第14話 噂の発信源の登場!!

 俺はここにきて最大の試練が待ち受けていた。そう、今日俺は初めて、女子を部屋に招き入れるのだ。今までの人生、多少女子と話すことがあっても部屋に招くことがなかった。


 だが、俺はついに、女子を招き入れることになるのだ。


「へぇ、基本的な周りの外装は女子寮と一緒なのね」


「そうなのか?」


 何気なく、さりげなく会話を続ける俺と北条。気づけば俺の寮の部屋の前に到着していた。


「じゃあ、遠慮せずに、どうぞ」


 俺は扉を開けて、北条を部屋に招き入れた。


「おじゃまするわ…」


 躊躇いもなく北条は俺の部屋に入る。


 そんな俺の心境だが、特に感じることはなかった。だって、俺の部屋には特に興味が湧くほどのものなどは置いていないからだ。基本的にはテレビやソファー、一般的な調理器具、ベットぐらいしかなく、つまらない部屋が一番印象に残ると思う。


「想像通り、赤木くんらしい部屋ね」


「それって褒めているのか?」


「そうね、どう捉えてもいいわ」


「あ、そうですか……あっ北条は飲み物何がいい?」


「そうね。この部屋には何があるの?」


「え〜と、ココアとか、紅茶とか、コーヒーもあるけど…」


「じゃあ、ココアをいただくわ」


「了解…」


 俺はキッチで、ココアとコーヒーを用意し、たった一つの机に置く。そして、本題に移った。


「まずは、状況を整理しましょう」


「そうだな」


「まず、私たちは今、監視カメラのデータを手に入れたわ。これで例のアカウントの持ち主を見つけられる可能性が高くなった。そうね?」


「ああ、だけど、今から探すのか?」


「ええ、じゃないと間に合わないでしょ?」


「それはそうだけど……」


 でも、今から探すとなると朝方…いや下手したら明日の夜までこの作業が続く可能性がある。それに、Bクラスの東条さんがあの時、なぜあの場所にいたのかも気になる。


「赤木くんが心配しているのは、東条綾音の接触でしょ?」


「あ、よくわかったね…」


「彼女はかなり勘がいいわ。それによく人の動きを見ている。つまり、彼女はかなり赤木くんのことを警戒していると考えることができるわ」


「お、おう…」


「おそらくだけど、今回の学級裁判は彼女が考えている方向よりかなりずれているじゃないかしら?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!!北条はどうしてそんなに東条さんに詳しいんだ?」


「あっ、そういえばは言ってなかったわね。簡潔に表すなら、彼女とは幼馴染なの…」


 少し躊躇いながらも、はっきりと口にした。


「幼馴染?」

 

 幼馴染か、なるほど。だから知ったような素振りだったのか。納得、納得。今思えば、言動や呼び名、接し方からも、なるほどな。


「そう、だから私は彼女のことに関しては詳しいつもりよ」


「…その地震は一体どこから」


「そんなことはどうでもいいのよ。いい、彼女は思った以上に赤木くんを警戒している。だからこそ、突き入る隙がある…」


 なんとなく、北条の考えがわかった気がする。つまり、北条は俺を東条綾音の障壁として置いておきたいんだ。だって、今回の学級裁判で1番の強敵は間違いなく、東条さんだから。


「赤木くんはいるだけでいい、それだけでも彼女にとって負担だから。おそらくだけど、明日、また彼女はあなたに接触してくるわ。なら赤木くんがやることは明白でしょ?」


 小悪魔のような笑みを見せる北条。初めて見る笑顔に少しだけ恐怖を感じたが、同時に喜びも不思議と感じた。


「鬼か、あんたは…」


「何言っているの?これぐらいしなさい…」


 つまり、俺は東条さんの囮になり、それを逆手にとって、東条さんを封じ込め、情報を与えないようにし、それと同時並行で、アカウントの持ち主を探せってことだな。


 なんとも無謀で、重労働なんだ。こんなのほぼ不可能に近い。だって、もし例の噂が本当だと、知られれば、確実に先手を取られる可能性がある。いやもしかしたら、既に知られているかもしれない。狂っている考えだ、だが実に面白いとも思える。



「俺が東条さんを引きつけている間、北条は何をするんだ?」


「少し、調べたいことができたの…」


「調べたいこと?」


「そう、でもこれはまだ言えない。ただ、もし私の考えが正しいのであれば、大きな切り札に化けるかもしれない、とだけ言っておくわ」


「なんだよそれ…」


 調べたいことか、少し気になるが、それは2回目の学級裁判のために取っておこう。


「じゃあ、そろそろ帰るわ。ココア、もう少し美味しく作れるようにして置いた方がいいわよ?」


「大きなお世話だ」


 そのまま、解散し、やっと俺一人の空間になった。

 俺はカップの片付けをして、新しいコーヒーを淹れる。

 

「そろそろ、拍車がかかり始めている」


 東条の突然の介入に、生徒会長の動向、少しずつだが、動き始めているんだ。クラス同士の戦いが。なら俺がすべきこと決まっている。


 だが、俺にはどうしても、この展開が意図的に作られているような気がしてならない。何かがおかしい、何か、まるで誰かに上から見下ろされているような気持ち悪い感覚。


「そこまでして、表舞台に立たないのなら、俺が無理矢理にでも…」


 前期までの辛抱。前期が終われば、晴れて、普通の高校生活を送ることができる。前期が終われば、北条を見守ることに専念できる。


「そのためにもまずは、アカウントの持ち主を探さないとな。まぁとっくに俺は知っているんだけど…」


 わざわざ監視カメラのデータをコピーしてまで見つける必要などなかった。だって俺は知っていたから。この事件、噂の話が流れた時、すぐに気づいていたから。

 一人だけ、そうCクラスで一人だけ、動揺している一人の女の子。そう相葉京子あいばきょうこ、彼女が例のアカウントの主だ。


「念の為、データの確認はするが…」


 正直、北条には悪いと心の隅で思ってはいたが、これも北条の成長のため。心を鬼にしなくてはいけなかった。人の成長は助けられていては成長しない。自力で考え、そうして、時には仲間に頼ってこそ、成長するのが人だ。


「なんとか前期までに大きく成長してもらわないと……」


 じゃないと見応えがなくなっちゃうからね。




 次の日の朝、俺はすぐに行動に移す。

 放課後の帰りの時間、俺は藍葉京子にさりげなく、話しかけた。


「ちょっといいかな?」

「はいぃぃ!!」


 まるで化物を見たかのような悲鳴をあげる。

 そこまでビビるか?まぁいい、そんなことより…。


「少し話したいことが…」

「ち、近づかないでくださ〜〜〜い」

「え…」


 そのまま逃げ去ってしまった。

 その時間、ほんの数秒、まばたきをした瞬間に……。


「って、ちょっと!!」


 もちろん、俺は急いで相葉さんの後ろを追いかけた。


「はぁはぁはぁはぁ」

「どうして、逃げるんだよ」

「はぁはぁはぁ、うぅ…」


 相葉さんの足が止まった。

 追いかける俺も、相葉さんに追いつくが、かなり走ったからか息が上がる。


 怯えながら、こちらを見つめ、目を合わせると「ひぇ…」っとまた小さい声で

悲鳴をぼやく。


 俺ってそんな嫌われることしたかな?してないと思うけど…。


「ほんの少しだけ、話を聞いてくれないかな?」

「うぅ〜どうして私がこんな目に…」


 本当に大丈夫かな?ちょっと心配になってきた。

 俺はなんとか、話し合わせ、近くのカフェに向かい、話すことになった。


「こ、こんな、陽キャがくるところに……バチがあたっちゃいますよ」


「当たんないから」


「いいえ、絶対に当たります、気配が、呪いが…」


 思った以上に面白い子だ。流石に過剰だとは思うけど、でもこんな彼女もこの天竺高等学校の生徒。どんな才能を持っているのか、少し気になるけど、今は……。


「好きなの頼んでいいよ。無理して付き合わせちゃったし…」


「そ、そんな!!奢らせるなんて、私の良心が許せません。私が払います!!」


 顔を近づけ、迫ってくる相葉さん。

 近い近い!!顔が近い!!


「顔が近いよ、相葉さん…」


「あっ!す、すいません」


 オドオドした様子が見せ、椅子に座り、縮こまり、小動物のような顔を見せる。

 俺たちは互いに飲み物を頼む。そして早速、本題を切り出した。


「それじゃあ、相葉さん。単刀直入に言うけど、今回の事件、現場を見掛けたでしょ?」


「そ、それは…」


 自然と目線を斜め下へ逸らす。

 その時点で、俺は確信した。


「今、一號くんはとても危ない状態なんだ、下手をすれば、退学になるかもしれない。だから、クラスメイトを助けると思って、協力してほしいんだ」


「…で、でも私、全然人前で話せないし、弱虫だし、何もでもないただの無能な私が…役に立つはずが」


「けど、相葉さんは現場を見たんでしょ?」


「……見たには見ました。けどはっきりと見たわけじゃないんです」


「はっきりと見たわけじゃない?」


「そうなんです。見たのは一瞬だけ、話し声は少し聞いたんですけど、それ以外は…役に立たなくて、無能ですいません!!」


 急に謝れた。

 本当に相葉さんは自信がないんだな。北条とは真逆の性格なのが少し新鮮だけど……。


「写真とかも?」


「あっ、一枚だけ、と、撮りました!!…けど……」


「なら、それを見せてくれないかな?」


「い、いいですよ…」


 相葉さんはスマホを取り出し、写真を俺に見せる。

 その写真を見て、俺は驚いた。


「こ、これって…」


「あ、あの〜〜どうしたんですか?」


 これは間違いない。となると、やっぱり勝負どころは3回目の学級裁判だな。


「あ、あの〜〜〜あの〜〜〜あの!!」


「はい!!何かな?」


 耳元で叫ばれ、心臓が跳ねるかのような衝撃を受ける。


「あ、いえ、ボ〜としていたので」


「あ、ごめんごめん。……よし!!決めた!!相葉さん、ちょっと頼み事があるんだけど…」


「な、なんですか…」


 少し怯えた様子を見せる相葉さん。そんな相葉さんに俺はとあることを頼むことを決める。俺の独断だけどきっと北条なら許してくれるよね。


「明日、2回目の学級裁判があるんだけど、その証人として出てほしいんだ」


「え…無理です」


 即答だった。だが俺は諦めない。


「人助けと思って!!」


 俺は強く、相葉さんの手を握りしめる。強く、思い込めて、決して目を離さないように、強い眼差しを向けた。


「あ、あの〜そんなに見つめられると、て、照れちゃいます」


 少し力が抜けた声、少し甘く、相葉さんから出る声と思えないほどの美声。

 相葉さんってそんな声も出るんだ。


「って、ごめんごめん。……もう少し、身の振り方を考えないとな…」


 こんな調子じゃ、逆に嫌われかねないし。気をつけよう。


「あ、あの頑張ります!!」


「え、出てくれるの?」


「あ、いえ、その、チャンスだと思ったので…」


「そ、そうか、ありがとう、相葉さん」


 俺らしくはないが、笑顔で礼を告げた。


「あ、そのさん付けはやめてください」


 なぜか少し頬が淡い相葉。

 俺はそんなことも気にせずに返事をした。


「うん。わかった」


 相葉の前では笑顔が良さそうだ。



「何をしているかと思ったら、こんなところでデート?いや、もしかしたら、作戦会議かも……まぁどっちでもいいか。明日、楽しみにしているよ、奏馬くん」


 裏で観察していた東条綾音。


 2回目の学級裁判まであと1日。

 果たして、学級裁判の結末はいかに!!



ーーーーーーーーーー


『公開情報』

特になし 





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