第25話 共闘の先に

 11階層、ボス部屋の手前で皆準備を行っていた。


「パワードスーツですか、今じゃ建築現場でしか見ないですね」


 そう指令に声を掛ける部隊員の1人。そんな隊員の言葉には苦笑いをしながら答える。


「そう言うな、戦場ではその動きの遅さから使えないと判断されたが、今回は当て嵌まらないだろう。必要なのはパワーと質量だ、奴を抑え込むには丁度いい」


 そう言いながら、パワードスーツを見る指令。開発当初、鳴り物入りで配備された戦力であったが、砲弾を弾くための装甲が仇となる。


 動きが遅く相手の的にしかならない、精々重い物を運ぶための補助機構だ。それならリモート戦車の方がマシである。そんな理由から今では使われなくなった兵器である。


 そんなパワードスーツの右手は、ワイヤーアンカーの発射台に改造されている。鎧に力負けしない、ある程度の攻撃を防げる装甲、移動の邪魔にならない、今回、対鎧用に強化導入されたパワードスーツは6台。


 力でも質量でも負けない、そんな自負があった。


「これでもダメなら全員で抑え込むしかあるまい」


「できれば生身で取り押さえるのは勘弁願いたいですね」


「ははは、私もだよ」


 そんな会話をする二人の奥、神妙な顔つきで見つめ合う人物達がいた。魔女リリィ達と教会から派遣された者達だ。


「今回の協力感謝いたします。マリアンヌ様」


「いいえ、魔を祓い、人々の平穏を護るのも我々の使命ですから」


 そう答えたのは、穏やかな微笑みを称える人物。神父服を着た5人ではなく、一人だけ白の法衣を纏う女性であった。

 

 今回、教会から派遣された人物は全部で6人。5人のエクソシストと1人の女性。


 だが、その人物について知らぬ人は少ない。


 その人物はイギリス教会においての最重要人物。聖人に最も近いとされ、その容姿の美しさや、民衆への施しから”聖女”とまで言われる人物であった。


 その力は魔を退け祓う。祈りは人々の傷や病まで癒すと言う。


 赤く艶やかな髪、大きく奇麗な瞳。黄金に輝くその瞳に見つめられ、一瞬尻込みしそうになるリリィだが、これからボス戦である。目の前の聖女に尻込みしている場合ではない。


「かなりの強敵です、ですが我々が手を組めば怖いものはありません。作戦通りお願いします」


「わかりました、主の御心のままに」


 祈りを捧げ、そう告げる聖女。リリィは覚悟を決める。準備は整った。


「では、これより作戦を開始する!皆準備はいいな?必ず討伐し、みなで生きて帰るぞ!!」


「「「「「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」」」」」


「全員突入!!!!」


 指令の掛け声と共に一気に雪崩れ込む兵士達。部屋の中心には腕を組み、その背に大剣を背負った騎士が待ち構えていた。

 そんな鎧に対し、魔女達と聖女達は鎧を中心に六角形を描くように配置に着く。


 鎧は微動だにせず、その場に佇んでいる。


 鎧の正面3部隊に別れた兵士達は、射線上に味方が入らないよう移動する。


「ファイア!!!」


 指令の掛け声と共に、いくつもの銃声が響き銃弾が撃ち出される。

 これで何度目だ?そんな雰囲気を醸し出し、鎧は背中の大剣を引き抜くと、剣を盾に銃弾を弾いていた。

 すでにその攻撃には慣れた。そんな事をいっているようだ。


「くっ!魔女による魔術完成まで打ち込み続けろ!!」


 魔女達はすでに詠唱を始めていた。その手に供物を掲げ対象の頭上に魔力を込める。

 発動までの間、打ち続ける兵士達、この攻撃はあくまで誘導、時間稼ぎだ。それ程効果は無いと解りながらも打ち続ける。



 

 放つのは6方向から中心に作用する魔術。タイミングはばっちり。魔女達の掛け声が響き渡る。


 「「「「「「雷よ!!!」」」」」」


 同時に行使され融合する事で、破壊をもたらす魔術、雷の合体魔術であった。


「!!!!!!」


 その雷に撃たれた鎧は、思わずその場に膝まづく。すると入口からパワードスーツ部隊が入って来た。

 何故か身動きが取れない鎧、その身体は雷により麻痺状態となっている。


「アンカー放て!!」


 正面から6本のアンカーが放たれ左右の肩や手に突き刺さると、両側から引っ張るようにパワードスーツ部隊は展開、移動する。


 動きを封じられた。そう感じた時には更なる追撃を受けていた。


 機銃による集中砲火。大剣で胴体を庇う鎧であったが、兵達の狙いは両足。

 集中砲火を受けた両足が砕ける。今までと行動が違う、そう感じたのかもしれない。鎧は剣で体を支えようとするが、今度はワイヤーで引っ張られ、そのまま地面に仰向けで押し付けられた。


「対物部隊、突っ込め!胸部を破壊しろ!」


 素早く接近し、至近距離で放たれる銃弾。対物対戦車ライフルは、本来なら手に持って撃つ物ではない、銃を固定し撃つものだ。だが兵士達はその場で立って撃ち込んだ。反動で吹き飛ぶが、皆お構い無し、ケガですら誉であった。


 兵士たちの行動は形となる。身体に大きな穴を開けられ、それでも身動きできず押し倒されている鎧。


「聖女様!」


 そんな声が掛かる前から彼女達は動き出していた。そして5人のエクソシストが、走り込み一斉に聖水を鎧の中へと振り撒く。


「グオオオオオオオオオ!!!」


 鎧の核に聖水が届いたのか、叫び声を上げる鎧。だがすでに祝詞を始めていた聖女は、5人のタイミングに合わせ、とどめととばかりに最後の言葉を告げる。


「主よ、魔を討ち滅ぼしたまえ、アーメン」


 そんな言葉が響き渡ると鎧は力を失っていく。


「グオオオォォォォ………」


 その叫び声が消える頃、鎧は塵となって消えていく。その姿を確認した兵士達は、指令の一言で勝鬨を上げた。


「勝った!勝ったぞ我々の勝ちだ!!!」


「「「「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」」」


 あれ程苦労した鎧。だが渉のアドバイスと教会の協力により、勝負はあっさりと片が付いた。


 簡単に言って来た渉。そんな上手く行くかと反論したが、結果はあっけなかった。 


 溜息を付きながら、渉の顔を思い出し呆れるリリィ。戻ったら絶対殴ろう、などと理不尽な事を考えている。


 だが、次への扉が現れた事で瞬時に気持ちを切り替えた。


 扉の先が迷宮のままなら…でも広間であれば。


 期待を込めて扉を見つめるリリィ。周りもすでに緊張を取り戻していた。渉の話はリリィから部隊全員に伝わってる。まだ続くのか、それとも次が最後なのか、期待を込め、全員扉をくぐる。




 その先には……。





〇●〇●〇●〇●〇





 緩やかに下る階段。警戒しながら部隊はその階段を降りて行く。


 モンスターは現れていない。


 そのまま進み続けると、少し開けた場所に辿り着く。正面には巨大な扉。これが最後だと、そう告げて来る扉を確認した全員は緊張している。


 この先に最後の敵が居る。もっとも強い敵が待ち構えている。


 全員がそう感じていた。鎧との戦闘では散々苦労もした。が、やり方次第ではあっさり倒せることもまた実感したのだ。


 どんな相手でもなんとかなる。そんな気持ちを皆胸に秘めていた。


 黙々と突入準備を整える部隊員達、その横では魔女達が、そして聖女達が準備を進めている。

 そんな彼らを見て指令もまた決心する。皆の準備が整った頃、指令は全員に声を掛ける。


「さて諸君、カガミの話通りであればここが最終地点だ。だがどんなモンスターが現れるのか判っていない。焦る必要はない。じっくり行けばいいだろう」


 そんな指令の言葉だが、皆の目は訴えていた。

 兵士、魔女、聖女達の士気は高い。ならばと指令は告げる。


「だが!我々には勢いがある!素晴らしい人材も集まってくれた!今、幸運の神は我らと共にある!!ならば、今日、ここで、決着をつけようではないか!!全員覚悟は良いか!!!!」


「「「「「「「「おう!!!!!!」」」」」」」


 ニヤリ、指令がそんな顔を浮かべ号令を出す。


「全員突入!!!!!」


 パワードスーツ部隊により、ゆっくりと開かれた巨大な扉。全員が武装を構え入っていく。


 だが……。





〇●〇●〇●〇●〇





 巨大な扉の先、そこは広い空間であった。奥行きは200mはあるだろうか、天井もかなり高い。そんな広々とした空間の先、何かが居る。


 距離があり、解りづらいがアレが最後の敵だ。全員の目がその存在を捉えていた。


 指令と部隊長達は、素早く双眼鏡を取り出し確認する。その目に映った存在に一瞬言葉を失うが、確認した状況をなんとか絞り出す。




「で……悪魔デーモン




 その姿を確認した指令がそう告げると、周りは緊張した。


 確認したその姿、頭からは2本の角が伸び、背中には蝙蝠の翼、口元からは鋭い牙も確認できた、その額には第三の目の様に何かが輝いている。体色は漆黒、まるで闇そのものであった。


「距離は十分ある、ここから狙撃しするぞ!額に核らしき輝きがあった、出来れば頭を狙え!外しても構わん!どこかに当てろ、先制攻撃だ!ライフル部隊準備しろ、それ以外は警戒態勢のまま待機!」


 指令の発言でそれぞれ準備にはいる、だが奴は動く気配すら見せず、じっとこちらを見ているようだ。

 その様子は不気味でしかなかった、鎧の方が幾分人間味があったくらいだ。


「準備整いました」


 指令は双眼鏡で相手を確認したまま、号令を出す。


「ファイア!!」


 轟く銃声、だがその結果を見た指令は思わず声を上げた。


「な!!!!溶けた!????」


 そう、銃弾は悪魔の手前で溶けていた。銃弾がそのそのスピードを失い、溶けて消えたのだ。

 何が起こったのか?そんな考える間もなく何かが光った。


「うがああああああああ」


 声の方向に振り向き驚愕する。


 隊員の手が銃ごと吹き飛んでいたのだ。「まずい!?」そう考える間も無く奴は動き出す。


「指令!奴が飛びました!!」


「何!?」


 視線を向けた先、ゆっくりと浮かび上がる悪魔、そのままこちらへと近づいてくる。隊員たちの目にもはっきり確認できる距離までくると、本能的な震えが身体を伝う。


 あれはまずい、そんな恐怖が伝播する。


 半分くらいまで距離を詰めた悪魔が、急に止まると不敵な笑みを浮かべた。身体が硬直する、身動きが取れない、何かまずい。


「いけない!!下がって!!!」


 身動きできない隊員たちに、聖女は大声で叫び行動を促すと、瞬時に飛び出し、聖水を辺りに振り撒く。


「我らを護りたまえ!!!」


 簡易的ではあったがその場で結界を作り出す。すると次の瞬間巨大な炎の波が押し寄せる。

 まるで聖女が結界を張る事が解っていたタイミング。わざと結界が張り終わるまで待っていたかのような攻撃。

 

「うあああああ」

「ぎゃあああああ」

「何だこれは!?」

「助けてくれ!」


 様々な悲鳴が飛び交う。聖女の結界により炎は届いていないが、その熱が兵士達を焼いていた。

 小さな呻き声を上げ、その炎に耐える聖女だが、彼女は祈りの姿勢のまま指令に告げる。


「まずいです、撤退を進言します。この結界も長く持ちません。私が耐えいる間に撤退してください」


「なら、殿は私達ね!」


 そう言って、聖女に並ぶリリィ、その両手それぞれの指に間に複数の供物を掲げ、魔術を悪魔へと放っている。


「あなたも撤退してはどうですか?」


「まさか、そんな事出来る訳ないでしょ?私達仲間なんだから、見捨てたりしないわ!」


 祈り続ける聖女だがリリィの言葉は彼女の胸に刺さっていた。どう見ても強がりでしかない。だが、過去がどうあれ今は仲間、ならば協力は惜しまないし、見捨てない。リリィの気持ちに心地よすら感じる聖女。


 そんなリリィの言葉に勇気づけられ、その場に留まる勇気をもらった聖女。二人とも助からないわね、そんな気持ちでリリィに微笑みかけた。リリィもまた聖女に笑いかける。


 二人の覚悟を感じ取った指令は全員に命令する。


 心の中で二人に感謝と謝罪を述べ、それでも心を鬼にして声を上げる。


「全員撤退!撤退だ!!扉から出るんだ!!!」


 だが、扉前で待機していた兵士から聞こえた台詞に、皆言葉を失くすことなる。


「扉が!扉が消えました!!!出られません!閉じ込められました!!!」


 その言葉に、全員が振り向き消えた扉を確認する。




 全滅、絶望、そんな言葉を皆が浮かべる…。









─────────


いつも、読んで下さりありがとうございます。


イギリス編の中盤ですがお知らせです。


 第一話から第七話までになりますが、内容が急ぎ過ぎ、色々と足りないと感じ、順次修正していきます。


 第一話については昨日修正しました。流れ自体は変わりないので、読み返す必要はありません。


今後とも、よろしくお願いします。


 








 


 


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