異世界で、異世界を作る。

なうもち

第1話 享年800歳の賢者

転生した青年は転生時に神様と名乗る者から貰ったチートで異世界の魔物を翻弄し、歴史に残る偉業を残した。


一万年にひとりの逸材と呼ばれた、魔王討伐に同行し無事封印、のちに伝説の賢者として歴史に名を残した人物がいる。

そんなふうに歴史の教科書の一文に書かれていた。

説明の隣には賢そうな青年もとい賢者の絵が書かれていた。


賢者は、妖精族の姫と結婚し素敵な奥さんを持った、娘が生まれ、末永く仲良く幸せにくらした。


同じパーティの勇者は魔法使いと王国の姫、魔王の娘の三人に言い寄られていたのを街で目撃し、その後に姫と結婚、魔法使いと公認浮気をして魔王の娘は側室になった。元々馬鹿だと思っていたが初めてクソ野郎だと思った。


戦士は…幼い頃、大きくなったら結婚しようと言い合っていた幼馴染に告白したら、既に人妻になっていて唐突なNTRに脳を破壊されたが持ち直し世界を巡る旅に出た。可哀想なやつだった。


純粋に人からの好意を断れない馬鹿勇者、そんな勇者に夢中な魔法使い、でかい図体に反して不憫で可哀想な戦士、そしてその騒がしさが好きだった賢者


魔王討伐後、勇者パーティはそれぞれの人生を、歩み始めた。







そしてその賢者だったものは今、歳を重ね衰えて、軽く死にかけていた。


ぜぇぜぇと何度も荒く呼吸を繰り返す、口を閉じてしまえば息することを忘れて永遠の眠りにつきそうになる、教科書の挿絵で勇者、魔法使い、戦士と並んで、穏やかな微笑みをうかべ、身の丈より長い杖を持つその青年と今のシワシワの老人を見比べても同じ人間にはみえなかった。


老人自身も、自分がここまで衰えてしまうとは思いもしなかった。


妖精族と長く一緒にいた事が原因なのか時間という制限を超えたかなり長い年月を生きてしまった。


気づいた頃には800歳となっていて、まともにベッドの上からうごけなくなっていた。


混濁する意識の中で走馬灯を見る。長い長い飽きるほど沢山ある思い出が流れたと思えばふいに映像は途切れ、黒い黒い暗闇に包まれた。


転生して、800年ぶりの死だった。

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