一年ぶり更新。絵界隈と小説界隈の雰囲気の違いの話

 先日、『読まれなくても書く心理とは』というエッセイを書いた。これを書くことになった原因の一つには、web 小説界隈って読まれないもの書いてる人に妙に厳しいというか、初心者のうちからコンテストを目指したり、そのために徹底的にマーケットインさせる創作論が多いという体感があった。これは絵の世界で生きてきた自分には新鮮な雰囲気だった。


 この差が何故生まれるのか。はっきりと考えたことはなかったんだが、昨晩吹雪が酷すぎて引きこもりしてたらふと思いついた。


 多分な。

 割と単純な理由。

 それをここに書き記しておきたくなった。完結済みにしていたのを、丸一年ぶりに連載中に戻して今書いている。


 あくまでイラストレーションとの比較であって、漫画はまた別だと思う。恐らく漫画だとイラストと小説の中間くらいの感じなのではないか。詳しくはないが。


 以降、総合的なイラストレーションの能力をここでは雑に画力と呼ぶことにする。一般的な画力とは若干異なるかもしれないが、一々断りを入れるのも面倒なのでご了承いただきたい。


 絵の場合、多くの人が「絵を書けるようになるぞ」という所から始めると思う。

 描けるようになるがどの程度を指しているのかは人それぞれだが「どんなに下手でもいいから描いてみろよ」に対して「下手でも描けないんだってぇ〜」というレベルからスタートする人も珍しくない。


 ある程度の画力がないと下手でも描きたいものを描けないし、ランキングに入るなんて遠すぎるわけだ。

 ネタが面白くて、画力が低くてもランキングに入るケースはあるが、それにしたって棒人間だときついよな?


 絵を始めるとき初っ端から「ランキング攻略するぞ」「Twitter でバズる攻略するぞ」という人間はあまり見たことない。

「好きなアニメのキャラを描きたい」とか「(所謂)うちの子を描きたい」とか描きたいものの為に始める人が多いように思う。


 それは多くの絵描きが通ってきた道だ。

 練習過程をアップする初心者がいたり、延々とマイナージャンルを描いている絵描きがいるのは当たり前のことだ。

 小説でいうところの底辺スレみたいな所でも、基礎画力に関する談義やデッサン狂ってない?とかが多い。

 煽り方も「下手すぎw」「複雑骨折きもww」「線汚すぎ、脳の病気じゃないのwww」はあっても「なんで人気ジャンル描かないの? 自己顕示欲モンスターなの?」は記憶する限りではいなかったと思う。

 十年以上前のことなので、今はどうだか知らないが。


 だってそもそもそういうレベルにないんだもん。その指摘が成り立つには、人気ジャンル描いたらウケる画力がないとでしょ?

 初心者の頃に「自分の絵がバズらないのは、人気ジャンルではないからだ」なんて幻想に囚われる余地はミリもないんだもん! 明らかに、画力が、足りない! 素人から見ても!


 絵ってのは、描かない奴からみても画力の差がわかりやすい。だから、イラストのパワーを決めるパラメータのうち、構図や色やキャラの可愛さや背景やなんやら全て含めた画力ってのはかなりの配分があって、画力を上げることは単純なパワーアップに繋がる。すげー乱暴なことを言えば、画力さえあればメッセージ性に乏しくても画力パンチである程度人間を殴り倒すことができる。


(自分はストーリー作るのダメで、漫画苦手だし画力パンチだけでやりくりしてきたから、これはすごく感じてる)


 結果的に、ランキング攻略法としても画力を重視するのは効率がいいのだ。手っ取り早い攻略法としてエロを描くというのもあるが、エロこそ画力の誤魔化しが効かないし。初心者が描きたいものを描きながら画力を上げていって、それからランキング攻略法を始めても遅くはない。


 というかすげーぶっちゃけた話になるが、画力がある程度以上になる人間という時点でかなりふるいにかけられる。スキル制 MMORPG に例えると俺は絵スキル 40/100 くらいで、世のプロはスキルキャップ突破してて 1000/1500 とかのイメージだが、40/100 でも相当にふるいにかけられてる。

 どこまでいっても恐ろしいほどに上には上がいるが、それ以上に需要はあるので、絵スキル 40/100 でも人気ジャンルの絵を描いたら見てもらえるし、Skeb で金も取れる。


 俺も時々「うめぇ」するために FGO の絵とか描いてデイリーに入ったりしたし。普段オリジナルしか描いてないと、メジャージャンルではじけるの楽しいよね。

 事情があってアカウントは知り合いには教えてないのでここだけ読むと俺が自分が絵を描けると妄想してるあたおかみたいに見えるかもだが、近況ノート遡ると某カクヨム人気作のファンアートがあるのでそれを見てある程度納得して頂けるかと。


 数あるイラストレーターのチャンネルなんかを見てても、具体的な技術や画力アップに関する指南が多い。

 イラストレーターやアニメーターなど、プロを目指すなら、もっとその傾向が強くなる。短期間でアニメーターを目指す人の訓練とか見たら分かるが、ものすごくフィジカルでロジカルだ。スポーツみたいなもんだよ。やっぱり絵は筋トレなんだよね。




 で、小説。

 ここまで読んだ人ならもうわかってるかも。


 web 小説の場合、始めて書く人でも「ランキング目指すぞ」から始める人が少なくない。これに尽きる。

 カクヨムやなろうでは、初心者向けの創作論がランキングの攻略法とごっちゃになりがちなのだ。


 加えて、不特定多数の目に触れる難度の差。

 絵の場合、不特定多数の目に触れるハードルが小説よりずっと低い。画力があがったら割とスムーズにバズまでもっていけて、自然に自己顕示欲も満たせるし収入にも繋がる。

 それに対して、小説は読まれるためのハードルが高い。自己顕示欲を満たすにしても収入を得るにしても、まず読まれるための攻略に労力を割いた方が、多くの人にとって効率がよくなるのだろう。


 次に、ランキングの性質の差。

 web 小説ではほぼオリジナルで、ランキングは多数派が好んだ結果の流行であるから、好きなものを書いたら人気ジャンルで、結果的にランキング攻略していたという人も少なくないはずだ。

 絵の場合、(エロを除けば)手っ取り早い登竜門はその時に流行ってる二次創作なのでこの辺の事情がちぃと異なる。(フォロワー増やす為に人気作のキャラ描いて、オリジナルのファンを作るみたいな感じ)絵のオリジナルランキングはそれこそ画力お化けの怪獣ランドだし明確なジャンルもあまりないからね。

 今ならフリーレンのファンアートとかいいよね。寿命差モノは自主企画作ったことあるくらい癖だし……あー、結構描きたくなってきたな。骨折のせいでペンも持てんのだが。


 コンテストへの依存度の差もある。

 小説は出版社に見つけてもらってプロになるのが大前提みたいなところ、強いように見える。

 絵はここ 15年くらいで急激に変わってて、収入を得るだけなら Skeb とかでいけるし、エロだったら DLsite でおかず絵セットを売るあたりから始めるとよい。

 余談だが、Skeb で小説を売ることもできるようになったので小説のコミッションは今後増えるのかも。Web 小説から創作に入った人には馴染みが薄いかもだが、TRPG や創作界隈には「うちの子の話を書いてほしい」って需要は結構あるからね。


 最後にこれ。

 絵の場合〈初心者の頃に「自分の絵がバズらないのは、人気ジャンルではないからだ」なんて幻想に囚われる余地はミリもない〉だったのが、小説だとどうもこの余地があると考える人が結構いるようだ。

 実際、面白ければ筆力が低くてもランキング上がる人はいるわけだが、この言い方もちょっとややこしいよな。その面白さというのも筆力に含めると定義した方がよくね? とは思ってる。つまりそこも含めて俺には筆力がないのが明確なのだ。


 俺は絵の経験で良くも悪くも上には上がいるを魂にまで刷り込まれていたので、ランキングとかはなから眼中なかった。


 絵だと〈画力がある程度以上になる人間という時点でかなりふるいにかけられるので、そこにきた時点で人気ジャンルの絵を描いたら見てもらえる〉だったのが、現状でそのある程度に届いてるとは全く思えない。

 俺にもっと人を動かせるものを書く文章力がついて、人気ジャンルを書いたとしても、ランキングは遥か遠くに思える。しかも絵の場合(そこまで入れ込んでないジャンルでも)描くこと自体が楽しくて描けたけど、小説で同じことやったら挫折する自信ある。というか書こうとしてクソも面白くなくて挫折してボツった。

 身も蓋もないが、人気ジャンルなら自分で苦労するより人のを読んだ方がお手軽楽しいってなっちゃう。

 だからランキング攻略をはなからリタイアして、楽しむことを優先してると捉えてもらっても構わない。


「なんだ、こいつマイナージャンル書いてるのを言い訳に自分の実力不足を認めたくないだけだろ。本当は自分はこんなんじゃないはずだとか思ってるんだろう。でも人気ジャンル書いて弾けなかったら、現実を思い知らされるから書かないんだ。ざぁこざぁこ」


 って思ってくれても構わないよ。

 まぁ、自分を客観視し実力不足を認めるのと、自分はまだ伸びるはずと期待するのは両立できるし、そうしないとモチベ維持難しいと思うけどね。

 仙人じゃねぇんだから、自分にはこの先一切の成長はないと思いながら生きるのは難しいて……


 話を戻そう。

 初めからランキング目指す初心者が何故そこまで明確に勝ちのビジョンを描けるのか、俺には不思議なくらいだ。それを羨ましく思う気持ちは確かにある。根本的に、面白いものを人に与えたい、人を動かしたい、そういうピュアな動機が俺には足りないのかもしれない。


 まー俺のことはともかく、そんな感じで、小説の場合は初心者のうちからランキング攻略するのが最大公約数になりやすいのではないか。

 そうすると「好きなもの好きに書いとこ」してる人に対して「周りが見えてない。そのくせ自己顕示欲だけは強い」と見る人が出てくるのも自然の流れなのかも。


 まぁ、それでも深く考えずに書くのを続けるけどね。別に誰にも迷惑かけてないし。書けるようになるの楽しいしな。

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