第2話 神様は微笑まない

 次の日になったとしてもやはり心結の無視は続く。


「辻原さん、プリント出してほしいんだけど……」

「…………」

「辻原さん、ハンカチ落としたよ」

「…………」


 どれだけ話しかけても、心結が良也に対して口を開くことはない。昨日の南月の言葉に少し期待を持ちながらも良也の頭の中は、嫌われているのかいないのか。この二択に悩まされていた。

 

 もし嫌われているのなら、なんで嫌われているのか知りたい。もちろん、人に何か嫌われるようなことをしたのなら誠心誠意謝らないといけないし嫌われているのは正直気持ちが良くない。

 嫌われていないにしても、どうしてここまで無視をされるのか単純に気になるし、もしほかの要因があるならば改善しないといけない。

 

 と、ここまで思考を張り巡らせたところで周りが騒がしくなり、良也は考えるのを一旦やめた。みんなが向いている方向を見るとちょうど担任が白い箱を上下に振っているところだった。


 その後ろにある黒板には30個の四角形の中に順に割り振られた数字が書かれている。


「それじゃあ席替えのくじ出席番号順に引いてけーまだ移動すんなよー」


 良也のクラスでは3ヶ月に1回、担任の提案で席替えをすることになっていた。席替えはくじ制で右の廊下側の席から順に1~30の番号が振られ、くじで引いた席が新しい席になる。


「じゃあ次、仲上」

「あ、はい」


 担任の前に行き、箱の中から1枚の紙を掴み出す。そのまま自分の席に戻り引いた紙を見てみるとそこには『30』と書かれていた。30は窓側のそれも一番後ろの席。

 先生の目に付きにくいこの席はいわば天国。30人全員が引き終わったのを確認して席を移動する。


「お、良也めっちゃいい席引いてんじゃん。どうだ、俺のこの席と交換……」

「しねえよ?」


 良也の前、『29』番の席は誠司だった。


「お、仲上くんいるじゃん! これからよろしくねー!」

「ん、中原か。よろしくな」


 昨日放課後に教室で良也と一緒に掃除をした南月は右斜め前の席、『24』の席。

 

 良也のクラスは6人班が3つ、4人班が3つの合計6つ班がある。良也たち後ろの列は例年通りならば4人班になるはずだ。

 今決定しているのは良也、誠司、南月の3人。あと1人、良也の席の隣に来た人に班員になるのだが、まだこない。


「……はぁ、まだためらってるのかー」


 南月はそうつぶやくと同時に席を立ち、ある人の元へ向かう。


「ほら『心結』、あんたの席『25』でしょ? 仲上くんの隣でしょー?」

「ちょ、ちょっと南月そんなに引っ張んないでよ……」


 良也の隣りにある空白の席。そこに座るのは良也を無視している、辻原心結だった。


「……誠司、ここと席変わりたいって言ってたよな?」

「ん? いや別にここでも良いかなって思ってきたわ」

「……今変わる気は?」

「ない」

「即答かよ……」


 良也の逃げ先は完全に塞がれた。

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