第39話 龐統、ロリについて語る

「シゲン。頃合いだ。空に向かって、叫ぶがいい」


 気は進まんがドリーにどやされたし、策の関係もある。

 空に向けて、大音声で怒りをぶちまけてやろうではないか。


イケメン無罪と誰が言った!フェニックス・バースト


 丸焼きの鳥がたくさん、焼けそうな大きな火柱が上がった訳だよ。

 ワシの口から、出た炎だけどなあ!


 我ながら、実に素晴らしく燃え上がったものだ。

 よいぞ、よいぞ。


「これはよきになっただろうなあ」

「シゲン。少し、燃やしすぎ」

「ワシもやりすぎたとは思うのだがね。加減が出来んのだよ。顔が良いだけで何をやっても許される訳ではなかろうて」

「何の話か?」

「何の話だろうなあ。ふぉふぉふぉ」


 どうやら、ワシは否定的な考えを胸に秘めれば秘めるほどに『燃え上がるぞ! 炎! 燃やし尽くせ! 焔!』になるようだ。

 何とも複雑な気分になるが、利用しない手はなかろうて。


 あれだけ、遠くからでも見やすい火柱を立てたのだ。

 ヴァームフスにと思わせるには十分だろう。

 要は激しい戦いが起こったと分かれば、それでいい。


「シゲン。本当にうまく、いくのか?」

「いくだろうよ。ドリーから、聞いた話が真実であればという仮定の上に立っとるから、いささか賭けに近いところもあるがね」

「ロリの噂は有名。可愛い。きれい。美しい。全てが好き」

「ほとんどの人間がそれ、好きじゃろ……」

「大丈夫。問題ない。ウルリク。イケメン。怪我したイケメン。破壊力大」

「うん? ドリーさん。呪文かな? 何を言っておるのかな?」

「シゲンは分からなくてもいいこと」

「あっそ」


 よく分からんが、ワシの見立てた策に問題なしということか。

 そう考えておくとしよう。

 ドリーと下手に議論を交わすと論破されるのではなく、惑わされるからなあ。


 ヴァームフスの領主には目に入れても痛くないほどに溺愛している一人娘がおる。

 それがだ。


 中身の問題はさておいて、ドリーは間違いなく美がつく少女だろう。

 フリンフランシス殿の娘のブリギッタも美少女で間違いないはずだ。

 あれも中身は置いておくとしよう。

 色々と残念な子だが、エーリクともども教えがいのある生徒と思えば、矯正も出来よう。


 さて、本題のロリとやらだが、それはもう絶世の美少女だそうな。

 あまりにも美しすぎ、眩しくて直視すら出来ん! というのはさすがに大袈裟だと思わんかね?

 誇大宣伝にも程があるだろうて。


 何でも一番の自慢はその長い金色の髪らしい。

 あまりにも長く、大広間にいるのに髪の先が扉の所に届くほどだと言う……。

 大袈裟を越えて、誇張にも程があるとは思うのだがところが怖いのだがなあ。


 何といってもワシの考えを遥かに超える出来事ばかりが起こっておるのだ。


 とにかく、そのロリがドリーの言う通り、『イケメン』とやらに弱いのであれば、ウルリクほど適任はおらんだろうよ。

 これに間違いはない。

 策は入念に説明した。

 何度も復唱させたので抜かりはない。


 ありきたりの策ではあるだろう。

 古来より、使い古された手とも言えるのだが……。

 良くも悪くも素直すぎるのだよ、この地の人々は!


「あやつらはまだ、やっとるのか」

「シゲン。脳まで鍛えるとああなるのか?」

「残念ながらなあ。なるのだよ。ありゃあ、不治の病だ」

「そうか」


 ワシの吐いた炎の渦にほとんどの兵が呆気にとられ、動きが止まった。

 だが二人――エーリクとハクヤク・ドラゴンと名乗った男は、戦うことを止めようとすら、しなかったのだ。


 まるで昔から、知っている友と力を試すかのように刃を交えるとでも言おうか。

 そんな楽しそうな雰囲気を醸し出しておるのだよ。

 やれやれ、だなあ。

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