第27話 イギリスその後の話

 終わってみれば呆気ない。


 リリィはそんな事を考えながら、少し先で作業をしている渉を見つめていた。




 悪魔との戦闘後、全員が地上に戻された。地上にて待機していた面々は、突然現れた攻略部隊の面々に驚きが隠せなかった。それもそのはず、渉とリリィと聖女、3人以外は気を失い倒れたまま現れたのだ。

 唖然と見つめて来る面々に、聖女から攻略は完了したと告げられると、その場から歓声が生まれる事となる。


 しかし、未だ気を失い倒れたままの攻略部隊員達。当然地上の指揮官は、数台の救急車両を手配した。隊員達は精密検査の為、近くの病院へと分散・搬送されることとなる。


 今後の対応と相談のため、目を覚まし病院を後回しにした司令官と、魔女を代表してリリィ、教会代表として聖女が現場に残り、現場指揮官と話し合う事となる。 


 そこへ、地上に戻ってから姿を消していた渉が登場。


「あ、危険エリアは俺が元に戻しますんで、ちょっと行ってきますね」


 指令室の扉からひょいと顔だけ出し、気軽にそう言って来た渉。何を言っているか理解できない司令官と現場指揮官、リリィはさっさと行けとばかりに、渉を追い払う様なジェスチャーをした。聖女はすでに手遅れだ。


 渉が何をするのかは解らないが、今までの渉の行動から、恐らく何らかの方法で、きっと何とか出来るだろう。

 困惑した面々だが、頭を切り替え、政府への報告などについて話し合いを進める事となる。


 理解できないから諦めた。ともいう。


 もっとも、後に政府に提出された報告書だが、見たまま有のまま報告される事となる。のだが、政府議会は頭を悩ませ困惑する事となる。




 2時間ほどの話し合いで、今後の行動方針を定めると、司令官はそのまま病院へ、現場指揮官は報告のため、その場を離れて行った。

 政府への報告を現場指揮官に任せたリリィ。他には特に報告の必要ないリリィは、「後でみんなへ見舞いに行こう」そんな事を考えながら、渉の行動を確認するため、現地へと歩きだしていた。  


 リリィは渉を発見すると、傍へ向かうように踏み出そうとした足を止める。


 何かしてる?

   

 渉が何をしているか解らないため、邪魔をするのも悪いと考えたリリィは、作業が終わるまで待って居ようと、少し離れた所へと移動し、そのまま地面に座り込むと横に聖女が来たのだ。

 

 特に会話も無く、二人は黙って渉の作業を見守る事となる。




「これで問題ないかな」


 後方を確認しながら、リリィ達の元へと歩いてくる渉。だが、そんな渉をジト目で見て来るリリィ。


「問題しかないわ!更地じゃないのよ!!」


 そう、二人が見つめる先は草木1本ない更地となっていた。


「いや~、そうは言うけど何か起こっても困るでしょ?それなら全部撤去するのが一番だよね」


「いやいや、だからって更地はどうなのよ!景観が台無しよ!それに地上だけ元に戻しても地下のダンジョンはどうするの!?あんな巨大空間そのまま放置なのかしら!!」


「地下ダンジョンはもう無いよ?地上にみんなを送ってから、すぐに埋めて消したから。もちろん有害な物はすべて撤去するサービス付きね」


「……」


 一緒に戻った渉が、次の瞬間居なくなっていたのは、地下ダンジョンを消すため。    

 ダンジョン内に留まっている有毒となった魔力。そんな魔力を消すため、再びダンジョンへと降りていた為であった。


「埋めるって、どんな魔術を使ったのよ…」


「えっ?土魔法しかないでしょ、ダンジョン内の壁とかも土に戻してきたよ。あんな空間邪魔でしかないし、後世に遺跡として発掘されても面倒でしょ。なので綺麗に元通りにしてきたから安心して」


「何が安心なのか私には解らないわ!それならそこの更地も何とかしなさいよ!市民の憩いの場なのよ!!」


「いや、何とかできない事もなんだけど、せっかくだから何か施設でもつくらないかなぁ~と」


 結構な広さの更地。有効活用出来るのではないか。そんな要らない気を使った渉だが、キッと睨みけてリリィは無言視線で渉に行動を促す。


 やれやれ、とポーズを取り渉が振り返り更地を見つめる。


 と、次の瞬間、一面芝に覆われた広場へと更地は変化していた。それを目撃していた2人は唖然と渉に視線を向ける。


「文句が多いなぁ。これで満足してよ」


 ニヤニヤと腹の立つ顔をしながら言ってくる渉。


「本当に非常識ね」


 渉の行動に対し、すでに慣れ始めたリリィ。それでも文句は言いたくなる。そんなリリィに渉が質問して来る。


「ところでリリィさん、此方はどなたでしょう?」


「教会から派遣された聖女様、マリアンヌ様よ」


「どうして俺は拝まれているんでしょうか?」


「さあ?なんでかしらね、本人に聞いてみては?」


 そう、今渉の足元では祈りを捧げるマリアンヌが膝まづいていた。その両目からは涙を流し、感動に震えているのである。


「聖人、いいえ使徒さま。今回の一件、行動で貴方様が神の使いであると実感しました。皆を救っていただき、本当に有難うございます」


「いやいや、大したことしてないから。それに聖女様が信仰対象とする神様と、直接の関わり無いからね。そんな風に祈られても困るんだけど」


「そんな事はございません!」


「いや、ございますって」


 たじろぐ渉に詰め寄る聖女。そんな二人を呆れて見つめるリリィ。


「それで、それでですね。どうか一つだけ私の願いを聞き入れてもらえないでしょうか?」


「願いって、なんだか聞いてはいけない気がしてきたんだが…」


「いいえ、そんな大層な願いではございません。ほんの些細な願い事でございます」


「取り敢えず聞くだけは聞くけど、一体何?」


 聖女の必死な様子を見た渉。

 自分は神ではない、願いを叶える事もないのだ。それでも彼女の様子から、聞くだけは聞いてあげよう、願い事が何かは解らないが、神々に伝えられる事ならば、と聞く姿勢を取る。


「本当に些細な願いです、どうか私に貴方様のを授けて下さい!」


「「……」」


 その見た目や行動から聖女と呼ばれているマリアンヌ。だが今二人の目の前に居るのは、色欲にまみれた野獣の眼光で渉を見つめる一人の女であった。


「この身、この魂のすべて神にささげております!な・ら・ば、神の使いである貴方様の子を授かるのも私の使命!これから毎晩伽をいたしましょう!そう子が授かるまで毎晩いたしましょう!出来なければ出来るまで何度でも!幾晩、いいえ!昼夜を問わずいたしましょう!!」


「「……………」」




 二人はドン引きである。




 彼女は聖女。神に操を捧げている。そんなマリアンヌだが、それでも女性として子を生してみたい。にも興味があった。二十歳そこそこの美しく若い身体を持て余してもいた。理由があれば…そんな気持ちが心の何処かにあったのだ。


 だが、処女性を神聖視する聖女という立場にあっては、望めない事であると諦めてもいた。


 そんなマリアンヌの前に突然現れた、神の使徒(男)。


 これは行幸である。神のお告げである。子供生すことが出来るどころか、相手は神の使徒、言い訳も理由も必要無い使命だと言える。今彼女は天にも昇る気持ちであった。


「早速今晩から!!いいえ今から子作りしましょう!!!!」


「イイエ、ケッコウデス」


「何故ですか!?」


 神話を紐解けば、過去神と人の間に生まれた存在もある。人と神の間の存在である渉だが、当然子供を作る事もできる。

 

 (いや流石にこれは無い、無いわ~)


 足元に縋りつくマリアンヌ、その容姿は美しく、スタイルも抜群である。


 だが、目が怖い。野獣の眼光を持つ女性。渉は自分が干からびた未来を想像し恐怖した。


 これは据え膳ではない。そう判断し撤退を試みるもマリアンヌは手を足から話してくれない。


 リリィは何か考え事をしながら、自身の下腹部を撫でている。


 渉はこの世界に戻ってから一番の恐怖を感じていた。即撤収しなければならない、でなければヤられると。


「あ、加賀美さん。見つけました」


 天の助け。それは同じ職場の職員である華美であった。


「これってどういう状況です?」


 渉に縋るマリアンヌ、顔を赤らめ妄想するリリィ。そんな現場に現れた華美は状況が理解できない。


「あ、いや、気にしなくていいよ。それでどうしたの?」


「あ、はい。岩田室長から早急に戻るよう連絡が来ました」


「何かあったのかな」


「内容については執務室で詳しく話すとの事ですが、どうやら大規模な召喚事件が発生したみたいです」


 瞬時に真顔になる渉。華美にイギリスでの事後処理を任せると決め、聖女を何とか引き離す。3人から少し距離を取ると向き直る。


「緊急みたいだから先に戻る。事後処理は藁科さんに任せるからよろしく!」


「わかりました、お任せください」


 そう笑顔で言ってくる渉。仕方ないと返事をする華美の横で、リリィとマリアンヌが残念そうにしているが、見なかった事にした。


「それじゃ、お先に」


 そんな言葉と共に消えた渉。3人は黙って渉が居た場所を見つめていた。









 渉は性獣からの逃走に成功した。





───────────


いつも、読んで下さりありがとうございます。


お知らせです。


第一話から第七話までですが、内容が急ぎ過ぎ、色々と足りないと感じ、順次修正してます。


流れ自体は変わりないので、読み返す必要はありません。修正後は改訂表示をします。


今は毎日更新1話、改訂1話のペースになります。 


今後とも、よろしくお願いします。










 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る