第7話 ペーパーテスト⑤(終)

 階段先の屋上への扉の前に到着する。


「ここからは俺一人で行く」

「わかったわ。しっかりと見させてもらうわよ。あなたの答え合わせを…」

「まぁ、楽しみにしておいてよ」


 そして俺はゆっくりと屋上の扉を開ける。

 今日は運が悪くも曇りで天気が悪い。

 その成果、目の前にいる菊池先生は今まで以上にピリついている気がした。


「こんなところまで呼び出して、何か用でもあるんですか?菊池先生…」

「赤木奏馬…お前一体何をした?」

「…何をとは?」

「一號蓮也の点数についてだ。それぐらいわかるだろ?」

「あ〜ギリギリだったでしょ?」


 菊池先生は俺に冷たい目線を送る。

 かなり不機嫌な様子だ。


「私が最後に確認した時、一號蓮也の点数は48点だったと記憶している。なのに、今日映し出された映像には点数50点…おかしいだろう?…点数の偽装は退学処分だぞ」


「ちょっと待ってください。誰がいつ、俺が点数の偽装をしたと?証拠でもあるんですか?」


「証拠か…確かに証拠はない。ただ、このペーパーテストの1週間前からかなり手回しをしたそうじゃないか」


「手回し?」


「言ってやろうか?まず一つ目はお前が今回のルールを一部の生徒にしか伝えなかったことだ」


「いいえ、俺は伝えました。全員にね」


「いや、伝えていないさ。だって教室の雰囲気を見ただろう?あの雰囲気は知っている雰囲気ではなかった。そこで一つ推測するなら、伝えてほしいとお願いした生徒が伝えなかった線が一番濃厚だな。いや、それもお前の指示か…」


「なるほど、よく人を見てらっしゃる。で?」


「二つ目は2年生の去年の調査を行ったことだ。正確には木兎杏奈が行っていたが、その指示は赤木奏馬が出していたことはわかっている」


「なるほど。確かに俺は杏奈に調査してほしいとお願いしましたが、それと今回は関係ないはずですよ」


「そして三つ目だ。お前が学園長と接触していたこと…」


 なるほど、聞く限り、厳重に監視されていたようだな。

 あり得ない話ではない、重要人物、もしくは警戒人物の場合、監視をつけることは決して不自然ではないからだ。


 だがこの三つを挙げたところで、確固かっこたる証拠がない。

 つまり今のままだとただの仮説に過ぎないのだ。


「それで、何が言いたいんですか、菊池先生」


「私は考えた、今回のペーパーテストをお前はどう乗り越えるのか、そして私は最悪の答えに気づいた…赤木奏馬、この学校のを使ったな」


 その時、俺の口角が少し上がった。


「裏システムを使えば、証拠なく点数を上げることが可能だ。そしてこの三つの行動も、もし裏システムが関わっているのなら、お前が行った行動も不自然ではなくなる」


 菊池先生は問いただす。

 つまり、菊池先生が知りたがっているのは、俺がどのような手段で点数を偽装し、全員を乗り越えさせたのか。


 だがそれが大きな間違いだ。


「菊池先生、今回、俺がとった行動は全ては前座に過ぎないことを認識してほしい」


「前座だと?」


「確かに、俺はこの学校の裏システムを知り、理解しました。しかし、それを使ったわけではない。俺は最初っから、対策のための事前準備と、もしもの時の保険を用意していただけです」


「それは、どいうことだ…」


「わかりませんか?では答え合わせをしましょう。では答えを出すためにもう一人…北条さん?」


 すると後ろの屋上の扉から、北条さんが姿を現す。


「北条璃…」


 堂々とした佇まいでこちらに向かう北条さん。

 そして俺の隣で歩みを止めた。


「いろいろ聞きたいことがあるのだけど、今は赤木くんが言う答えを聞かせてもらおうじゃない」


「ああ、いいとも。俺が保険をかけたのはペーパーテストのルール確認だよ」


「ルール確認?」


「そう、そもそも菊池先生から聞かされたあのルールが本当にあったのか。そして俺はその確認をすべく、2年生への調査をすることにした。そして俺は今回のペーパーテストが明らかに不自然であることに気づいた」


「不自然?」


「そう、まずこの時期にはそもそもテストを実施する前例がなかったこと。そしてこの学校ではルールを全て開示するというが存在していることも確認している。つまり、菊池先生がやったことはこの絶対ルールに反していることになる。これを学園長が見過ごすはずがない」


「だから、菊池先生が言ったあのルールは嘘だと、判断したの?」


「いや、実際にそのルールはあったんだ」


「え!?」


「そもそもこのテストは学校側で管理されたテストではないことが重要なんだ。つまりこのテストを管理しているのは俺たちより上級生でこの学校の中でもかなりの地位を得ているものに限られる。生徒が作ったテストなら、ルールに従う必要がないからな」


「そうでしょ、菊池先生?」


俺がわざわざ2年生を調査させたのは、このテストの実例を確認するだけじゃない。

この学校で一番地位を持つものが誰なのか探るため、そして張本人に気づかれないよにするためだ。


「なるほど、ご立派な推理だな。だがもしそれが本当だったとして点数の偽装はどうやったんだ?今の話ではとても答えが見えてこないんだが…」


「この学校のシステムには譲渡がありますよね?」


「ああ、確かにあるな。だがあのシステムに点数の譲渡はできないはずだ」


「ええ、本来ならね。だから俺はわざわざ学園長に会いに行ってたんですよ」


「なっ!?それはどう言うことだ!!」



ー数日前・学園長室ー


「君がくるなんて珍しいね。赤木くん」

「学園長こそ、元気そうで何よりです」

「はははっ、ありがとう。で、何かようかね?」


 学園長としての風格、この場にいるだけで普通の人なら緊張で汗が止まらないだろう。


 しかし、俺は顔色変えずに話し出す。


「少し頼み事がありまして、この学校にはシステムに譲渡がありますよね?」

「お、すでに学校のシステムを理解しているのか?ふん、確かにあるが…」

「そのシステムを使い、ペーパーテストで50点を切るものがいれば、その生徒に点数を譲渡させ、調整してほしいのです」

「それはできんな。譲渡のシステムに点数の加算は…」

「そう言うと思い、学園長。俺はあなたにとある提案があります」

「提案だと?」

「ええ、俺のペーパーテストの30点分を引くことを条件に特例に点数の加算をしてほしいのです」

「なるほどな。ふむ〜〜もう一つを呑むなら、承諾しても良い」

「条件ですか…」

「そうだ…」



 俺はとある条件を呑むことで譲渡のシステムでの点数加算を実施した。


「これで、退学者が出ることはなくなる」

「馬鹿げているわね。わざわざCクラスのためなんかに、自信を犠牲にするなんて…」

「そうかな?俺から言わせれば、これは未来への投資にしか過ぎない。いつかしっかりと返してもらうさ」


「なるほどな。飛んだ気狂いだな。赤木奏馬…お前の行動において全てが確信できる情報がなかった。つまり、全部憶測で物事を決めて行動し、そしてその憶測が当たっていたと…お前は相当狂っている」


「褒め言葉として受け取っておきますよ。菊池先生」


「ふん。せいぜい上に上がるために頑張るんだな。こんなテスト、我々が用意する試練に比べれば、楽な方だ。絶対に油断するなよ、二人とも…」


 そう言い残し、菊池先生は屋上の扉を開けて出ていった。

 屋上には俺と北条さんの二人っきりになった。


「ふぅ〜やっと終わったぁぁ〜〜もう本当に大変だった」

「ねぇ、赤木くん。私、どうしても腑に落ちないことがあるわ」

「うん?」

「今までの話を聞く限り、三つ目の行動以外、意味がないように聞こえるのだけど…」


 北条さんの顔をチラッと覗く。


「たとえ、今回の隠されたルールが嘘であれほんとであれ、点数の加算が成立したのなら、三つ目の行動以外、無意味なはず。なんで赤木くんはわざわざ遠回りしたの?」


 北条さんはわかっていない。

 俺は言ったはずだ。これは先生側が仕掛けたテストではないと。

 それがどういうことか、つまりこの学校の生徒であれば、俺たち下級生に試練を与えることができるということ。


 これからももしかしたら、突然、テストを仕掛けてくるかもしれない。

 だから、俺はわざわざ、仕掛けた《相手にわかるよう》に行動したんだ。


「北条さん、今の行動が全て今のためにやっているとは限らない。全ての行動に疑問を持てってね」

「……どいうこと?」


 今の北条さんでは理解できないだろうけど、大丈夫。

 2年生になる頃にはきっと理解できるようになっているだろうから。


「まぁ、そんな気にする必要はないよ。ただ一つだけ疑問に思ったことがある」

「…疑問?」

「ああ、杏奈さんだ。なんで退学のことを知らせなかったんだろうな」

「え?赤木くんが指示したんじゃないの?」

「いや、俺はしっかりと伝えてほしいと伝えたよ。つまり杏奈の単独行動だったわけだ」

「それは、なぜかしら…」

「気にすることはないよ?杏奈には杏奈の考えがある。もしかしたら、それが最善の選択だって判断したのかもしれないし…」


 だが、今の状況と情報でそう判断するのは少し違和感がある。

 だって、もし退学のことを言えば、みんなのやる気を促進できる可能性があるからだ。


 その考えがあれば、ほぼ間違いなく言うはず。

 つまり、杏奈は俺が持っていない重要な情報を持っていて、だから伝えなかった。

 もしくは、どんな状況であれ、伝える気がなかった。

 う〜ん、どちらもあり得る話だ。

 まぁ、次の試練を迎えれば、わかるだろし、そこまで心配する必要はないだろう。


「おっ、もう空が暗くなり始めてる。俺たちも帰ろうか」

「……そうね」



 俺と北条さんはそのまま帰った。

 その時の北条さんはなぜか、ずっと俺を睨んでいた。



 ー誰もいない1年C組の教室ー


 菊池先生は片手でタバコを吸いながら、窓越しの光景を眺めていた。

 ペーパーテストが終わり、ひと段落、なんとか私のクラスから退学者が出なかったことはとても喜ばしい結果だった。


「……今回の生徒は優秀のようだ。前回の生徒と比較にならないほどに…このクラスなら、狙える」


 今回のペーパーテスト、菊池先生は退学者が出ると思っていた。

 生徒に威勢を張り、退学者が出ないように協力を促したが、期待は全くしていなかった。


 けど、彼は成し遂げた。

 祝福の一服を味わう。


「ああ、今日はとても喜ばしい…」


 赤木奏馬、彼は使える。

 このクラスを上へと引き上げる要となる重要な存在となると確信している。

 彼の過去の経緯がどうあれ、私の目的のためにも上がってもらわないといけない。

 そのためなら私は……。



 明日から、他クラスとの競争が始まる。

 そこでどう彼が動くのか……。


「実に楽しみだ…」


 不敵に笑みがこぼれる。


「やはり、今日は格別にうまいと感じるな…」



 そしてのこのペーパーテストの結果は生徒会長の耳にも入っていた。

 その結果を聞き、西条斎はクスッっと笑った。


「西条会長?」


 茜は心配そうな表情で会長の名前を呼ぶ。


「どうやら、退学者は出なかったようだな。そして、あちらは私を警戒しているようだ」


「それは一体どういうことですか?」


「ふん。気にするな。どのようなことをしても、下級生と争うことはないからな」


「はい?」


 茜はどうやら、私の言葉の意図を理解できていないらしい。

 だが、それも当然だ。

 彼は何も証拠を残さず、私に伝えたのだからな。


「いいだろう。せいぜい、貴様が踊る舞台を見学させてもらうよ」


 あかねからの報告書には学園長からの連絡も入っていた。

 その書類には学園長の筆跡ではない書類、いや、手紙が入っていた。


『このメッセージを見ている者はきっと今回のテストを実施した者だろう。一つだけ言っておく。関わるな。これは俺たちの競争戦。上級生が関わるものではないことはあなたが一番わかっているはずだ。あとなしく観戦していろ』


 今年の新入生は大物が多いらしい。



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ーーーーーーーーーー


『公開情報』

・この学校には裏システムが存在する。

内容不明


・学校側以外の一部の生徒には先生側が持つ一部の権利を保有することができる。

内容不明


・絶対ルールの存在

先生側が絶対に守らなくてはならないルールのこと。


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