第28話 練習室ではライバルとの戦い

轟ぐるん君は自分が練習生になったことを友達にもクラスメイトにも言わなかった。

彼は絶対に秘密を守るタイプなんだなと感じた。

彼と僕とでは性格も何もかも違いすぎて、学校では気軽に近寄れない存在なのに、この練習室ではただの練習生にすぎない事に違和感を感じてしまった。

彼は僕に練習室で笑って英語の中間テストの答案を出して言った。

『なあ、これ見てくれよ才くん。俺の英語のテスト2点だぜ。100点満点中の2点。これから、俺ラップで英語のラップとか作詞作曲するのに、英語がダメなんてあり得るか?あり得ないよな。俺も才くんみたいに努力と才能が合わさっていたら、こんな不器用にはならなかったのにな。すごく残念』

『残念って、ぐるん君は運動抜群でなんでも出来る爽やかイケメンなのになんでそんな僕の方が良いみたいなこと言うんだよ。おかしいだろ。僕を妬むなんて』

彼は髪をかきあげて答案用紙をしまいながら言った。

『分かってないな。イケメンは爽やかなだけじゃダメなんだよ。確かに俺はこのイケメンな顔で受かったことは認める。でも、事務所の偉い人に言われたよ。『君はイケメンすぎる。他に特技があるとこれから光るよ』ってね。だから、光るために俺はBグループに移った。だけど、次の評価で爆弾みたいに破壊力のあるラップ作らなきゃ俺終わりなんだ』

『終わりってどういう事?』

『へっ⁈切られるってことだよ。この事務所は俺が思うよりずっと厳しい事務所みたいでイケメンでも実力で応えないと落とすシステムらしいよ。でも、才くんは違うらしいよ。マネージャーさんがこっそり教えてくれたんだけど、君はブルージーニアスさんに認められたらしいじゃん。いいなー、俺も認められてー。じゃあ、そろそろ本気出して頑張るから3日後宜しくな』

そう言って彼は手を振って練習室の扉を閉めた。

僕も頑張らなきゃと練習室に向かった。

空いている練習室で練習していたら、いきなりラビットボーイさんが入ってきた。

僕とラビットボーイさんは見つめ合い一瞬時が止まった。

そして、ラビットボーイさんははにかみながら言った。

『練習...頑張ってるの、えらい。えっと、3日後緊張するかもしれないけど応援してるよ』

数秒間が空き僕は言った。

『あの、どうしてぐるん君は1週間で結果が出なかったらクビなんですか?』

『えっ⁈それ聞いちゃう?うーん。事務所を大きくしてからね。実力、魅力のある雰囲気、誠実さが必要になったらしいんだ。それで、今離しちゃいけない練習生は才くんだけらしい。でも、じゃあなんでぐるん君が受かったかって言ったら、彼はイケメンで運動神経抜群で誠実な人だったかららしいよ。ただオーディションで彼の実力が未知数だったみたいでまだ彼は練習生というより研究生の立場になるから、3日後のテストが肝心みたいだよ。彼にとっては難しいかもしれないけど、この試練に打ち勝って欲しいよね。じゃあ、練習頑張ってね。喉潰れないようにケアだけはちゃんとしてね』

『ありがとうございます。頑張ります』

僕は深々とお辞儀した。

僕は話を聞いて思ってしまった。

僕がこの事務所にとって特別な存在ならば、絶対にこの存在を維持しなきゃと思った。

どこかで目覚めてしまったのかもしれない。

僕は特別でなければいけないと。

それから、ただ練習するのではなくて鏡を前に歌う曲の意味の理解から歌い方そして誰かが二度見するくらい特別な僕を演じながら歌うようにした。

水の中という曲が水の中で歌っているように、お風呂のお湯の中で歌ってみたりもした。

3日間彼は水の中という曲の意味を考え続けた。

そして、行き着いた答えが自分の意味を歌い上げるという事だった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る