あ丶神様、どうして俺を美少女なんかに・・・・・・

うちゅまる

第1話一般高校生・・・人生終了のお知らせ

ピピピピッ、ピピピピッ、ピピッ、カチッ──


規則の正しいアラーム音がなり、三回目のアラーム音の途中で俺は直ぐに止めた。


「ぐぐぅぅあああ・・・・・・」


暖かなベッドの中で体を丸め、その後猫の如く両手足を伸ばしながらだらしない声を漏らした。

時刻は六時丁度、季節は冬で外はまだ暗く部屋の中も冷えきっていた。

暖かなベッドから出るのに躊躇ってしまうが、それでも朝食や弁当を作らないとダメだと考えた俺は渋々と掛け布団を退かし、ベッドという名の天国から出た。


「うっわ・・・・・・寒過ぎ・・・・・・」


俺は締め切ったカーテンを開け、そのまま自分の部屋がある二階から一階へと階段を降り浴室へと向かう。

朝は寝癖直しも含め、寝ていた時の汗を流すのに必ずシャワーを浴びるようにしていた。

服を脱ぎ、浴室に入ってシャワーを浴びる。

鏡越しに自分の顔を見ると、なんとまぁ普通すぎる顔だと思ってしまう。

もう少しイケメンなら彼女ぐらい簡単に出来るだろうが、生まれてから彼女なんて出来たことも無い。

彼女いない歴イコール年齢的なカテゴリーに入る俺はさっさとシャワーを済ませてバスタオルで濡れた体を拭いた。

シャワー出た俺は学校指定の制服のズボンとカッターシャツを着て、緩くネクタイを締める。

その上から黒色のカーディガンを着てキッチンのあるリビングへと向かった。


───────────


リビングへと来た俺はテレビのリモコンを手に取り電源を入れる。

すると朝から頑張ってニュースを伝える女性が映し出された。

今日の天気やら、気温やらを聞き流しながら俺は手を洗って冷蔵庫から分厚いベーコンと卵を取り出す。

ついでに味噌汁に使う豆腐も出しておいた。

IHにフライパンを置き、中火のスイッチを押してサラダ油を少し入れる。

その間に小さな鍋に水を入れ、水の入った鍋もIHに置きスイッチを押した。

温まったフライパンにベーコンと卵を入れ、そのまま加熱。

小学生でも簡単に作れるベーコンエッグである。

その後は味噌汁を作り、出来た物をテーブルに並べて予め炊いておいた炊きたてのご飯を盛り、自分以外誰もいないリビングで「いただきます」と言いながら俺は手を合わせた。

モグモグと口を動かしながらテレビの内容に耳を傾ける。


『昨日未明、〇〇県にお住まいの〇〇家一家全員が殺される事件がありました・・・』


綺麗な女性が淡々と真顔でスラスラと、紙に書かれているであろう内容を喋っていく。

一家全員殺害・・・・・・もし、もしそんな風だったらこんなに寂しい思いをしなくても済んだかもな。

箸をテーブルに置き、二ヶ月前にこの家で起こった事件を思い出しながら皿を片付けていく。

俺の家族も一人の殺人鬼によって殺された。


家族思いで背中が大きかった父親。

誰よりも慈愛に溢れていた母親。

自分の事を頼りにしてくれる大切な妹。

皺を作りながら笑う笑顔が素敵なおばあちゃん。


俺は当時、部活をやっていて毎日帰りが遅く、夜の八時に帰る事もあった。

あの日、玄関の扉を開けようとした瞬間に妹の悲鳴が聞こえ急いで入ると知らない男が妹に馬乗りになり、何度も何度も何度も何度も手に持っていた包丁で胸を刺していた。


─ズシャ、グチャ、グチュ、ズチャ、ズチュ─


俺は何も出来ず、その場で倒れ込み逃げようとした。

しかし男は俺に気づき、包丁を持って余裕な表情で歩いて来る。

何も出来ない、声すら出ない。

恐怖という恐怖が思考を鈍らせ、逃げるという行為すらも止めてしまう。

あぁ終わりだ・・・・・・俺も死んでしまう・・・・・・。

覚悟して目を瞑り、迫り来る恐怖に怯えているとパァンという乾いた音が後ろから聞こえた。


『はぁ、はぁ、君!大丈夫か!?』

『あ、え?』

『しっかりするんだ!今、応援を呼ぶから!』


シワひとつ無い警官服を来た警察官が男に向けて発砲していた。

勿論、男は即死──脳天を撃たれてそのまま倒れていた。

あの時助けてくれた警察官は少し前に近隣住民から通報を受けて来たらしい。

女性の悲鳴のような声が聞こえたと。

それが母親の悲鳴だと後から分かり、どうしようもない感情が込み上げていた。

その事件から一年と二ヶ月、今の俺は高校二年で独り身というわけだ。

事件が起きる一週間前に爺さんが他界し、相続金を俺の父親が相続した。

そして次は俺が事件で死んでしまった家族の相続金を全て受け取る形となってしまった。

家は事件時に助けてくれた警察官が自分の名義を使ってもいいと言われ、使わせてもらっている。

月々に払うお金は現在進行形で全て俺が払っている。

あの時の警察官には助けられっぱなしで、相続金で親戚と揉めた時も仲介役に入ってくれたり、暫く私の家に泊まりなさいと優しくしてくれた人物である。


片付けた皿を洗っているとリビングにある時計が七時を示していた。

家を出るまで後三十分程残っている。

皿洗いを終え、俺は洗面所へ向かい歯磨きを済ませ洗濯機を回す。

洗濯と乾燥を同時にやってくれるモードを選びスイッチを押して、再びリビングへと戻った。

リビングにハンガーに掛けておいた学校指定のブレザーを着て、マフラーを首に巻き縦長の鏡を見て服装を正す。


「よし、いつも通り」


時計を見ると家を出る時刻の五分前だった。

鞄を持ち、玄関で外靴に履き替えて忘れ物がないか確認する。

よし、大丈夫。弁当も持ったし問題ないだろう。

俺は靴棚の上に置いてある家の鍵を取り、学校へと向かった。


────────────


学校へと向かう道──通学路をこの時期ならではの白い息を吐きながら歩いていると、色んな光景が見えてくる。

それは毎日の様に目にしている光景である。

雪を投げ合う通学中の子供達や雪かきをして歩きやすいようにしている人。

社会を回すが為に日々やりたくもない仕事に勤しもうと出勤する人。

そんな人達を横目に歩いていると、前方を見ていなくてチャラそうな男にぶつかった。


「すみません。・・・・・・前見てなくて」


俺は直ぐに謝罪し、申し訳ないと頭を下げた。

しかし一向に返事がなく、ガムを噛んでいるのかクチャクチャと音を立てながら、俺を睨んでいた。


「は?それだけなん?」

「え、えっと・・・・・・」

「おい見たか?コイツ俺にぶつかっといて言葉だけで済ます気だぜ」


チャラい男は後ろにいる、いかにも不良ですみたいな格好をした三人へと言葉を投げた。


「許せねぇなぁ」

「許せねぇぜぇ」

「許せねぇよぉ」


コイツら馬鹿なのか?と思いつつ俺は低い姿勢を保つ。

ここで変な顔をしては、多分だが問題が起きる。

ここはコイツらの要求を聞いてみようか。

俺は姿勢を正し、チャラ男を見て質問した。


「許してもらうには・・・・・・どうしたら良いですか?」

「そーだなぁ。・・・・・・財布、置いてけよ」


チャラ男は勝ち誇ったかの様にニヤリと笑う。

いやそんな顔されてもキモイとしか言えない。

こんな時、普通の人ならばダッシュして逃げるのだろうが俺は逃げない。

俺はその逆で相手の目をジッと見つめる。

少しでもここで目を逸らせば、俺の負けである。

俺の予想ではこのまま行けば舌打ちして何処か去ってくれると思うのだが。


「なんだてめぇ?睨みやがってよぉ。ぶつかって来たのはてめぇの方だろうが」

「それに対し俺は謝罪しましたけど?財布を置いていけと言う要求が意味わからないんですよ」

「あぁ?てめぇ、ぶっ飛ばすぞ!!」

「どうぞお好きに」


ああ言えばこう言う俺に対して、チャラ男はイライラしていた。

お互いに睨み合っている状態である。

正直に言って俺もイライラしている。何せ登校時間に間に合わなくなるからである。

遅刻するとなんで遅刻したのか、一々と紙に書かされて学年主任に対して色々と説明しなければならないからだ。

そうなるとクラスでは目立つ。

ある程度偏差値の高い高校の為、学生もそこそこ常識のある奴しかいない。

そんな中、遅効した生徒がいれば目立つのも必然だ。


「あぁーむしゃくしゃするわー。一発殴られろや!」


チャラ男の勢いに任せたパンチが俺の顔面を狙った。

俺はそれを避け、チャラ男は勢いに任せた結果か転けそうになった。


「暴力はダメですよ。危ないじゃないですか」

「チッ、うるせぇんだよ。お前らもやれ!」

「ぶっ潰してやるぜ」

「ぶっ潰してやるぞ」

「ぶっ潰してやるばい」


おい、今九州弁言った奴いなかったか?

いやそんな事は後だ。めちゃくちゃ面倒な事になった。

チャラ男がアッパーで俺の顎を狙ってくる。


「死ね!」

「やだね」


チャラ男の攻撃を避けたはいいが、横から蹴りがくるのが見えしゃがんで避ける。

チャラ男の後ろにいた三人の内、一人が蹴ってきたのだ。

四対一という不利な状況。普通の人ならば諦めて逃げるだろうが、こういう状況には慣れている。

俺は中学時代に色々とあり、中学三年間は不良と喧嘩漬けの毎日であった。

その時に呼ばれたあだ名は『殺戮者』。

どれだけの数で挑もうとも、最後には殺戮の後しか残らない。

そんな風に呼ばれていた俺でも、あの事件の殺人鬼相手には何も出来なかった。

でも今は違う。あの時の警察官にみっちりと精神的に鍛えられ、格闘術や剣術なんかも教えられた。

そんな俺がコイツらに攻撃した場合、すぐに終わるのだろう。

しかしそれではつまらないし、俺も運動がてらに遊びたい。

学校に遅刻しても別にいいやと思った俺は、何度も繰り出される雑魚パンチや雑魚キックを避けまくった。

数十分後──チャラ男達はぜぇぜぇと息を切らしながら中腰で膝に手をついていた。

対して俺は悠々と仁王立ちである。

朝から歩道で繰り広げられる喧嘩に、周りの関係ない一般人ですら注目していた。


「諦めたら?そんな雑魚パンチじゃ当たらないぞ」

「調子に、乗りやがって!」

「ここまでやって相手の実力すら測れないとか、脳みそ猿以下だな」

「こうなったら・・・・・・本気で殺してやる!!」


チャラ男はポケットから小型のナイフを取り出した。

おいおい、流石に武器は卑怯だぞ。しかも殺傷能力の高いナイフはやばい。

見た感じサバイバルナイフだろうか。それでも十分に人を殺せるに値する武器だ。

ビュンビュンとナイフが空を切り、何度も俺に斬りかかってくるチャラ男。

もうどうにでもなれと自暴自棄になっているのだろうか?隙だらけで動きも滅茶苦茶だ。

滅茶苦茶なせいで攻撃がしづらい。

何度か避けているとチャラ男は動きを止めて、遠くを見た。

何を見ているのか気になり、同じ方向を見ると若い女性がこちらを見ながら携帯を耳に当てている。

あっ、やばい──そう思った時には、チャラ男は若い女性を目掛けて全力疾走していた。

チャラ男からしたら警察に通報されていると思ったのだろう。

だから口封じにナイフで脅すか殺すか分からないが、どちらか絶対にやってしまう。


「クソっ!なんでそんな余計な事考えるんだよ!」


俺はチャラ男を追いかけた。

幸いチャラ男は足が遅く、若い女性に先に辿り着いたのは俺の方だ。

女性は驚いたように目を見開いていた。


「全力で逃げてくれ!あいつに刺されるかもしれないぞ!!」


俺は若い女性にそう言うと、ドスッと誰かが体当たりしてきた。

ゆっくりと後ろを見るとチャラ男が何かを俺に刺していた。

背中には体当たりされた痛みではなく、全く痛みが引かないぐらいの強烈な痛みが襲った。


「ぐっ・・・・・・まさか、お前っ・・・・・・」

「ひっ、あぁ・・・・・・お、俺は悪くねぇ・・・・・・う、うわぁぁぁぁぁああぁぁ!!!」


チャラ男が一心不乱に逃げる光景が見える。

俺は若い女性にもたれ掛かるように倒れた。

若い女性はそんな俺を抱くように支えてくれている。

若い女性の顔を改めて見ると、ものすごく美人な人だった。


「だ、大丈夫ですか!?血が、ど、どうしよう・・・・・・」

「なんでこんな事に・・・・・・家族の分、まで、生きないと・・・・・・」

「だ、ダメです!目を開けてください!!」


俺の背中にはナイフが刺さっているのだろう。

背中だから見えないが、血で濡れている感触がある。

暫くすると目の前がぼやけてきた。

全身の力が抜け、痛みすら感じなくなって、ただ抱きしめてくれている若い女性の温かさだけが感じられる。

女性が何かを言っているのは聞こえるのだが、ハッキリとは聞こえない。


「今す・・・・・・急・・・・・・が来ま・・・・・・!死ん・・・・・・けませ・・・・・・!!」


俺もなにか言えたらいいが、口を開くことも声も出すことも出来ない。

もしかして、目の前で何度も刺されて死んだ妹もこんな状況だったのか。

意識はあれど、救いの言葉が出ずにそのまま殺されてしまったなんて最悪過ぎる。

ごめんな・・・・・・助けてやれなくて。

喧嘩は強い癖に、殺人鬼相手に何も出来ない弱いお兄ちゃんでごめんな。

俺は世界で一番好きだった妹に謝りながら、意識を深く沈ませて自分から死ぬ事を選んだ。

抗う事もせず、面識のない若い女性に抱かれながら。

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