悪党には飯をゆっくり食べる権利もないのです。

 まぁ、これはダメね。

 自己紹介が一通り終わってすぐの事。 

 あたしは今回の合コンを諦めた。

 

 一つ言っておくと、ダメな理由の根本的な原因は彼ら自身には無い。

 想定外の問題が発生したのだ。


 あたしがその問題に気づいたのは、男性陣の自己紹介の途中。

 客の中にいてはいけない人物を発見してしまったのである。


「どうしたの、ドーラさん。

 顔色悪いけど」


 あたしの変化に気づいたのか、主催の男性が声をかけてくる。

 さりげなく肩に置かれた手を、私はそっと払いのけた。


「ごめんなさい、今日の合コン、ここで失礼させてもらうわ」


「えぇっ!? そりゃないよ!

 あと10分だけでも……」


「まだ自己紹介が終わったばかりじゃないか!

 今日は君が来るって聞いたから参加したのに!」


「帰りはウチの馬車で送ってゆくから、もうちょっとだけ何とかならない?」


 あきらめの悪い男たちはなおもあたしを引き留めようとしたが、出来ない事はできない。

 ほんとうにね、あたしだってこんな終わり方は嫌なのよ!

 結婚相手の候補が見つからないのは仕方がないとして、せめて食事とおしゃべりぐらいは楽しみたかったわ!


「あら、残念ね。

 でも、体調不良は仕方がないわよね」


「申し訳ないけど、あたしたちだけで楽しませてもらうわ」


 これはこの合コンで一緒に参加することになった知らない女たちである。

 心の中では万歳三唱しているくせに残念がるフリ。


 しかも、わざと隠しきらないあたり性格が悪いわね。

 でも、この場から消えるのはあたしではないのよ。

 

「ねぇ、どうしたのドーラちゃん?

 いきなり帰るなんて言い出してぇ」

 

「ステファニーちゃん、右側の席。

 そう、3テーブル向こうに座っているサングラスの男、見覚えないかしら」


 私がわざと指をささず、問題の人物と視線を合わせないようにして視線を誘導すると、ステファニーちゃんの体が一瞬こわばる。


「うわぁ、今度はそう来ちゃったのねぇ。

 これはお仕事しないといけないわぁ」


 この反応、どうやらあたしの見間違いではないようね。

 はぁ、とてもとても残念だわ。


「じゃあ、ステファニーちゃんはこの人たちつれて店の外へ。

 あと、あいつらに連絡おねがい」


「あー、連絡は必要ないわよぉ。

 ほんと、邪魔なのか便利なのかわかんないわぁ」


 おや?

 なんか意味の分からない事を言い出したわね?


「まさかあたしとステファニーちゃんだけで片づけるの?

 楽勝だとは思うけど、後片付けが面倒よ?」


「うーん、とりあえずドーラちゃんは何も知らなくていいと思うわぁ」


 なんというか、ほんのりと馬鹿にされたような気がするけど、今はそんな事を追求している場合ではない。

 って、ドーラちゃんどこ見ている野?

 ……あ。


 彼女の視線を追うと、客の中になじみ深い顔があった。

 ちょっと、なんであんた達がここにいるの!?


 しかも、一人や二人ではない。

 騎士団の連中が客のフリして10人以上はこの店にいる。


 ちょっと、いまさら視線をそらしても無駄よ。

 さすがに私服姿になった程度で見間違いはしないし、あんたたち全員顔が目立つのよ!


 しかし、これは確かに応援呼ばなくていいわね。

 この様子だとどこかにマウロ兄が潜んでいてもおかしくはない。

 ……というか、確実にいる。

 いくら妹分が男と会うからと言って、こんなところにまで付いてくるのはマナー違反だと思わない?


「ねぇ、君たち。

 さっきから身内同士の会話しているけど、そういうのはやめなよ。

 こういう場なんだから、最初はもっとみんなで話さないと」


 あー、事情が分かったない奴が口を挟んできた。

 こっちは真剣な話しているんだから割って入らないでほしいんだけど。


「ごめんね、この合コンは中止。

 何も聞かずにこの店から出てちょうだい」


「は? どういうこと!?」


「ちょっと、あんた何様よ!!」


 あ、ちょっとイラっと来た。

 こいつら、人の言葉をちゃんと聞いてる?

 

「何も聞かずにって言ったでしょ?

 あと、私はこの街のトップで治安に関する最高責任者よ。

 指示に従えないって言うのならば、あまり楽しく事になるわ」


 あたしが視線だけで圧をかけると、ただそれだけで、文句をつけようとした連中はその場にへたり込んだ。

 濃いめのプラーナを当てて制圧するまでもない。


 あー、ダメね。

 この程度でへたり込むような根性だと、合コンでお互いを深く知り合う以前に付き合うのは無理よ。


 だって……死んじゃうもの。

 よくよく考えたら、せめてマレ公に絡まれても死なない程度にはしぶとい男じゃないと、あたしとは付き合えないわね。

 我ながら、ちょっとハードル高すぎるわ。


「じゃあ、あとはよろしくステファニーちゃん」


「しょうがないから頼まれてあげるー。

 ほら、立てる人はそのまま歩いて付いてきてぇ」


 ひとしきり心の中で愚痴ったあと、アタシは料理の乗った皿をもって席を立つ。

 そしてクレームを装って厨房にいるスタッフに声をかけた。


「責任者呼んでくれる?」


「何か問題でも?」


 あたしの表情から何かあったのだと察したのだろう。

 厨房のスタッフではなく、フロアの責任者が横から返事を返してきた。

 その責任者の男に、あたしは身分証明の手帳を突きつける。


「この店の客の中に、指名手配の男を見つけたの。

 ご協力をお願いできるかしら?」


 はぁ……陰鬱だわ。

 なんで合コンの席で、指名手配のテロリストに遭遇しちゃうのよ、ほんと!







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