第9話 1回目の学級裁判

 生徒会長の立ち合いのもと、一言で学級裁判が始まった。


「それでは、まず被害者からの証言をお願いします」


「はい…」


 学級裁判の初めは被害者と加害者の証言から始まる。そこでまず事件の詳細と矛盾点を明らかにするのだ。



「俺は1年B組の有馬京介、サッカー部に所属している。暴力を受けたのはコンビニの近くにある人気ひとけのない廊下だった。俺はサッカー部での一號の態度が気に食わず、我慢の限界にきて、その不満をぶつけちまった。一號は部活内でもかなりの優秀な選手だったけど、キャプテンのいうことも聞かず、ただ無鉄砲に攻める暴君で有名で、俺はそれを注意しようと思い、人気のない廊下で仲間の大切を伝えようとしたのに、こいつは突然、俺に殴りかかってきて…」



 京介が証言している途中、一號は片足を机に叩きつけ、怒り狂った表情をあらわにする。


「ちょっ!!お前、嘘を〜つくな!!」


「一號蓮也!!今は有馬京介が証言する時間だ。私語は慎め…」


 生徒会長の重く、圧のある声に一號は怯む。


「証言を続けてくれ」


「それで対抗する術もなく、俺の体を…満足するまで殴り、蹴り飛ばし、叩きつけたんだ。俺からの証言は以上です」


「ふん。では次、一號蓮也からの証言をお願いします」



「おうよ!!俺がコンビニで買い物をしていた時、突然、こいつが話しかけてきやがった。俺はこいつが「ここでは人目につく」って言って、さっきこいつが言った、コンビニの近くにある人気のない廊下に連れてこられた。そしたらこの野郎、俺のことを煽りやがったんだ!!「お前なんて、がたいが大きいだけしか取り柄がない脳筋やろう」ってな!!それだけじゃねぇ、こいつは俺の頭にくることをベラベラと喋りやがって、でも俺はその怒りを抑えて、拳一発で済ませてやったんだ!!」



「なるほど、つまり一號蓮也、君は最終的に彼に危害を加えたと?」


「ああ、ただしだけだ。こんなにボコボコにはしてねぇよ。俺は確かに短気だが、そこまで馬鹿じゃねぇしな」


「ふん。なるほど…」


 この議論、今の話を聞く限り、ほぼ一號が悪いのは明らかだ。だって危害を加えたことを認めているから。だが、どうやら今回の学級裁判の肝はそこではないようだ。


 この議論の本題は、「ここまで危害を加えていない」という一號の発言だ。


 相手側は「何度も殴られ、蹴られ、叩きつけられた」という証言に対して、こちら側は「拳で一発だけ殴った」、これは明らかな矛盾点。


 相手側の証言とこちら側の証言、どちらかが真実で嘘なのだ。この真偽で一號の受ける懲罰は全くもって変わってくる。


「おい、北条…北条…北条?」


 いくら呼び掛けても、返事がない。


 ふと隣を見ると、怯えているようだった。表情が固く、まるで石のような表情で体を震わせ、それをに右手で左手をさする仕草が見えた。


 これは、学級裁判に集中している場合ではなさそうだ。


「今回の事件に関しての詳細は把握しました。それでは代表者2名、何か証拠、もしくは質問はありますか?」


「それでは私から質問してもよろしいですか?生徒会長…」


「ああ、東条綾音」


「一號くん、一つ質問するよ」


「おう、どんどこいや!!」


「元気がいいんだね。まず、今回の発言、一発しか殴っていないというけど、それは本当なのかな?」


「ああ、間違いなく、一発だ!!」


「けど、人というのは怒りに対して制御が難しい感情、一號君は京介くんの発言に「頭にくること」を言われたということはそれなりに怒りを覚えたはず、そんな一號君が一発だけ殴るだけで満足するとは考えらない」


「だから!!俺は我慢したんだよ!!」


「そうね。そう言うと思って、一號くんの日頃の行いをサッカー部のみんなに聞いて回ったの…真也くん、話してあげて…」



「はい。一號蓮也、サッカー部所属、期待の新人として一躍頼られる存在だったが、それはたった1週間で終わりを迎えたようです。最初はノリの良いやつという認識だったが、一號蓮也は部活に慣れるにつれ、暴力的になり、その発言も目立つようになった。そして一號蓮也は実際に先輩は同僚に対しての暴力が確認されています。それを踏まれば、我慢することなんて到底できないと判断します」



「そういうこと、今回の件、監視カメラがない以上、周りの生徒の証言が最も重要視される。生徒会長!!私は一號くんに厳しい罰が必要だと主張します!!」


「な!!違う!!俺は本当に!!」


 一號の動揺が垣間見える。完全に流れは、Bクラスへ、相手の先制攻撃がダイレクトに受けるCクラスだった。


 何より、一號の日頃の行いがこの学級裁判の足を引っ張っている。条はいまだに体を震わせている以上、役には立たないだろう。


 ここは俺が出るしかない。


「ちょっと待ってくれ」


「…君は確か、赤木くんだったかな」


「東条さんの発言に関しては確かに否定できない部分が多い」


「おい、何言ってんだよ、赤木…」


 動揺した表情を見せる一號だが、俺は気にせず発言する。


「だが、それはあくまで君達の調査での話だ。みんなに聞いて回ったのなら、その調査書はちゃんと信憑性があるものなのかな?」


「ええ、もちろん。ちゃんと信憑性のあるものだよよ。なんなら今、この場で見せてあげようか?」


「いや、必要ない。だが一つ聞きたい。その調査書はサッカー部の部員から聞いた話をまとめたものか?」


「ええ、そうだけど…」


「じゃあ、あの時、現場にいた、もしくは近くにいた生徒には話を聞かなかったわけだ…」


「んっ!?」


「それはいささか、おかしくないか?なぜ現場にいた、もしくは近くにいた生徒に話を聞かなかったんだ?普通はそっちを優先して調査書を作ると思うんだが…」


「それは…」


「確かに、赤木奏馬の発言には一理ある、どうなのかな東条綾音?」


 少し戸惑いの表情を見せる東条。


「確かに、そこらへんはまだ調査しておりません」


「ふん。ならまだ判決は下せないな。もし一號蓮也がサッカー部で評判が悪かったとしても、それはその部活内のイメージがあっての発言になる。それは偏見も混じった発言と捉えることもできる。それでは今の調査書に信憑性は全く感じられないと判断する。異論はあるか?」


「いえ、生徒会長の言う通りかと…」

「………」


「ふん、では今の状態では判決できないと判断し、次に持ち越すことにする。次の学級裁判は3日後の今日と同じ時間に行う決して忘れないように。以上、これにて1回目の学級裁判を終了とする」


 そのまま立会人は会議室を出て行った。一號もイラついた様子を見せながら、会議室から出ていく。 


「おい、北条、大丈夫か?」

「ええ、大丈夫よ」

「明らかに大丈夫そうには見えないが…」

「そう見えるかしら?」


 明らかに様子がおかしい。


 活気もなく、強がる姿勢も見せない、今の北条はまるで怯える子鹿だ。一体何に怯えているんだ?


「久しぶりだね。璃ちゃん…」


 まるで友達かのような語りかけてきたのはB組の東条綾音だった。誰もが見ても、美人だと思うほどの美貌とスタイル。彼女が投げかける自然な笑顔はみんなが見惚れてしまう。


 しかも、みんなにも優しく平等に接する広い心は、その姿を見て、みんなが彼女に従う。


「東条さん…」


「ひどいな〜〜昔は綾音ちゃんって呼んでくれてたのに、やっぱり時間が経つと、人間関係って変わっちゃうんだね」


「あなたの方こそ、十分自信がついた様子ね」


「うん!!自信なら沢山ついたよ!!あなたと違ってね。じゃあまた3日後……いくよ真也くん」


「はい…」


 そのままB組3人は会議室から立ち去っていった。

 

「おい、本当に大丈夫か?」

「ええ、ただ少し……」


 どうやら、東条綾音と北条璃とは何かしらの関係があるようだ。そしてそれが今の北条を生み出している。


 怯えている?いや、怖がっている?違う、全て違う。だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 今回はなんとかなったけど、次の学級裁判では確実にBクラスが強力な一手を用意してくるはずだ。なら、俺たちCクラスもそれを凌駕できる一手を用意しなくてはいけない。


 時間はたったの3日、それまでに……。


「北条、このまま無理になら代表を交代してもいいぞ」


 この状態の北条じゃ、この学級裁判には勝てない。だったら、ここは一旦引いてもらうのが北条のためだ。

 

「いいえ、大丈夫よ。次からはちゃんとやるわ」

「本当に大丈夫か?」

「何度も言わせないで」

「……そうこなくっちゃな」


 とはいえ、ここから証拠を集めたところでB組と同じ結果になる可能性が高い。それでは自分の首を絞めるのと同じだ。


 この不利的状況をどう覆すか……。


「それで、リーダーこれからどうする?」


「リーダー呼ばわりしないでくれる?私はリーダーになったつもりはないわ」


「ああ、そうだな。で?」


「……とりあえず、現場に行くわ」


「なるほど、了解…」


 どうやら心配無用のようだ。


 目を見ればわかる、まだ怯えは消えていないが、やる気が十分に感じされる。これなら、問題ないだろう。


 こうして俺たちは事件が起きた現場に向かった。



16時に10話を投稿します。


ーーーーーーーーーー


『公開情報』

特になし







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