに紫音に抱きしめられた状態でお昼を食べることはできないので、私は紫音の膝から降りてベンチに座り直す。


 その後、お昼を食べた私たちは特にトラブルとかもなく、またウォータースライダーなどで遊び、その日は楽しく過ごす事ができた。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。



『人気者の彼女を私に依存させる話』


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