第13話 龐統、暗雲を認識する

 何とも不本意ではあるが、またもや強制的なお休みをいただいた訳だよ。

 これで何度目だろうね?


 今回のお休みではいつの間にやら、着替えまでされている。

 どうやら、知らない間に湯浴みまでさせてくれたということか。

 何とも手間を掛けさせて、すまないなと少しくらいは考えておるよ。


 だが、元はと言えば、ワシが悪いのではない。

 不必要にワシの意識を刈り取るのが悪いのだ。


 一度目は話も聞かずに問答無用で脳天一撃による意識喪失及び頭部打撲。

 二度目は単なる善意と無自覚での抱擁による意識喪失。


 ワシに過失はあるのかね? ないね!


「シゲン。キゲンを直せ」

「シャレか。シャレなのか、それは」


 また、目を逸らす露出狂幼女ドリーである。

 ワシを励まそうとしているのか、ハゲを増そうとしているのか、どっちなんだ?


「ハゲを増す……ひっーひひひひっ」


 ドリーさんよ。

 お前さんの笑い声が脳天一撃よりも怖いんだが。


 しかし、この娘のお陰でワシが気を失っている間に大方の情報を集めてくれたのだから、あまり邪険にも出来まいて。


 まず、待遇は前回よりも良くなっていることは間違いない。

 湯浴みの件もあるし、頭部の手当てもしっかりとされている。

 それだけではなく、ワシの体格に合う服まで用意してくれた。


 脳天の一撃の際に聞こえた『トロル』という単語もどうやら、この地方の伝承にある妖精と呼ばれるあやかしの一種のようだ。

 善良な妖精だが、悪戯好きでも知られ、見た目が小柄な体格で丁度、ワシのような体つきにのっぺりとした顔をしているのだとか。


 それは間違えられても仕方あるまい。

 ……などと言えるほど、ワシは心が広くないのだよ。




 一撃の犯人の名はウルリクといい、何とモーラの町の兵団で重要な副団長の地位にある青年だった。

 本人が謝罪しにやって来た。

 やって来たのだが、あそこまであからさまに渋々とやって来させられたと分かる者は滅多にいないだろうよ。

 それもそうであろうと頷かざるを得ん。


 腫れあがり青紫になっている両目の周り。

 真っ赤に膨れた両頬。

 ボサボサにもつれた髪。

 かなり手酷く、教育をされたようだ。


「どうもすいませんでした!」


 ワシと目を合わせずに明後日の方向を剥き、目を大きく見開くと耳がおかしくなりそうな大音量でこれを言いおった。

 全く、心が籠っていないどころか、逆にワシの方が怒られているみたいなんだが?

 謝罪とは一体と思いたくなるところだが、ワシにも思うところはある。


 このウルリクという青年。

 髭殿関羽と同じような性質かもしれぬと思い至ったのである。

 かの髭殿は義侠心に篤い出来た御仁ではあったが、いかんせん性質に厄介なところがあった。


 強きを挫き、弱きを助けるのはいい。

 しかし、髭殿は場の雰囲気を全く、考えない言動が多いのだ。

 要は空気を読まずにとんでもないことをしでかす。

 それが髭殿であった。


 ワシの見た目が『トロル』なので認めたくないということなのだろうよ。


「あいてっ」

「ウルリク。先生に失礼じゃない」


 ウルリクのヤツが急に涙目で悲鳴を上げたと思ったら、どうやら一緒に来ていたブリギッタに思い切り、足を踏まれたらしい。

 このブリギッタという娘もまた、いささか、面倒な御仁ではある。


 領主の一人娘であれば、大事にされてしかるべき存在であろうになぜ、あのような場所にいたのか?


 全ては絡み合った複雑な事情があってのことだった。

 情報を集めてくれたドリーのお手柄ということになるが、微妙に腹立たしく感じるのは気のせいかね?

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