第21話 日本人的符牒

 ふうむ、そのようなものなのだろうか。

 改めて考えれば、『灰色と熱い鉱石』には一般的なモンスターというものがほとんど存在ない。だからスライムのような他の地域ではありふれているようなモンスターも稀だ、というより存在し得ないのだ。存在しているのは竜種を始め硬い殻を持つ種族ばかりだ。

 転生者だと考えれば、先程のバリスタのことを理解してもおかしくはないのかもしれない。このマギカ・フェルムの他の領域には同様の機甲はないであろうし。そもそもこれを作ったのは部下のマルセスなのだ。だから他の国の者が知るはずが、いや、諜報員であるのなら知っていてもおかしくはないのかもしれぬ。

 その話が本当か前世とやらを色々訪ねたが、このデュラはんは肝心の転生前の暮らしをほとんど覚えていないらしい。ますます信憑性が薄い、が自ら転生者であると告げながら証となるの内容をさっぱり覚えていないなどといったバカバカしい嘘をつくものだろうか?


「ステータスカードを見せろ。犯罪者であれば記載されるはずだ」

「それが再発行を申請すると私が生きていることがバレてしまいますので取得できません」

 そこから聞いた話はとても奇妙なものであった。

 もともと司祭であったこのボニという者は、教都から放逐され命を狙われる立場にあった。そこでかつて体を有していたこのデュラはんと出会い、赴任先の村で匿う。そしてこのデュラはんの知識で村を開発しつつ守ったが、やがてそれらが教都に知れ、囚われたところをデュラはんに救出されて今に至る。

 その際にこのデュラはんは体を失った。


 なぜ魔物を匿う。

 教都に救出? しかも教会区域から?

 私も何度か外交使節として赴いたが、あそこは単独でそんなことができるほど容易い場所ではあるまい。

 諜報員であるのならもう少しましな話をするような。だがこやつらの妙な話は裏付けや証拠といったものがまるでないのだ。

「マルセスを呼べ。あいつは転生者だろう?」

「おっ初めての人間の転生者や!」

「人間の?」

「そうそう、キウィタス村は100人くらいの村やからな。転生者なんかおらんのよ、っていうか人間の転生者ってわりとおるん?」

「人間の? そうだな。大きな都市には何人かはいるはずだ。この世界のなかでもマギカ・フェルムは転生者が多い。魔女様たちがそのようにこの領域を調整されているからな」


 そうこうしているとノックの音が聞こえた。

 マルセスは我が第一機甲師団兵装開発部の研究員である30過ぎの茶髪の男で転生者だ。異世界の知識を役立てている。

「マルセス、参上しました」

「この首が転生者だと主張しているが真実かわかるか?」

 マルセスは一瞬眉をひそめ、まじまじと首を眺める。

「転生者って顔に書いてあるわけじゃないからなぁ。ステータスカードを確認すればよいのでは?」

「魔物にもステータスカードが発行されるものなのか?」

「そういえばどうでしょうね。うーん、元の世界と言っても広いからな。……たーまやー」

「おっ日本人か? かーぎやー」

「あんあんあん、とっても大好き」

「そら版権的にマズいんやないやろか」

「隊長、こいつ異世界人で俺と同じ日本人です」

「……異世界人の符牒でもあるのか?」


 異世界人、しかもマルセスと同じ日本人。

 それならこの頓狂な話も通るのか?

 いや、異世界人であることを前提としても色々とおかしすぎるのではないだろうか。

「それからね、さっきこいつらの兵装を調べてたら純粋物理具でした」

「何⁉」

「この国の機甲技術は全く使われておりません。しかも技術力としては同等くらいはあるでしょう。いやぁ、ガチのてこの原理とか懐かしい。是非ギミックについてご教授願いたい。特に特殊弾とか」

「あー、アレは俺が作ったんやないんや。他の転生者がおってやな」

「他にもいるのか?」

「そうそう、ケンスケとかタケヒサとか。みんな首だけやけど」

「首だけ?」

 なぜますますわけのわからないことを言う。

 困惑する。黙っておればよいのに。

「隊長のご懸念は杞憂ですよ、多分」

「なんか心配事あるん?」

 お前のことだ、と言いたい。

「ええ。我々は産業スパイを疑わないといけないんです」

「あー。でもめっちゃ知りたい。どうやって動いとるん? あのパワードスーツみたいなやつ。魔法なん?」

「ほら、流石に諜報員はこんな素人丸出しに的外れなことをド直球に聞いたりしないでしょう?」

「うーん」

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