第12話 冬北斗


 皇子さまは月詠が統べる森の中で永遠の眠りに落ちている、蒼白のお姫さまをどうやって長丁場の戦の渦中から探し出すのだろうか。


 水面には麗らかな月影が波紋を導くように大きく揺れる。


 岸辺に到着すると千鳥がいた。


 水上で安穏に丸まりながら眠っていたのに突然、起きだしてクワアッ、と唐突に鳴いた。


 ごめんね、と小さく謝るとモノクロの朽ち果てた砂時計みたいに丸みを増した月光が水面に混ざり合った。



「ここに来たかったら」


 風情のある寒菊とさくらんぼのような万両、厳冬に多彩さを与える冬苺と侘助と寒椿、常春に向かって耐え忍ぶ、岩肌に群れる枯草の雪ノ下が繁茂した冬紅葉の寒森から甘美な声がする。


 誰なのか、テストの回答を反射的に答えるように答えなくてもその主は分かっていた。



「この幻想的な景色を君と見たかったからここに来たんだ」


 赫奕とした七竈と対比するように白い冴える月光と咲く、玄冬の月明かりが端正な彼の横顔を目映く照らした。


「このまま水の中に溶け込んでしまったら楽になれるのかな」


 私はその憂いに満ちた言の葉に本能的に息を呑んだ。



「こんな綺麗な月の湖に入ってしまいたいよ」


 凍てつく冬の真新しい月を、満を辞して包み込む小夜嵐が頬に染み、白い吐息が頭上へと天国に昇天するかのように昇っていき、冬北斗が高千穂の峰からよく見える。



「何で、高校を辞めちゃったの? どうして、今までそんな大事な事実を私に黙っておいたの?」


 横から月明かりに照らされた、純白な手がわなわなと震えているのが目に入った。


 どうして、こんな一番、尋ねてはいけない切ない焦点を尋ねてしまったのだろう。


「あの写真が父さんにばれたんだ。夏休みに君に話しただろう。僕が知らない男の人と七回交わって、身体が奥へ入るたびに写真をカシャカシャと撮られていた昼下がりを」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る