第7話 俺氏の心の友ボニたんは都会に行った。

「お土産まっとるで~、抹茶あったら買うてきてな」

「抹茶ってみたことないけど、あったら買って帰るね」

 心の友ボニたんは朝一番の馬車に乗って視察隊とともに村を出てってしもうた。

 うーん、ちょと寂しいん。

 さってと。とりま村強化しよ。あとは何ができるんかなぁ。

 『デュラはんのキウィタス村強化計画』は極めて順調である。

 今日は土塁の上に建てた塀にお湯を流す狭間を大工さんにつけてもろた。これで安全にお湯が流せる。じゃばじゃば~と。狭間の近くにお湯を沸かせるかまどを作ったり。

 堀に水を引こう思たんやけど川がちょっと遠いねん。だから堀の底は槍衾さしといた。竹はないんやけどその辺の木を切って尖らせて、たい肥に突っ込んで底に立てるん。悪ノリしすぎとるかな。ほんまに危険になってきたから子どもらは塀の近くで遊ぶの厳禁。これを徹底せんと。


 他はね、自給自足のすすめ。この村は野菜とか穀類とかは自給自足できてるん。足りないのはお肉やな。将来的に家畜を増やす方向で、育てたクローバーを家畜の飼料にするんを提案してみた。テンプレ知識チートや。村長さんは半信半疑みたいやけど、自分もう5年もここおるからな。試しにやってみる言うてくれた。完全に自給自足できれば籠城戦できるからな。

 それまでのつなぎで、とりま俺がようけ鹿とか狩ってきて、たくさん干し肉を作ってもろた。ジャーキーみたいに細くしたらお塩なくても作れるんやね。勉強になるわぁ。

 それから湖でお魚を育てることにしたん。中洲の一部を囲って捕まえたお魚を入れておく。1日1回、釣りに行く人が砕いた魚の骨とか穀物、廃油とかそんなんをエサにお魚を増やすん。これはまだ始めたばっかりやからうまく行くかはわからんのやけど。


 ボニたんの代わりに日中は村長さんのおうちにお邪魔して、同僚が探しに来たら教会で寝る生活。

 村長さんのとこの奥さんは綺麗やし、ぼっちゃんはやんちゃで元気や。俺の頭を隠そうとするたびに村長さんが慌てておもろい。

 ボニたんおらんかったらこんな楽しう過ごせんかったやろなぁ。ほんまボニたんには感謝やで。

 でも心の友ボニたんが出かけてから1か月くらい過ぎとる気がする。

 村長さんに聞いたら教都はだいたい馬車で1週間の距離らし。まだ帰ってこんのかな。

 心の友、早よ帰ってきてぇな。5年くらい一緒に暮らしてたからな。おらんとちょっと寂しいわぁ。


 そんで2か月たった。

 まだかかるんやろか。参考人いうてたけど。

 そう思てたらなんか深刻そうな村長さんからちょっというて呼ばれた。

「デュラはん、ボニさんが危ないかもしれない」

「なん?」

「今日、村に新しい神父が来た。俺はこの村の神父はボニさんだと言ったんだが、ボニさんはもう帰ってこないと言われた。そんなはずないと言うと、審問にかけられて処刑されると言われたんだ」

 処刑?

 村長が口に出したら言葉の意味が……意味?

「ハァ?! ちょ、ちょま、意味わからん、参考人ちゃうの?」

「私もそう聞いていた。何が何だかわからない」

「そいつボコったらわかる?」

「いや、多分あの顔はなにも知らない」

 村長は悲痛な顔で俺の前で首を左右に振る。

 んんん?

「知らんのに処刑いうん?」

「処刑になるから赴任しに来たと言っていた。それでその、非常に言いづらいんだが、この村の防備が斬新すぎてボニさんは他国の間諜だと疑われているらしい」

 ……?

 斬新?

 ……。

「ハァ⁉︎ 俺のせいなんか!?」

「デュラはん落ち着いて。正直わからないんだ。ボニさんからは教区長に嫌われているとも聞いている。そのせいかもしれない」

「ちょ、まって、またれて。意味わからへん、なんなんそれ? そいや前に暗殺者みたいなん何人か捕まえたことあるけどさ」

「そうなのか?」


 んんん?

 なんなん?

 俺が土塁作ったんは村がとられる聞いたからやぞ?そんなんなかったら別に作っとらんわ。多分。

 なんかおかしいよな?

 ほな、どうしたらよかったんよ? そのまま村のみんなと逃げとったらよかったんか?

 そんでもボニたんは教都に連れてかれとったよな?

「俺はどうしたらよかったんや」

「デュラはん、実はボニさんに自分に何かあったらデュラはんに渡してほしいといわれて預かってる手紙がある」


 村長さんから手紙をひったくる。

 簡単に言うと内容はこう。

 僕はキウィタス村の担当から外れるかもしれない。

 でもきっと大丈夫。またこの村の担当になられようになんとかするから、デュラはんはこの村で僕を待っていて。

 抹茶見つけたら買って帰るね。

 ……。

 …………。

 なんなんこの手紙。

 ……。

 俺は思わず手紙を破り捨てた。

 頭の中の血管がふつふつ沸騰するような怒りが湧く。

「けったくそ悪ぃ」

「デュラはん?」

 なんや手紙持っとった手が震えとるわ。

 あぁ。こんなイラつくん前世でも今世でも初めてやわ。

 きっと大丈夫……?

 自分……最初から帰ってこれん思てたんやな?

 俺に嘘ついたん?

 ……。

 ふっざけんなああああ!!

 なんなん!? なんで助けて言うてくれんへんの?

 俺は心の友ちゃうんか?

 ちゃうかったんか?

 なんで相談もしてくれへんの!?

 俺、熊倒せたで?

 足らんのか?

 全然足らんのか?

 俺そんな信用できんのか!?

 ああもう!

 めちゃめちゃむかつく。叫びたい。

 目の前が真っ暗で真っ赤っ赤や。

「デュラ……はん……?」

 あ、村長さんごめん、めっちゃビビっとる。ぐぅ、頭ン中ぐわんぐわんするわ、まじむかつく。

 糞っ。フゥ。とりあえず怒りを1回、息と一緒にまとめて吐き出す。深呼吸。ほんまは息してないんやけど。


「ほんまけったくそ悪いな。一発殴らんと気が済まんわ。何が心の友や。ちゃうんかったんか」

「あの、デュラはん?」

「俺、ボニたんとこいって一発どついてくる。ほんでここに連れて帰るわ。村長さんもボニたんが神父さんやのうても別に構わんやろ?」

「そりゃもちろん。大事な村人だと思ってる。もちろんデュラはんもだよ」

「やろ? やんな。連れて帰るわ。俺と一緒にどっかかくまったって」

「一応ボニさんと相談して湖の洞窟にお堂を作ってある」

 お堂。

 自分の代わりがきて俺が教会に住めんようになった時に隠れる用か。

 なんなんもう。そんなら自分がそこ隠れたらええやんか。

 ほんまにもう。なんでそこで俺のこと考えとるん。

 あほやな。もう。大好きやで、ボニたん。

 あの湖か。ええな。魚育てながら一緒に暮らすか。

 おっしゃ。そんならほんまに連れて帰るで。

 俺は両手でパチンと頬を叩く。膝に頭乗せとるから絵面的に変やろうけどかまへんわ。


 俺は村長さんに教都の話を聞いた。

 教都はこのあたりで一番でかい街や。人口は約20万人。山を北に控えた平地にあり、塀に囲まれたほぼ円形の都市。街の塀にそって一定間隔で鐘楼が建てられている。

 街区は東西南北及び中央に分かれ、中央が政治区、南及西の一部が住民区。西の残りが貴族区。

 東及び北側一部が商業区。北側残りが教会及びその他街区。

 村長さんはそれとなくその新しい神父から状況を聞き出していた。

 ボニたんがおるんは教会区の白磁の塔いわれる場所の多分上のほう。

 うーん。多分たどり着くんはそんな難しないんやろけど、ボニたん連れて逃げるにはどうしたらええんやろうなぁ。

 おっし。とりあえず行ってみっか。

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