第6話 三つ目の魔犬アルベロス
俺とリリアンの前に立ちふさがる巨大な影。
その名は――【三つ目の魔犬アルベロス】。
ヤツはこの魔境が舞台となる第二章のボスキャラだった。
第一章はほとんどチュートリアル的な内容なので、プレイヤーにとってはこのゲームを進めるうえで最初にぶつかる壁だ。
なので、ちょっと強めに設定しているのだが……今はそれをちょっと後悔しているよ。
「退くつもりはないようだな」
前傾姿勢となり、今にも飛びかかってきそうなアルベロス。
相手の敵意を察知したリリアンは剣を構えるが、正直、まともにぶつかっては勝ち目はないと言わざるを得ない。
これはすぐにでも手を打たなくちゃいけないな。
「待ってくれ、アルベロス」
「なんだ? ――命乞いなら聞くつもりはない。お前に残された選択肢は俺に食われるか、すぐに逃げだすか、そのどちらかだ」
低い声もあいまって怖く聞こえるのだが、問答無用で殺しはせず、逃げ道を用意してくれている辺り、優しさと賢さが垣間見える。……まあ、そういう風にキャラ設定したのは俺なんだけどな。
――だからこそ、分かるんだ。
今、この状況でアルベロスが何を考え、どのような行動を取ろうとしているか。
そのために、俺はわざわざこの大荷物を背負ってここまで来たんだ。
「俺は――君の悩みを解決しに来たんだ」
「なんだと?」
先ほどまで険しかったアルベロスの表情が緩む――が、それはほんの一瞬のことであり、すぐさま元通りとなった。
「悩みだと? 俺が一体何に悩んでいるというんだ?」
「そこの泉だろ?」
「っ!?」
今度は決定的に顔つきが変化する。初対面である俺が、的確に悩みの種を言い当てたことで明らかに動揺しているようだ。
これもまた、ゲームの内容通り。
【ホーリー・ナイト・フロンティア】の第二章では、すでにこの泉は枯れ果てており、その原因が人間であると思い込んだアルベロスが人間に危害を加えるようになり、プレイヤーはその討伐を依頼されるのだ。
ゲームとしてはその後に和解するものの、戦闘にならないのならそれに越したことはないからな。
この魔境へ追放されると言われた直後から、アルベロスとどう接するのかをずっと考えていたわけだが……とりあえず、第一段階はクリアと見ていいかな。
「ここ最近、泉が枯れ始めていることを案じているんじゃないか? ここは大切な水源だ。もし枯れ果ててしまえば、周りの動植物にも大きな影響が及ぶ。――当然、君にも」
「貴様……どこでそれを……」
「当然だ! エルカ様は千里眼を持つ奇跡の予言者――未来を見通す存在なのだから!」
「千里眼……奇跡の……予言者……」
割って入ってきたリリアンが高らかに宣言。
こじれやしないかと心配していたが、俺が的確に悩みを言い当てたことで、アルベロスはすっかり信じ込んでしまったようだ。
「とにかく、この泉がかつてのような勢いを取り戻す手伝いをしたいんだ」
「……できるのか、そんなことが」
「もちろんだよ」
先ほどまでとは違い、すがるような声で俺にそう告げたアルベロス。
さて、それでは……このリュックの中身を披露するとしますか。
次は明日の7:00から!
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